青森県八戸市と私 | 文・androp 内澤崇仁

著: androp 内澤崇仁 

青森県八戸市。「はちのへ」と読む。私が生まれ育ったところ。

私はおぎゃーと生まれた時から、おりゃーと音楽家を目指し東京に行くまでの約18年を八戸で過ごした。田舎と都会が半々な町。雄大な自然があるのはもちろん、ひとたび街に繰り出せば、人情味あふれるあたたかい人たちがいる。

東京では「青森はどんなところ?」「八戸は何が有名なの?」とちょいちょい聞かれる。「そんな誇れるものはないです」なんて謙遜をして答えることがほとんどだが、「何もないところだよね」って言われたら怒ります。「そんなことはないですよ、海も山も川も近くて、りんごもイカもサバも美味しくて、デコトラもB-1グランプリも発祥の土地なんですよ!」と心の中で叫ぶ。

さらによく聞かれるのが、「青森出身だから雪に慣れているでしょ?」という言葉。実は、八戸市は県内でも降雪量が少ない地域。つまり、青森県内では八戸市が最も冬でも過ごしやすい!エリアなのではないかと思っている。

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海に雪が降る景色を見て、「Basho」という曲をつくったこともあった。

八戸の海と食、そしてウミネコ

私はミュージシャンという仕事柄、ツアーで全国を回る機会も多い。その中でも八戸は、山の幸と海の幸の両方が特別美味しい。八戸は全国でも有数の漁業の町で、特にイカは長年にわたって水揚げ日本一。私も、イカそうめんは甘くて大好きだ。

八戸に来たら、食べてもらいたいものがたくさんある。まずは「みなと食堂」にあるさまざまな海鮮丼。食数限定の平目漬丼は秘伝のタレがかかっていて絶品だ。それに、太平洋沿岸の磯の上に建てられた「海席料理処 小舟渡」のウニ丼もとろける。また、老若男女問わずお店の人気メニュー「磯ラーメン」も1度でもいいから味わっていただきたい。

小舟渡を出て、近くにある葦毛崎展望台からは、八戸ならではの海の景色が見られる。夕方になると、たくさんのイカ釣り漁船が港町から出航する様子は、幼いころから見慣れているが、東京からきた人は圧倒されるようだ。

私はこの景色を見ながら、そして思い出しながら、幾度も曲をつくってきた。「Home」という曲のMusicVideoは青森で撮影し、その葦毛崎展望台から見える景色も使用している。

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さらにその海沿い近くでは「ミャアミャア」という鳴声の「ウミネコ」を見ることができる。陸続きの小さな島、「蕪島」はウミネコの繁殖地として、国の天然記念物に指定されてい
る。

5、6月あたりの繁殖期には、約3万羽のウミネコが乱舞する。ちょうど先日訪れることができたのだが、菜の花で黄色く染まった蕪島にとんでもない数のウミネコがいた。

ウミネコは漁場を教えてくれる弁財天の遣いと言い伝えられ、100年以上前から現在まで、地元の方々に大切に守られてきたという。現在ではパワースポットとしても人気だ。ウミネコに「フン」をつけられたら、運(ウン)気が上昇するといわれている。ウンがついたまま蕪嶋神社に行くと会運証明書がもらえるので神社の周りを周ってみたのだが、残念ながら私には運がなかったようなので、絵馬を書いた。

蕪島の近くには、国指定の文化財にも指定されている種差海岸がある。ここから見る美しい穏やかな海の景色も、八戸の誇れるところだと思っている。

地域が一体化する祭りと観光スポット

八戸市は日本に誇れる観光スポットがたくさんある。

祭りごとでいえば、夏の「八戸三社大祭」。毎年7月31日から8月4日までの5日間開催され、県内外から100万人以上が訪れる県内有数の祭りである。見どころは、「おがみ神社」「長者山新羅神社」「神明宮」の三神社の神輿行列と、町内ごとに製作される27台の山車。

