オサガメの基礎的知識


[はじめに]

オサガメは、英語名Leatherback Sea Turtle(革のような背中のウミガメ)、学術名Demochelys Coriaceaである。

オサガメは、ウミガメの他の仲間とは非常に異なり、全く独立したDermochelyidae種である。 オサガメは、創世記(146-65百万年前)まで遡った時代に、他のウミガメの種から派生している。 初期のオサガメは、他のウミガメと同じ甲を有していたが、時代を追うにつれて背甲の骨が小さなモザイク 片(厚さ3-4mm)の大きさにまで減少した。腹甲の骨は、外回り(周辺)のリング(環状)にまで減少し、 真ん中に数片の骨を残しているだけで、それが繊維組織中に埋もれた状態になっている。外皮は、鱗の代わりに、 油性の皮膚で覆われている。幼体では鱗が体を覆っているが、成体の皮膚は剥きだしたままである。

Las Baulas, Costa Rica
オサガメ保全プロジェクトの海岸
産卵を終えて海へ戻る親ガメ
保護スタッフの見送りを受ける
(leatherback.org)

オサガメは、ウミガメの中で一番大きい。生きている爬虫類の中でも一番大きい。甲長で最大256cm、 体重で最大916kgが記録されている。ひれ(前肢)もウミガメの仲間では最大で、広げると2.7mものスパンがある。
オサガメは、通常冷水の海域で食餌する唯一のウミガメである。オサガメの体の構造は、(1) 油性の皮膚が熱絶縁 の機能をもち、(2) 筋肉で作られた熱を体の中心に伝える循環系があり、この組合せで体温を周辺環境より 18℃も上に保つことができる(変温動物の限界を遥かに超える能力を有する)。体温が高いので、 食物の消化が早く、体の成長も早い。

(Courtesy: D.Perrine) (Courtesy: ORF.org)


[オサガメの世界的分布]

北極と南極を除く、世界のあらゆる海洋に現れている。オサガメの 行動範囲は、ベーリング海、北海、Barents海、Labrador海まで広がっており、 南太平洋ではChileとNew Zealand、南大西洋ではArgentinaにまで及んでいる。
大西洋と太平洋に棲むオサガメには、遺伝的、物理的に若干の差があり、 大西洋に棲む種の方が、太平洋のものより大きく成長する。


オサガメの世界的な分布図
(Courtesy: D.Perrine)


[オサガメの成長]

オサガメの幼体は、他のウミガメよりも大きい。孵化したばかりの幼体は、 直ちに海洋に入り、沖合いまで、少なくとも6日間は泳ぐ。 その後、4年間は、その姿を見ることはない。
オサガメは、1地域に留まることなく、食物を求めて、途方もなく遠くまで、 いくつかの外洋を次々と遊泳してゆく。小さな幼体は熱帯の水域に 留まることがあるが、成体は繁殖期以外に熱帯地方に現れることはない。
寿命については定かでないが、最近の研究で、オサガメは他の種のウミガメ(硬い甲をもつ)よりも、 2倍も早く成長することが分かってきた。最大寿命については、20-23齢と推定されている(少ないサンプルに基づく研究で)。

群がって巣穴から出てくる
子ガメ孵化の様子
渚に向かって懸命に這う
(Courtesy: leatherback.org)


[食べ物]

オサガメは、水中1200mもの深さまで潜れるので、熱帯地方でも冷水域に 到達できる。これだけ海中深く潜れるのは、 水中で長く息を続けられる優れた脊椎動物、 例えばマッコウクジラやゾウアザラシなどしかいない。 熱帯の深い海中では、生物は余り生息してはいないが、 それでもクラゲ、イカ、ホヤ、柔かい体の無脊椎動物 などがたくさん棲息している場所がある。
オサガメの餌の殆どは、クラゲの類と見られているが、水分が身体の95%を占めるクラゲ だけを食べていても、オサガメは非常に早く、かつ大きく成長することができる。 クラゲは蛋白質が豊富である。しかし、オサガメが代謝に必要なエネルギーを得るためには、 毎日自分の体重と同重量程度のクラゲを食べる必要があると試算した科学者がいる。 オサガメは、昼夜を問わず、餌探しに追われているものと考えられている。
生まれたばかりの幼体は、深くまで潜れないので、海表面近くで、日中クラゲ類を捜し求めている。


