最大のニュースは近代日本の幕を開けた明治維新、代表的人物は江戸に幕府を開いた徳川家康――。1000年紀の区切りを機に、朝日新聞社が西暦1000年から1999年までの「日本の10大ニュース」と「日本の顔10人」を各界識者5人に選んでもらった。回答者は博物学者の荒俣宏氏、心理学者の岸田秀氏、日本文学者のドナルド・キーン氏、経済企画庁長官の堺屋太一氏、歴史小説家の杉本苑子氏。各氏各様の視点と博覧ぶりを映して、挙がった出来事や人物はバラエティーに富む。同じ選択で評価が異なるケースもあり、歴史解釈の面白さと難しさが浮かびあがった。

日本の1000年10大ニュース


識者5人が選んだ日本の顔10人
家康・信長に支持

 栄えある「日本の顔」第1位は徳川家康。3人が挙げ、19点。ただし、だれも1位にはしていない。これも家康らしさ、か。

 岸田氏はこう見る。「情勢判断力や現実的政治力に優れ、人々に多大の恩恵をもたらす。にもかかわらず敬意は払われてもあまり好かれない英雄がいる。その典型が家康」。キーン氏はもう少し好意的だ。「近寄りにくい人物でしょうが、近世文化の創立者」

徳川家康

織田信長

 2位は堺屋氏イチ押しの織田信長(17点)。「中世的発想を絶ち、兵農分離、楽市楽座、政教分離を推進した影響は大きい。日本にも改革的人材がいたという象徴」と絶賛。岸田氏は別の面に触れ、「慣習を無視して革命的政策を実施。徹底的に能率的な軍事組織を作り、味方でも要らなくなれば滅ぼすという冷酷さを発揮した。戦国時代がこの種の武将を必要とした」。3位はキーン氏と杉本氏の支持を得て能楽師の世阿弥(15点)。「日本の演劇は世界で最も豊か。浄瑠璃や歌舞伎も世阿弥に負うところが非常に大きい」とキーン氏。杉本氏も「人の世のいかなる流れをも超え、能は21世紀までなお生き続けようとしている」と功績をたたえる。ただ、時の将軍足利義満がその美少年ぶりに魅せられたという容ぼうを伝える絵や像はなく、「顔」は不明だ。

 四位は豊臣秀吉や明治天皇、紫式部ら五人を1点差で抑え、源義経(11点)。「志半ばで悲劇的な最期を遂げた英雄の原型」(岸田氏)との見方に、杉本氏は異を唱える。「兄頼朝の政策を理解できず、自滅した武将の一人にすぎない。悪いのは義経を悲劇の主人公に作り替えた後世の能や歌舞伎の作者たち」と。

 ちなみに杉本氏の見解では、答えの10人中6人が負の評価。義経のほか▽後醍醐天皇「正統性を主張したが、真に正統なのは北朝の系列」▽綱吉「生類憐みの令の間、日本中に密告を奨励」▽一休「とんち話は後世の創作。実像は俗よりも俗」▽西鶴「亡妻の兄が西鶴の名で『好色一代男』を刊行。義兄急死後の窮状を、門弟北条団水の筆が救った」▽広重「『東海道五十三次』は司馬江漢の作品が元絵。あまりの酷似に私は仰天した」。

 ユニークさフル回転は荒俣氏。超絶・らち外・破格を意味する「奇」が選択基準という。1位の熊楠は博物奇人。以下順に、雑誌奇人、役者奇人、国学奇人、演劇奇人、平凡奇人、鳥類学奇人、仏教奇人、建築奇人、多才奇人としている。

 順位付けの方法 日本の過去1000年間の「顔10人」について、5人にアンケートをしたのは昨年11月。分野を問わず、重要度順に1位から10位までを自由に挙げてもらい、それぞれ選んだ理由も記入してもらった。1位10点、2位9点……9位2点、10位1点として、出来事・人物ごとに回答を集計。得点順に総合ランキングを決めた。


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