子どものころから毎年見に行っており、小学校低学年になると山車の「引き子」として参加した。初めは炎天の下、声を張り上げ山車を引っ張って歩くのが大変だったが、最後に貰えるお菓子の入った大きな袋が目当てで、毎年参加していた。

友達と綱を握って「ヨーイ、ヨーイ、ヨイサーヨイサ、ヨイサーノセー」「ア ヤーレ、ヤーレ、ヤーレ、ヤーレー」と叫ぶのが楽しかったし、引っ張った山車が見事最優秀賞に選ばれたりすると誇らしかった。いつしか山車に乗り太鼓を叩きたいと夢見るようになったが、それは叶うことはなかった。叶っていたらきっと今ごろはドラマーになっていたかもしれない。

大人になった今では炎天下に晒されて叫ぶこともない。多少あるとすれば夏フェスくらいだ。新型コロナウイルス感染拡大の理由で、3年連続中止。やはり寂しいが、祭囃子や掛け声の響く日が戻ってくることを願ってやまない。

そして2月は春を呼ぶ伝統行事「えんぶり」がある。八戸えんぶりは、八戸地方に春を呼ぶ民俗芸能。国の重要無形民俗文化財に指定されており、みちのく五大雪まつりに数えられている。

えんぶりは、豊作を祈願するための祭りで、太夫(たゆう)と呼ばれる舞い手が馬の頭を象った色鮮やかな烏帽子(えぼし)を被り、頭を大きく振る独特の舞が大きな特徴だ。稲作の一連の動作である種まきや田植えなどの動作を表現した舞は見る者を楽しませてくれる。私の通っていた学校では当時授業で習っていたし学校行事としてあった。

三社大祭とえんぶりのリズムやメロディが今の私の音楽の創作の原点となっていると感じる。最新曲「Tokio Stranger」という曲も随所に八戸で培ったリズムとメロディが詰め込まれているので是非八戸を感じてもらいたい(宣伝)。

音楽でいえば、南郷サマージャズフェスティバルがある。毎年7月に八戸市南郷地区で開催される。プロミュージシャンが出演するジャズのイベントとしては東北最大規模で、多いときには5,000人を超える観客が集まるジャズファン必見の音楽イベントだ。

開催場所であるカッコーの森エコーランドは祖母の家から近く、幼いころから慣れ親しんだ遊び場でもある。そこは約280本のモミジがあり、秋になると真っ赤に染まる。落ち葉が積もれば地面も染まる。モミジのじゅうたんはふかふかで、横になれば一瞬で心地よい眠りにつけるのではないかと思うほどだった。

一面に広がる真っ赤な景色が毎年楽しみな場所でもある。子どもの頃、八戸市街から南郷地区に向かう途中の天狗沢には烏や鳶がたくさん飛んでいて、「UtautaiNoKarasu」や「Tonbi」という曲もつくった。

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独特で青森らしいネーミングセンス

八戸中心商店街の地名に目を向けると、面白いことがわかる。西側には表通りの三日町。その裏に六日町がある。十三日町の裏には十六日町と並び、東側には表通りの八日町があり、裏通りには朔日町(ついたちまち)。十八日町の裏には十一日町と並ぶ。

対になった表町と裏町を足すと全て下の桁が9になっている。縁起のよい数とされそのようになったらしいのだが、子どものころからその仕組みが面白くて好きだった。青森県と岩手県にまたがって一戸町、二戸市、三戸町、五戸町、六戸町、七戸町、八戸市、九戸村とあることも面白いなと思っていた。

いつか自分もそんな名前の付け方をしてみたいなと思っていたのだろう。自身のバンドandropのアルバムタイトルは1枚目から『anew』『note』『door』『relight』『one and zero』『period』と名付けた。順に頭文字を取っていくと、「androp」となる。土地のアイデンティティが、自分には埋め込まれていると思う。

