坂本九『上を向いて歩こう』

作詞:永六輔 作曲:中村八大

作詞を担当した永六輔は、坂本九のこの歌を初めて聴いたとき、激怒したという。
「『ウエヲムーイテ』が『ウヘホムフイテ』に聴こえるじゃないか、なんだその歌い方は! これでは絶対ヒットしない!」

作曲者の中村八大はといえば、4ビートの譜面を8ビートで歌われたのだが、「こっちの方がいい」と大らかに譜面を書き換えた。

ニコニコとした純朴そうなイメージとは裏腹に、坂本九はロカビリーバンド出身。ステージでギターを叩き壊すような、いまでいえば生粋のロックンローラーだった。
その歌唱法も、エルビス・プレスリーやバディ・ホリーの影響を強く受けている。
それなのにどこか日本的に聞こえるのは、母親から教わった小唄など邦楽の素養もあったからだという。

永六輔の予想に反し、『上を向いて歩こう』は大ヒットしたが、ロカビリーを毛嫌いしていた保守的な歌謡界からは評価されず、日本レコード大賞の選からも漏れている。

評価が一変したのは、この曲が世界的な大ヒットを記録してからだ。

『SUKIYAKI』(イギリス、アメリカ)や『忘れ得ぬ芸者ベイビー』(ベルギー、オランダ)など、好き勝手な曲名を付けられながらも、そのセールスは、約70か国で1,300万枚以上。

特にアメリカでは、ビルボード・チャートで3週連続の全米1位を記録。坂本九が渡米した時には空港に3,000人を超えるファンが押し寄せたという。

永六輔も後に認識を改め、坂本九の斬新で個性的な歌唱法がこのヒットに関係していると評価している。

新型コロナウィルスの感染が拡大する中、著名人たちがリレー形式で歌うプロジェクトなどもあって、『上を向いて歩こう』を耳にする機会も増えてきた。

これを機に、世界を魅了した坂本九本人の歌声もご確認いただきたい。
ちなみに、間奏の口笛も、坂本九が吹いている。

イベントプランナー/劇作家
如月 伴内

ある時はイベント制作会社のプランナー。
またある時は某劇団の座付き作家。
しかしてその実体は、ちょいとミーハーな昭和ファン。