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ネットの普及で“ゲーム化”した日本のクレーム文化

すき家やワタミなど、“ブラック企業”の烙印を押された飲食チェーンは従業員不足に泣いている。その原因は多々あれど、ド底辺クレーマーに辟易して辞めていく店員もいた! ◆数々の不祥事とネット社会でクレームが「ゲーム化」!
池内裕美氏

池内裕美氏

 1億総クレーマー時代を経て、ド底辺クレーマー時代に突入したニッポン。これまで日本におけるクレーマーはどのように変化してきたのか。その変遷について、関西大学の池内裕美教授に聞いた。 「まず注目すべきは製造物責任法(PL法)が施行された’95年。同法の施行により企業に申し立てをしやすい環境が醸成されました。消費者にとって法的な後ろ盾となったのです。続いて’00年に雪印乳業の集団食中毒が起こり、産地偽装など、企業の不祥事が続いた。消費者の不信感が募っていき、企業に対するクレームが増加する温床になっていったんです」  池内教授は「原因すべてではないが」と前置きしながらも、クレーム増加とインターネットの普及には相関関係があると指摘する。 「ネットが発達し、他人のクレームや申し立てを目にすることができるようになった。その方法や結果も共有されています。他人の苦情に触れた人々は、『自分も言っていいんだ』という心理状況になる。結果的に、それまで内に秘められていた多くのクレームが噴出するようになったのだと思います」  一方、そんな日本の“クレーム文化”に警鐘を鳴らすのはコラムニストの小田嶋隆氏だ。
小田嶋隆氏

小田嶋隆氏

「近年ではクレームが完全にゲーム化してしまっている。当事者の不満に乗っかった第三者が、世論的なリンチや制裁を加える状況が当たり前になった。いわゆる炎上や叩きですね。一方、ド底辺クレーマー現象の背景には、行きすぎた顧客対応を一般化させてしまった、日本企業の問題もある。というのも、企業にとって原料などのコストカットには限界があります。そこでスタッフに対してサービスを向上させる競争をさせてきた。現在、消費者は過剰なサービスに慣れすぎてしまっている。それがド底辺クレーマー問題に繋がっているのではないか」  企業はお客を甘やかすべきか、厳しく育てるべきか。それとも、消費者自ら不満をのみこむべきか。いずれにせよ、この問題は新たな転換期に差しかかっている。 【池内裕美氏】 関西大学社会学部教授。消費と広告における社会心理学が専門。苦情やクレームの心理的メカニズムの研究を行う。著作に『社会の中の落とし穴:苦情・クレーム行動と悪質商法』 【小田嶋隆氏】 早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターに。現在はひきこもり系コラムニストとして小誌書評欄ほかで活躍中 取材・文/鈴木大介 河 鐘基(ピッチ・コミュニケーションズ) 山田ジン イラスト/河岸キョウタロウ 写真/fotolia.com ― [ド底辺クレーマー]がサービス産業を滅ぼす【4】 ―
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