新たなスポットも続々誕生

八戸の街には、八戸市美術館や八戸ブックセンターなどといった知的好奇心をくすぐる新しい施設が、たくさんできている。

最近私は言葉や表現に関して、とても心動かされた経験をした。今年の4月「FLY feat. androp」という曲を、目の動きで音楽や映像を操るクリエーター「EYE VDJ MASA」こと、武藤将胤(まさたね)さんと共作で制作した。武藤さんは、全身の筋肉が徐々に弱まる難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘っている。武藤さんが2020年東京パラリンピック開会式に出場しインスピレーションを受けたことで視線入力という技術を使い目で歌詞を書き上げ、私が曲をつくり、歌った。その経験をきっかけに、より強く「もっと言葉やアートで伝えたり表現する知識を増やしたい」と思うようになった。

八戸市役所の近くにある「グルーヴィン楽器」は、私が初めてエレキギターを買った思い出の場所。創業40年、八戸で安心して楽器を買うならここしかない。私は中学時代の職業体験でグルーヴィン楽器を希望し、将来もここで働こうと思っていた。今でもさまざまな楽器を取り扱っていて、先日も訪れた。長い時間お世話になっている。地元に頼れる楽器屋さんがあるのはとても心強い。

そしてライブハウスROXXは、初めてライブした場所。地元バンドマンの聖地だ。

八戸の夜 そして 朝

夜は「みろく横丁」で美味しいご飯やお酒を楽しむことができる。

お酒は八戸酒造がつくる日本酒「八仙」が素晴らしい。青森の米、水、酵母を使い、クセがなくなめらかな口当たりとみずみずしい甘さで八戸で穫れた海の幸ともピッタリ。青森を代表する日本酒はぜひ味わってもらいたい。

シメは八戸郷土料理の「せんべい汁」もしくは地元の人たちからも長く愛されているあっさり系のだしが特徴の「八戸ラーメン」。

楽しい夜を過ごしたら、朝は早起きして館鼻岸壁朝市に行ってほしい。毎年3月中旬から12月までの毎週日曜日にやっている国内最大級とも呼ばれる朝市だ。全長800mにわたり、300以上の店が立ち並ぶ。八戸の鮮魚や干物などの魚介類、新鮮な野菜や果物、多彩なお惣菜と出会える。

子どものころ、朝市に向かうためによく早起きをしていた。寒い日は白い息を吐きながら友達と待ち合わせの場所に行ったりした。寝静まった道を走っていると「自分たち以外の時間が止まってしまったのではないか」という気持ちになった。

澄んだ空に昇る朝日はとても綺麗で、「早起きは三文の徳」という言葉を身をもって覚えたような気がする。朝市に着くと、ほっかむりをしたおばあちゃんとその料理の味が優しかった。

優しく過ごしやすい場所。疲れたら、八戸まで休みにいこう

今やテレワークでどこでも仕事ができるようになった時代。ミュージシャンで青森を拠点として活動している人も少なくない。都会で少し疲れた心を癒やしてもくれる八戸は、とてもおすすめだ。私もひとまず9月3日に行う東京・日比谷公園大音楽堂でのライブが終わったら、八戸に帰って休もうと思う(宣伝)。

ちなみに調べてみると、首都圏にお住まいの方々に圏域の魅力的な食や特産品、観光等の幅広い情報をお届けする八戸都市圏(八戸市、三戸町、五戸町、田子町、南部町、階上町、新郷村、おいらせ町)の情報も、LINEで配信されている。私も、まだまだお伝えできていない魅力がある。

というわけで、是非八戸に遊びに来てください。八戸に来るまでの道中は「androp」というバンドの曲がおすすめです。

著者:内澤崇仁(うちさわたかひと)

4人組バンド「androp」のVocal&Guitar。2009年デビュー。メジャーデビューから3年で1万人動員の単独公演を開催。映画やドラマ主題歌、CMソングや映画音楽を手掛ける。柴咲コウ、Aimer、miwa、上白石萌音、Da-iCEほか様々なアーティストへの楽曲提供やプロデュースも行う。2022年9月3日(土)には東京・日比谷公園大音楽堂での単独ライブを開催予定。デジタルシングル「Tokio Stranger」も配信中。

編集:小沢あや(ピース)