20年ほど前まで、北陸の温泉宿では、下着姿の女性たちが団体客をもてなす「艶会」が行われていた。旅行会社の社員として「艶会」を目の当たりにしたという作家の花房観音さんは「コロナ禍で団体旅行が消滅したため、こうした“大人の娯楽”も壊滅した。一度失われたものは、もう二度と戻らないだろう」という——。
「ザ・男の艶会」のパンフレット
画像=筆者提供

2000年代初めに配られていた衝撃的なパンフレット

「今宵、貴方を熱く、激しく完全燃焼させる!」
「お客様の行事で大興奮の女ずもう!」
「美女に囲まれて、極楽、極楽! うっとり幸福色の夢心地じゃ」
「美女プロレス! お色気遊戯ゲーム! もちつき艶会! 湯女の背流し! 遊々アラビアンナイトショー!」
「◯◯(旅館名)ギャルは、ダンスだけでは満足できません!」
「これぞ、芸術 男性天国の決定版!」

私の手元には、上記のような文言が並んだ「ザ・男の艶会」というパンフレットがある。北陸のある温泉地の旅館が、「温泉コンパニオン宴会」の宣伝のために作ったものだ。「艶会」のイメージを伝えるためだろう。下着姿など露出の多い扮装ふんそうをした女性の写真が、大量にあしらわれている。

2000年代初め、私は勤務先の旅行会社でこのパンフレットを見つけ、あまりのインパクトの強さにずっと捨てられずにいた。

男性たちはロシア美女とチークダンスを踊り…

このパンフレットを手にした直後、「艶会」を目の当たりにした。30代前半だった私は、地元の兵庫県から添乗員として旅行に同行し、宿では食事や宴会の席についた。

京阪神から1泊2日の宴会といえば、北陸の温泉宿が定番だ。男たちは、家庭のある地元を離れて、夜通しで酒を飲み、大いに羽目を外す。

今でも強く印象に残る旅がある。京阪神の奥座敷といわれる温泉宿で、ある団体が「ロシア人コンパニオン」の宴会を指定したのだ。会場にあらわれた金髪の陽気な女性たちは、身体にぴったり張り付くミニスカートのドレスを着ていた。生地が少ないため、胸は半分ほど出てしまっている。

宴会の途中で、男性たちは次々に「ロシア人コンパニオン」とチークダンスを踊り始める。頬を寄せ合い、酒で赤らんだ顔は陶酔しきっていた。そのあとはトップレスショーが行われたが、私は早々に部屋に戻った。

こういった宴会には「その先」があるかもしれないということは、承知していた。

「その先」、つまりは女性と性行為、もしくはそれに準じたものが旅行の一番の目的である男性がいることも。しかしそれこそ旅行会社はあずかり知らぬことだ。