美術史リンク集

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はじめに

 美術史と密接に関わる学問に、アート・ドキュメンテーション研究がある。これは、実に様々な媒体によって蓄積され、複雑化されがちな美術情報を、的確に分類・整理・保存するための情報科学の一分野で、むろん電子媒体資料も大きな研究テーマとされている。日本でも、司書と美学・美術史研究者の協力の下、アート・ドキュメンテーション研究会が発足し、現在の美術研究の発展に大きく貢献し続けている。

 筆者は18世紀のフランス美術を専門にしているが、所属していた日本大学大学院の木村三郎ゼミでは、研究の過程で、このアート・ドキュメンテーションの方法論を取り入れるよう、常に指導されていた。とりわけ、日々刻々と進化する電子ツールについては、週に一度のゼミの時間に、海外の美術館・図書館を中心とした画像・所蔵文献データベースや、電子書籍などの最新の情報が今でも次々と提供されている。本リンク集は、このような、筆者の研究体験の中で得た貴重な情報が土台となっている。

 ところで、これから紹介する電子ツールは、厳密に言えば、18世紀のフランス美術に限定されるものではない。アート・ドキュメンテーションを重要な方法論の一つとして意識している、あらゆる国・時代の美学・美術史研究が生み出した成果の中から、インターネットやマルチメディアに関わる情報を抽出しているからである。むしろ、幅広さと奥深さを兼ね備えたこれらの電子データベースが、実に様々な研究課題に応用できることを多少なりともお伝えできると幸いである。

T.有用な電子ツールへの入り口
周知の通り、インターネット上で公開されているページは、美術に関するものだけでも、多種多様で膨大な数が存在している。これらの、あらゆる美術関係サイトの概要をつかみ、美術研究に有用なものを探し出すためには、「入り口」となるリンク集の存在が非常に重要となってくる。ここでは、筆者が日々の研究において活用する中で、特に重要と思われる6つのリンク集について紹介したい。

a.フランス国立図書館「
しおり

 Bnfが、800以上のカテゴリーにおいて、有用なサイトを選別し、掲載している。芸術に関連する大項目には「芸術・美術」「建築」「デザイン」「版画(2003年12月現在準備中)」等がある。それらの中から、「芸術・美術Art」の項目を見てみよう。この大項目の中には、「芸術一般」「芸術の現状」「美術館」「現代美術」「デザイン」「美術市場(2003年12月現在、準備中)」の中項目が設けられており、さらにその下に、フランス国内外の文献所蔵データベース、画像データベース、美術機関等、ページが多数紹介されている。そのどれもが、しっかりした選択眼に基づいたものなので、訪ねてみると、ほぼ外れがない。なお、有料のページはここでは取り上げられていない。

b. 大英図書館「
研究調査資料集

 イギリスでは、大英図書館が「研究調査資料集」として、各分野の参考資料やウェブ債とを紹介しており、その中を「芸術と人文科学」→「アート・ガイド」→「アート・インターネット資料」という経路で辿り着く「アート・ウェブサイト」のページで、英語圏を中心とした美術史関係のページ、画像データベース等の多数のサイトにリンクを張っている。

c. 加藤哲弘「美学の部屋美学・美術史関係のリンク集

 海外の図書館が設けているこれらのリンク集の、日本版とでも言えるのが、加藤哲弘氏のサイト「美学の部屋」内に設けられた、「美学・美術史関係のリンク集」である。この中には、国内、海外の美術館、美術関係の大学、研究機関、図書館、画像データベース、各機関の文献サーチエンジンなど、あらゆるサイトの情報がつまっている。また、その分類・整理の方法も明解で、非常に使いやすい。日本で西洋美術研究を行うためのあらゆる電子情報の道標として常に活用できる。

d. ミシガン大学美術・デザイン学科「
美術と美術史に関するあらゆるページのリンク集

アメリカ国内を中心とした美術と美術史に関するあらゆる情報が記載されている。特に、「オンライン・アートにおける画像コレクション」のページは圧巻で、他のリンク集が拾っていないような有用なページも収録している。

e. ウィットコンブ「
美術史に関するウェブ資料

アメリカのスイート・ブライアー・カレッジのウィットコンブ教授が作成したページ。項目が多岐に渡っており、情報量が計り知れなく多い。画像データベースへのリンク集も充実。