産卵後の砂かけ
前肢の大きなヒレを用いて
(Courtesy: leatherback.org)
オサガメの卵_典型的な例
フルサイズから卵黄がない小さなものまで
(Courtesy: D.Perrine)


[繁殖]

オサガメの目の中には、小さな骨の中に成長線が刻まれており、 それを調べることで、オサガメが性的成熟に達するのは、 13齢に達した時であることが分ってきた。 性的に成熟した後、メスの成体は、高緯度の冷水域と 繁殖用の熱帯域を往復するようになる。
オサガメは、他のウミガメとは違って、浜辺に上がる海底の斜面が 急な場所を好んで産卵に訪れる。そうすれば、高潮が寄せてくる 場所まで、重たい身体を引きずってゆく距離が少なくなるからだろう。
メスの成体は、2-4年おきに、産卵のための回遊を行っているようだ。 オスの成体がメスと同じ場所まで回遊してきているのか不確かではあるが、 交尾が産卵域の浜辺近くで観察されたことが1-2回ある。 メスは、熱帯地方に到着次第に産卵することが時折あるが、卵が成熟するまでには数週間を要するところから、 交尾が主として他の場所で行われているものと、研究者達は考えている。

メスは、1シーズンあたり、9-10日おきに4-7回産卵する。これは、他のウミガメに比べて、クラッチ数も多く、 産卵のインターバルも短い。卵の大きさは、テニスボールくらいと大きい。そして、産卵する度に、 小さくて卵黄がない卵を一緒に産む。クラッチサイズは46-160であるが、その5分の1から2分の1は、小さくて 卵黄がない卵である。この小さな卵は、産卵の最終段階で産み落とされ、巣の卵の上部が砂でうまくカバーされる (隙間を塞ぐ形に)ようになる。孵化所要日数は、天候次第であるが、50-78日程度である。
産卵場所は、いつもおおむね同じ場所であるが、巣を作る場所を変える傾向も観察されている。 繁殖のための回遊では、Monterey (California)の餌場からNew Guineaまで、9600kmの旅の追跡観測例がある。


Las Baulasにおけるオサガメ生息数推移
1980年代1300頭規模から
1990年代500頭規模に減少
(Courtesy: leaterback.org)
子ガメの旅たち_孵化直後
1週間弱狂ったように泳ぎ続ける
幼体には小さな鱗がある
(Courtesy: D.Perrine)


[ウミガメの保全状態]

オサガメは、トロール漁法や延縄漁法の犠牲になることは少ないものの、 海洋生物が豊かな海での漁獲の影響に曝されている。延縄で、餌に食いつくことは 殆どないが、鉤などに絡みつくことがある。また浅い海域で、トロール網や刺し網にかかることがある。 卵の盗掘と漁業による採捕(溺死)が、オサガメが劇的に減ってきた原因とされている。 太平洋域では、1980年に91,000頭いたオサガメが、2002年には5,000頭以下になったものと推定されており、 絶滅の危機に瀕していると考えられている。

わが国では、2002年夏に、瀬戸内海で産卵が報じられていた。また、数年前に、 千葉県鴨川市でストランディング(死んだオサガメ)が報告されているようだ。 安房博物館(館山)には、近くの海で採捕されたオサガメの標本が展示されている。

なお、James R.Spotila博士によって オサガメ・トラスト(The Leatherback Trust) が創設されており、絶滅の恐れがあるオサガメの国際的な救援のための募金活動を行っている。




Copyright © JOMONJIN
All rights reserved