最低賃金の引き上げが「世界の常識」な理由 「韓国の失敗、イギリスの成功」から学ぶこと

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日本での最低賃金引上げに反対の声を上げる人たちの中には、2018年の韓国の失敗例を持ち出す人もいます。この人たちの意見を否定するのは簡単です。

先ほども説明したように、最低賃金を引き上げると必ず失業者が増えるという単純な事実は存在しません。最低賃金は引き上げ方次第で効果が変わるのです。

最近よく言われるようになったのは、最低賃金を賢く引き上げ、経営者がパニックにはならず、ショックを与える程度に引き上げるのが効果的だという説です。アメリカのある分析によると、12%以上の引き上げは危険な水準であるとされています。韓国政府も事前にこの分析を読んでいれば、2018年のように最低賃金を一気に16.4%も引き上げるという、混乱を招く政策を実施することもなかったのではないでしょうか。

韓国の失敗は、いっきに引き上げすぎたという、引き上げ方の問題でした。経営者がパニックに陥り、経済に悪影響が出たと解釈するべきです。

2018年、安倍政権は最低賃金を3%引き上げました。正しい判断です。しかし、このとき、経営者から悲鳴のような抗議の声は上がりませんでした。ということは、この程度の最低賃金の引き上げは、彼らにとってショックですらなかったと判断できます。この程度の引き上げ幅では、まだまだ不十分だったのでしょう。

2019年は消費税の引き上げも予定されているので、最低賃金は少なくとも5%の引き上げが必要なのではないでしょうか。

人件費削減は愚かな「自殺行為」だ

本連載の第1回「『永遠の賃上げ』が最強の経済政策である理由」では、日本経済を成長させるためには、賃上げによって個人所得を増加させるしかないと提言しました。永遠の賃上げを実現し、国民の所得を増加させるためには、最低賃金の継続的な引き上げが極めて重要です。

今の日本の経営者の多くは、人件費をコストと捉えて、下げることばかり考えています。人口が増加しているのであれば、その考え方に強く反対はしませんが、人口が減少しているときに人件費を下げるのはご法度です。人口が減る中で人件費が下がれば、個人消費総額が減り、回り回って結局は経営者自身の首を絞めることにもなるのです。まさに自殺行為です。

私が常々強調しているように、日本経済は人口増加のパラダイムから、すでに人口減少パラダイムへとシフトしました。そのパラダイムシフトに合わせて、企業の経営も変える必要があるのは言うまでもありません。しかし、嘆かわしいことに、日本の経営者の多くはまだ対応できていません。

しかし、経営者がこのことを理解せず、従業員の給料を増やす気にならなくても、政府は彼らを変えることができるのです。経営者が自主的に賃金を上げないのなら、最低賃金を引き上げて、無理やり賃金を上げさせればいいのです。

継続的に、かつ、上手に最低賃金を上げていけば、経営者は人の配置と資本金の使途、商品自体や商品の単価を工夫しなくてはならなくなります。人口減少で働き手が減るので、失業率が上がることを恐れる理由も必要もありません。

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