f. 木村三郎ゼミ「
西洋近代美術史と図像学の部屋: インターネットによる西洋美術史 情報の検索

 木村三郎氏が、大学院で美術史を学ぶ学生を対象に設けた最新版のリンク集。cの加藤氏のリンク集で取り上げられていない、大学教育機関のサイトも含まれている。数多くのサイトが非常に論理的に分類・整理されているので、初学者には、インターネット時代の美術史への基礎固めとして有効であり、専門家にとっては膨大な情報の中から苦労せずに有用な電子ツールへとアプローチできる点で優れている。一方で、近年、筆者も含め、学会発表者の続いている、木村ゼミの様子と指導方針が記述されている。日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻のホームページとリンク予定。


U.画像・美術作品データベース
次に、個別のサイトについて、紹介していくことにする。便宜的に、これらのサイトのカテゴリーを「U.画像データベース情報」「V.文献情報」「W.美術関連情報」と分類した。

 画像データベースを設けているのは、大きく、a.美術館や大学の美術研究機関等の公的機関か、b.画廊、出版社など商業機関の二つに分類される。両者の違いを述べるとするならば、学術的な視点の有無が指摘できるだろう。例えば、レオナルドの有名な絵画《モナ・リザ》を例に挙げると、a.では作家・作品についての基本情報のみならず、それらの参考文献や、同一主題の作品を探すためのリンクが張られていることがある。一方、b.では、複製品の販売を目的としていることが多いため、作家・作品についての簡単な情報に止まっている場合が多い。

 また、美術史では、図像学の方法論を用いる場合、同一主題の作例を多数閲覧して、概観する必要がある。ひと昔前までは、それらは、実際に海外の美術館に出かけていくか、日本で閲覧できる画集等の書物からしか入手できなかった。しかし現在では、このような画像データベースのおかげで、世界中のどこにいても、このような画像資料が迅速に収集できるようになった。
a.美術館・美術研究所等、公的機関の画像データベース
<フランス>

フランス文化省「ジョコンド

→フランス国内に所蔵されている美術作品約13万8000点(うち2万4000点の画像有)のデータベース。

フランス文化省「アルカード

→1800年から1936年までのフランス国家によって注文され買い上げられた作品にまつわる情報。

フランス文化省「アルシム

→国立公文書館に所蔵されている公文書中の画像データベース

フランス文化省「メリメ

→フランス国内の建築物に関する約16万点の情報。

フランス文化省「パリッシー

→フランス国内の 家具・工芸品に関する25万点の情報(うち、画像は1万点)。

フランス文化省「ナルシス

→フランス国内の1万2千点の美術作品修復記録データベース。修復過程での写真資料10万点あり。

フランス文化省「MNR

→ナチス・ドイツによって強制収容された美術品の画像データベース

フランス国立図書館「オパリーヌ

→フランス国立図書館の画室所蔵の版画、写真資料や、演劇、音楽関係の画像資料データベース。文字情報のみ。

フランス国立図書館「マンドラゴール

→フランス国立図書館所蔵写本資料の画像データベース.8万点.

フランス国立美術館連合「写真事務所

→フランス国立美術館の刊行する図書・カタログ等のために複製写真を撮影する専門機関.作家名、主題名から検索できる.複製写真等の注文も可.約12万点.

リヨン市立図書館「所蔵版画データベース

→版画家、下絵画家、主題等で検索できる。画像が非常に鮮明で、多数の版画作品がヒットする。
<イギリス>

大英図書館「イメージ・オンライン

→大英図書館所蔵資料の画像データベース.

