まちおこしに風穴を開ける存在
土屋さんの話を聞きながらも、やっぱり気になる存在は隣で微笑むシェルビーさん。山形のまちに外国人がいると、それだけで十分に目立つ。
飯田「シェルビーさんはなぜ、けん玉を始めたんですか?」
シェルビーさん「留学で日本に来て、福島県で英語の教師をしていたときに、教材の中で”けん玉”を知って、独学で始めたのがきっかけです。元々パルクール*をやっていたので、カッコよくて派手なトリックが好きなんです」
*パルクール:「走る」「跳ぶ」「登る」といった動きに注目したトレーニング。壁を登ったり、障害物を飛び越えたりと、 周囲の環境を利用して移動するスポーツ
飯田「え? けん玉ってカッコいいですか?(疑いの目)」
筆者の疑いの目を気にせず、シェルビーさんはInstagramやYouTubeで世界中の人がけん玉のトリックを決める映像を見せてくれた。
たしかに、カッコいい……従来のけん玉のイメージとは大幅に異なる……。
シェルビーさん「特にアメリカ西海岸で流行ってるんですよ」
飯田「西海岸! もう私の中のけん玉のイメージとは全然ちがう……」
シェルビーさん「プロのスケボー選手が休憩中に集中力を高めるためにやったり、ストリートダンサーが始めたり。Kendamaはアメリカではストリートトイと呼ばれて、カッコいい競技だと思われています」
昔のおもちゃという先入観がない海外の方にとって、けん玉は『新しいクールなおもちゃ』に見えるらしい。派手な模様が描かれていたり、蛍光色に塗られていたり、日本人には見慣れないけん玉が海外では人気なようだ。
オタク心をくすぐる
「けん玉は難しいから、うまくできない。うまくできないから、飽きる」という負のループを味わったことがある人は多いはず。なぜ、こんなにもシェルビーさんは意気揚々とけん玉の魅力を語ることができるのだろう。
飯田「けん玉って、そもそもすごく難しくないですか?」
シェルビーさん「そうですね。自分で始めたときも、どうやってやるのか全くわかりませんでした。だから、けん玉が初めての人にも気軽に声をかけてもらえるように、いまはけん玉の技を披露して“誘惑”することもやっていますよ」
土屋さん「……“勧誘”じゃなくて?(笑)」
シェルビーさん「あ! “勧誘”です! 間違えた(笑)」
シェルビーさん「SPIKeは観光案内所の役割も担っているので、「けん玉チャレンジMAP」に載っている技もレクチャーしていますよ」
「けん玉チャレンジMAP」とは、市内の飲食店などの店舗にけん玉を設置し、各店舗で設定されたけん玉の技に成功すると、その店舗でサービスが受けられるというものだ。サービスは「とめけん(けん玉の玉をけんに刺す技)を成功させると5%オフ」や「大皿に乗せたら焼き鳥無料」など。
土屋さん「以前ギネスにチャレンジしたのですが、その内容が『114人連続で大皿に乗せる』だったので、114本のけん玉を買って市に寄贈しました。この活動にどんどん行政を巻き込みたいという思いから寄贈したけん玉を使って、『けん玉チャレンジMAP』を作ったんです」
飯田「長井市の名前がついた技とかあったらカッコいいですね」
土屋さん「実は『長井一周』という技も作ったのですが、難しすぎて(笑)、できる人が限られるのでチャレンジMAPには載せてはいません」
動画サイトやSNSで検索すると、さまざまな技名と共に、世界中の人のけん玉さばきが載っている。けん玉ワールドカップが公式に認定している技は120種類以上あり、世界中の競技者によって日々新しい技も開発されている。
取材中に最高難度とされるけん玉の技動画を見せてくれたシェルビーさん。興奮気味に教えてくれた。
シェルビーさん「技ができたときは『やったー!』と達成感があります。難しい技は、どうやってるのか全然わからない! 本当にカッコいい」
飯田「(シェルビーさんはけん玉オタクなんだな) 難しいからこそ、ハマるってことでしょうか?」
土屋さん「そうですね。けん玉って、不思議な魅力があるんですよ。難しいから集中するので、イベントで初対面の人同士が練習しても気まずくないんですよ。しかも、技ができたときの感動をすぐに共有できるので仲良くなれるんです」