よくわかる「アルミニウムと健康」基礎知識

地殻を構成する元素の中で、アルミニウムは酸素、ケイ素について3番目に多い元素です(約8パーセント)。自然界ではアルミニウムはいろいろな化合物の形態になっており、鉱物や土壌、水、空気、植物、動物などに含まれています。そして当然のことながら、食べ物や飲み物、水や空気などを通して、私たちは毎日アルミニウムを摂取しています。また食品添加物や医薬品、飲料水の浄化剤などにも、アルミニウムは広く使用されています。金属材料として使われる場合は、目で見てアルミニウムであることがよくわかります。よく知られているように、建築のサッシや外壁、自動車部品、容器や包装材、調理器具などに使われ、日常的に出会うことができます。このように、私たちはだれもがつねにアルミニウムのある環境の中で生活しており、アルミニウムのない環境を作り出そうとしてもそれは不可能です。そのぐらい、アルミニウムは私たちにとって身近な存在なのです。
地殻を構成する
元素の割合

私たちが日ごろ摂取しているアルミニウムの大部分は、食品や食品添加物などに含まれているものですが、そのほかに飲料水や調理器具などからも摂取しています。1日当たりのアルミニウムの摂取量については、地域や食生活によって異なりますが、世界的な研究機関であるWHO(世界保健機構)の報告では、1日あたりの摂取量は2.5〜13mgとしています。
またイギリス、スウェーデン、アメリカなどの研究機関でも同様な報告をしており、摂取量はおおむねWHOと同程度となっています。日本国内でもいくつかの試算の例がありますが、たとえば、加熱調理をすべてアルミ製の鍋で行うようなケースでも、食物からの摂取を主として4〜6mg程度*1と考えられます。
WHOとFAO(国連食糧農業機関)では、多くの動物実験などのデータをもとに、アルミニウムによる人体への影響調査をまとめました。その結果、許容摂取量ADI(Acceptable Daily intake)値、つまり人間が一生摂取し続けても影響のない量として「7mg/週・体重kg」*2と設定しました。この値を50kgの人の1日当たりに換算すると50mgとなり、これだけの量を摂取しても健康に害はないとされています。つまり、通常の食生活ではまったく問題にならないのです。
1日のアルミニウムの摂取量
  1. 「器具・容器包装の健康影響に関する研究」国立医薬品食品衛生研究所(平成9年度報告)などから推計。
  2. FAO/WHO合同食品添加物専門委員会(JECFA)によるアルミニウム許容摂取量。
食品中に含まれるアルミニウムの量

食べ物や飲み物といっしょに体に入ったアルミニウムは、そのほとんど(約99パーセント)が吸収されずにそのまま排泄されることがわかっています。また、わずかに残った分の大部分は腸管を通して吸収された後、腎臓を通って尿とともに排泄されます。
一般に、人体内には35〜40mgのアルミニウムが安定した状態で存在しているといわれ、これはおもに肺、骨などに分布し、わずかに血液、脳などにもあります。しかし、アルミニウムの体内の働きについては、はっきりと解明されていないのが現状です。
日常生活でのアルミニウムの摂取と代謝

アルツハイマー病は記憶や判断力など知的機能の著しい低下が中心的な症状です。
痴呆の進行のステージとして、健忘期(記憶障害)→混乱期(失語、徘徊、精神混乱)→痴呆期(高度の認知障害)があり、全経過は3年から10年以上と大きな差があります。全ての患者が痴呆期まで至るとは限りませんし、健忘期に留まることが長い人もいると思われます。
このようにアルツハイマー病は、進行性の痴呆を主症状とする脳の疾患です。国内外の医学界で遺伝子の異変を主原因と考えて、その発症機序解明の研究が行われていますが、アルツハイマー病の発症の機構は次のように考えられています。
アルツハイマー病発症の機序
  • アルツハイマー病の特徴である老人斑は、β蛋白が蓄積してできるアミロイドβで形成されている。
  • β蛋白は、 APPの異常プロセスによる APPの切断で生じる。
最近のアルツハイマー病関連国際会議の内容を以下に示します。
「第5回アルツハイマー病及び関連疾患に関する国際会議」:1996年7月大阪で開催。42か国、1300人が集まった国際会議においても演題 809件の大多数が「アポリポ蛋白E」及びアルツハイマー病の遺伝子に関する研究報告でした。
「第11回精神研国際シンポジウム」:1997年3月東京で開催。講演の内容は、アポリポ蛋白E及びプレセニリン等の遺伝子要因の研究報告でした。
「第6回国際アルツハイマー病会議」:1998年7月アムステルダムで開催されました。アルツハイマー病に関して、現在実質上最も確立された国際会議であり、1300件以上の研究報告がなされました。その中では遺伝子を中心にした考え方が定着して来ており、アルミニウムに関連したものは1300演題中、日本からの一件を含む数件のみでした。アルツハイマー病に対する決定的治療法の開発はもうしばらく時間がかかるようです。アルツハイマー病の発症メカニズムなど病態が解明されるにつれ、それを抑制する薬の研究及び予防する薬の研究も進められつつありますが、現時点では研究段階であり、実用化されているものはごくわずかです。

透析痴呆とアルミニウム
1972年、透析治療中の患者が、腎臓障害のため透析液中のアルミニウムを尿として排出できず、脳に残り痴呆症が現れたことが報告されました。この後「アルミニウムはアルツハイマー病の原因か」という疑いがかけられました。この透析痴呆は、体内に過剰にアルミニウムが取り込まれた結果起こった症状です。透析痴呆の研究から、アルミニウムを一定量以上取り込むと、腎臓機能障害のある人は神経毒性症状を起こす場合があることがわかっています。またアルミニウム以外のどんな成分でも、たとえば必須元素である鉄でも、注射などによって大量に体内に取り込むと毒性が現れます。
この出来事の後、透析液に改良が施され、現在では透析痴呆の問題は解決しています。もちろん、腎臓機能が正常な人の日常生活ではまったく心配なく、とくに用心する必要はありません。
透析痴呆とアルツハイマー病の違い
痴呆というと、すなわちアルツハイマー病であると誤解されることが多くありますが、これは間違いです。痴呆には脳血管型痴呆、アルツハイマー病、混合型痴呆の3種類があり、アルツハイマー病は痴呆の一つに過ぎません。透析痴呆とアルツハイマー病は、病理学的に見て明らかに違うものであり、またそれぞれの痴呆の症状などをくわしく見ると、違っていることがわかります。
いずれにせよ、過去に透析痴呆の問題があったからといって、アルツハイマー病とアルミニウムを短絡的に結び付けることはできないのです。
アルツハイマー病と透析痴呆の違い

さらに詳しい情報を知りたい場合は「アルミニウムと健康Q&A(監修H.M.ヴィスニスキー氏)」を参照してください。

問合せ先:「アルミニウムと健康」連絡協議会