ロンドン市「コラージュ

→ギルドホール図書館版画室と美術館所蔵作品の画像データベース.2万点.
<アメリカ>

サンフランシスコ近代美術館「ティンカー

→美術館が所蔵する11万点の作品のうち、8万2千点が画像データベースで画家別、主題別などで検索できる.絵画、彫刻、版画、素描はもちろん、新聞記事に掲載された挿絵等まで網羅しているのが特徴。

ゲッティ美術館「エクスプロアー・アート コレクション

→ゲッティ美術館の所蔵作品が、画家別、主題別に検索できる。画像資料の質が良い。画家の基本情報も充実。

アメリカ国会図書館「版画・写真オンライン・カタログ

→アメリカ国会図書館所蔵資料の画像データベース.約500万点.
<その他の国>

オーストラリア国立大学「アートサーブ

→時代別、国別、作品のジャンル別など、様々なトピックから検索できる画像データベース。

東京大学「象形文化研究拠点:画像アーカイヴ

→東大の青柳正規氏が中心となり、18世紀に刊行された古代美術の版画集を、スキャニングして公開。ポンペイの遺跡、ピラネージ、『エルコラーノの出土の古代美術』など、18世紀の美術研究とも深く関連する貴重な書物に掲載された全ての版画が閲覧できる。

b.個人・商業機関の画像データベース

ブリッジマン美術図書室「イメージ・サーチ

→1970年初めより美術館等の複製作品を専門に扱ってきた企業。個人ユーザーはサムネイル表示が原則だが、会員登録をすると、さらに充実した検索が行える。

アートサイクロペディア

→画家名、作品名、所蔵機関名、用語別で検索。12万5千点。

ハーデン「アートカイヴ

→作家名別に約2千点の画像が検索できる。

ベルジェ財団「世界美術遺産

→画家別索引.

CGFA 「仮想美術館

→デンマークのガーテン・ジャクソン氏によって構築された画像データベース。画家名索引。

AMICO「美術博物館画像協会

→2002年だけでも10万点の画像データベース。無料使用はサムネイル表示のみだが、登録すればより大きな画像も閲覧できる。

ウェブ・ギャラリー・オブ・アート

→12〜17世紀までの美術作品データベース。

オルガ・ギャラリー

→画家および主題の検索機能付き.8千点.

アート・オンライン

→イタリアのサイト。「アート・ヒストリー」という項目から、画家別・主題別に索引できる。

DNP「 イメージ・アーカイヴ

→大日本印刷による、RMN、ロシアのプーシキン美術館などのデジタル・アーカイヴと提携。

c.その他

アイコンクラス

→同一主題の図像を調査するときには必ず参照されるべき「アイコンクラスIconclass」の項目分類の巻が、インターネット上で検索できるようになっている。書物で調査する前に、このサイトであらかじめどの巻を見ればよいか分かるので便利である。


V.文献・美術図書館情報 各国の国立図書館の所蔵目録を検索するのが、最も数多くの情報を収集できることは、他の学問分野と変わりない。ここでは、特に、美術専門の図書館や、美術に関連して作成された文献データベース等について紹介する。
a. 美術図書館・美術研究所等、公的機関の所蔵目録
<フランス>

フランス国立図書館「オパール・プリュス

→その豊富な所蔵のため、検索結果が、出版史的な資料価値を含んでいる。また、書誌情報の詳細表示には、版画が挿入されているか否かまで表示されるので、閲覧の時には非常に参考になる。最近では「ガリカGallica」(この項目の下記を参照)へのリンクも張られているので、オンライン上で資料が入手しやすくなった。

フランス文化省「フランス美術館管理部美術図書館共通所蔵目録

→フランス国内にある美術館に併設されている図書館の共通所蔵目録。

フランス文化省「アルシドック

→フランス国内の建築物に関する文献データベース.

フランス国立図書館「ガリカ

→所蔵図書の一部をスキャニングし、オンラインで公開。まだまだ資料数は少ないが、17,18世紀の辞典類は充実している。

リヨン市立図書館「オンラインカタログ

→フランス国内でも、市立にも関わらず、パリ国立図書館に次いで評価の高い図書館。14,15世紀に刊行された貴重書も豊富に所蔵している。また、1999年にフォンテーヌ図書館よりイエズス会コレクション50万冊が寄託された。こちらも必見。
<イギリス>

大英図書館「オンラインカタログ

→仏、米の二大国立図書館と共に、押さえておくべきページ。

国立美術図書館「所蔵資料検索

→19世紀を中心に多数の貴重書を所蔵する美術図書館。

ウォーバーグ研究所図書館「所蔵資料検索

→美術のみならず、古典文学、宗教、神話など一次資料に優れる。

コートールド美術研究所図書館「蔵書資料検索

→近年の展覧会カタログなどに優れる。

オックスフォード大学図書館「オリスOLIS(オンラインカタログ)

→ボードリアン図書館を含み、100近くあるオックスフォード大学の図書館の蔵書検索。

英国美術図書館協会「アーリスARLIS

→イギリス国内にある美術図書館協会のメンバーリスト
<アメリカ>

国会図書館「オンライン・カタログ

→フランス国立図書館に匹敵する蔵書内容で、書誌情報が非常に参考になる。

ゲッティ研究所「図書館所蔵目録

→その優れた蔵書数、内容はもちろんのこと、キーワード検索によって、掲載論文や掲載項目のレベルで検索が可能で、非常に貴重な文献目録。
<イタリア>

ヘルツィアーナ図書館「蔵書検索

→ローマにある美術図書館の蔵書検索。

フィレンツェ美術史研究所「蔵書検索

→フィレンツェにある美術図書館の蔵書検索
<ドイツ>

ミュンヘン中央美術史研究所「蔵書検索

→その蔵書内容の充実ぶりと独特の分類法で名高い美術史研究所の検索ページ。
<日本>

横浜美術館「美術図書室OPAC

→展覧会図録、個別研究書を中心に充実。

愛知芸術文化センター「アート・ライブラリー

→展覧会図録、個別研究書を中心に充実。
<その他の国>

国際図書館協会「 美術図書館名簿

→世界中の美術図書館を調べることができる。

b.オンライン書店など商業機関のデータベース.

アマゾン 「 アメリカ」  「フランス」  「イギリス

→サムネイル表示の段階から、刊行年が表示されたり、古書でも買えたりと非常に便利。

ア・ラ・パージュ

→フランスのオンライン書店.アマゾンより検索に時間はかかるが、フランスで刊行された書物であれば、アマゾン・フランスより多数の検索結果が抽出されることが多い。

エイブブックスabebooks

→世界中の書店と提携したオンライン古書店サイト。かなり貴重な古書でも、ここなら見つかることが多々ある。同一タイトルのコピーが複数ある場合、各書店の価格、状態などが一目瞭然で見比べることができる。


W.美術関連情報を探す  
画像、文献以外の美術情報を提供しているサイトは、下記のようなものがある。
.a.美術家について調べる

ゲッティ研究所「美術家人名辞典Union List of Artist Names

→芸術家名の表記については、通常、何通りもの記述の仕方があるが、それらを調査し列記した書物のウェブ版。論文中で用いる前に、これで確認できるので便利。

アメリカ・プリント・カウンシル

→版画作品を、画家や版画家名から探す。検索すると、その芸術家についての項目がある、主要な文献と典拠が示される。
b.美術館について調べる
<世界共通>

世界の美術博物館リンク集

→所蔵コレクションをウェブ上で公開している世界の美術館が検索できる。

ユーロギャラリー

→所蔵コレクションをウェブ上で公開している世界の美術館が検索できる。
<フランス>

ミュゼオフィル

→フランス国内1285の美術館検索
<イギリス>

アート・ガイド

→イギリス国内650の美術館検索。
<アメリカ>

ミュージアムスタッフ

→アメリカ国内1000の美術館検索。
<イタリア>

ムゼイ オンライン

→イタリア国内の美術館検索
<ドイツ>

ノイエ・クンストクバルティア

→ドイツ国内の美術館検索

c.美術用語について調べる

ゲッティ研究所「美術&建築用語類例集


グローブ「ディクショナリー・オブ・アート

→美術に関するあらゆる基本情報を調べるための重要な美術事典Dictionary of Artを、年間使用料を払って契約するとインターネットから参照できる。

フランス文化省「建築用語類例集

→建築用語データベース

 以上、美術史研究に役立つ電子情報について述べた。無論、ここで紹介したものがすべてではなく、類似のサイトも含めると、無数に存在しているのが実状である。こういった膨大な情報の渦に巻き込まれて、研究の方向性を見失わないためにも、Tで列挙したように、これらのサイトを論理的に選別、分類しているリンク集に常に立ち戻ることが重要であると言えよう。             
なお、このリンク集は18世紀学会ニュース第号に掲載した「18世紀美術に関する電子ツールについて−美術史とインターネット−」を加筆・修正したものである。