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技術者たち、ニッポンの未来をよろしく Vol.3 堀江貴文/エンジニアは誇り高くあれ
堀江貴文/エンジニアは誇り高くあれ
ニッポン放送の株取得、衆議院選挙出馬、ライブドア事件などで話題の渦中にいた堀江貴文さん。経営者としての彼がクローズアップされていますが、もともとはプログラマであり、大きなスケールで技術を見る審美眼にわれわれは注目しています。技術と技術者について語っていただきました。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/三浦健司) 作成日:09.03.23
堀江貴文 堀江貴文
東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程中退。1996年に「有限会社オン・ザ・エッヂ」を設立。2002年に旧ライブドア社から営業権を取得し、2004年に社名を「株式会社ライブドア」に変更。2006年に証券取引法違反容疑で起訴されて一審、二審ともに有罪判決を受ける。現在上告中。1972年福岡県生まれ。
非正規雇用や派遣切りは、企業と消費者の責任だ
派遣システムは嫌い。ライブドア時代は正社員化を徹底
 今、非正規雇用の増加やいわゆる「派遣切り」が社会問題になっていますけど、僕が前の会社(ライブドア)で社長をやっていたときは、技術者派遣やSI会社の常駐社員などは一切使わなかったし、逆に自社の社員を派遣することもしなかった。社内ではこうしたシステムを利用するようにかなり説得されたけど、ここだけは頑固に譲らなかった。

 唯一、派遣会社を使ったのは受付の女の子たち。いろいろとあって押し切られてしまったのだけど、彼女たちが望めば正社員にしていたし、希望すれば総務や経理に異動もさせていた。ほかに社員でない人と言えば、導入したシステムのメンテナンス要員が必要で、社内にそのスキルをもつ人材がいなかった場合。クライアント企業から1〜2人きていたと思います。

 ここまで非正規の社員を雇わなかった理由はいくつかあるけれど、ひとつは派遣とか常駐が人材のピンハネだから。経営者の思想として、派遣されるほうも派遣するほうも相いれないと感じていたし、こうしたシステムが産業構造の空洞化を招くとも思っていた。もうひとつは、社内の技術力を低下させるから。いずれにせよ、とても嫌だった。

 ただ、僕の力ではどうにもできないこともあって、買収した会社が派遣社員を使っていたら続けるしかない。その場合でも徐々に正社員化は進めたのだけど、子会社や孫会社を含めて関連企業が多くなると、どうしても目が届かなってしまう。ライブドア本体はともかく、グループ全体で正社員化を徹底できなかったのは、今でも残念に思っています。
「安い商品を不当に求める世間」が間違っている
 派遣社員や期間工などの人たちは、「雇用の調整弁」と呼ばれている。仕事が多くなれば雇い入れて働いてもらい、仕事量が減れば元に戻すために「切る」。そのための労働力だと。ならば、仕事が増えてもやみくもに受けなければいい。利益率の高い案件や効率のよい仕事を選べば、既存の社員で工夫して対応できると思う。非正規雇用にしたって人材コストはかかるわけだから、どんな仕事でも取ってくればよいというものではないし、徐々に社員を増やすという手もあるはず。

 また、正社員には福利厚生費などの負担や将来への責任が生じるから、派遣を使うという声も聞きます。だけど、それらを社員に与えるのは企業の責務じゃないですか。こんな当たり前のことを実現できないで利益を出そうとするのは、既に商売ではないと思う。そう言うと、「企業努力の末に高品質で安価な製品が提供されているんだ」と返されるかもしれないけれど、ならばその考えが間違っている。消費者におもねりすぎです。

 いいものはそれなりの値段がする。消費者は安くて品質のよいものを求めるけれど、それは当然だけれども、安易に応じて無理をするから企業がおかしくなっていく。企業の立場からは「安い商品を不当に求める世間が間違っている」とは言えないのもわかるけど、無理を続けた結果が、賞味期限切れの食品、各種のリコール、汚染米などの根になっているのだと感じます。

 特に農産物をはじめとして、現代人は食品にお金をかけないです。中国産の冷凍ギョーザ事件にしても、少し考えればあんな値段で冷凍食品が買えないことはわかるはず。100円や300円といった低価格なメニューをそろえる外食産業もありますけど、そんな無理が「名ばかり店長」を生んだ一因とも考えられます。
 モノの値段が不自然に安いのは、その分だけ誰かが割を食っている証拠。企業と消費者の双方が歯止めを掛けるべきだと思います。
有人ロケットを開発して宇宙産業を興したい!
地球の重力圏を飛び出せるロケット開発が第一歩
 今、いちばん興味があるのは宇宙産業です。昔から宇宙に探検に行くのが夢で、それには莫大な資金が掛かるからライブドアでがむしゃらに働いていたのだけど、変なことになって頓挫してしまった。僕の生まれる前(1969年)にアポロ11号は月に着陸したというのに、それから40年したら太陽系を自由に行き来できるくらいになってもおかしくないのに、全然そんなことにはなっていない。何とか産業化したい。

 そのための大きなハードルは地球の重力圏からの脱出。ここまでが安くなって、万単位の人が宇宙旅行できるようになれば、その先の太陽系に行く投資や技術開発が活発になる。例えば、反物質ロケットで光速の七掛けまで加速できれば、シリウスまで10年で往復できるかもしれない。まずは、重力圏のハードルを超えるための宇宙産業を興したいと思っているので、有人ロケット開発を進めています。

 有人ロケットでいちばん大切なのはアボート(打ち上げ中断)システム。打ち上げの途中で問題が起きた場合に、宇宙飛行士を小型ロケットで緊急脱出させる仕組みです。通常の場合、ロケットは一段目のエンジンを使って打ち上げて、さらに二段目のエンジンで推進力を得るわけですが、二段目のエンジンに点火できなければ乗員は脱出します。ただ、一段目で100kmとか飛んでしまうと、そこから飛び出してもGで押しつぶされてしまうので、できるだけ低い高度で二段目エンジンを燃焼させる必要があります。
 有人ロケット開発にはこうした課題が山積みなのですが、ロケットの推進システムは、約70年前にヴェルナー・フォン・ブラウンが開発したV2ロケットから変わっていないんです。今でも液体燃料が主流です。
ボール盤を動かしての穴開け作業は難しい
 僕がかかわっているロケットエンジンもアルコールと液体酸素を使います。固体燃料だとロケットの震動が激しすぎて人体が耐えられないので、有人飛行の場合は液体燃料を使うしかないんですが、特にアルコールは分子構造がひとつなので均一に燃えるんですね。ほかの液体燃料には低価格で大量に供給できるケロシン(灯油)がありますが、炭素数9〜15の炭化水素なので分子構造が複数あり、アルコールに比べて燃焼が安定しません。ですので、アルコールを使っています。

 推進システムに比べて、ロケット工学の中で技術が進化しているのは周辺分野です。例えば、エンジンなどの部品を製造する切削加工、制御用のコンピュータ、素材技術など。実例を挙げると、エンジンに直径1mmのインジェクター(噴射口)を斜めに開けるのは、昔なら専門家が何日も手作業で行っていたのが、今ではNCなどの工作機械を使って町工場の職人さんができるんです。また、インジェクターにパネルを付けるとわずかな隙間から燃料が漏れる場合もあり、シール材を張りつけるのですが、そこには最新素材の黒鉛シートを使っています。

 エンジンを含めたほとんどの部品が手作りです。僕たちが目指しているのは再使用可能なロケットの開発なので、一度飛ばして終わりではありません。何度も使うためにインジェクターにバルブを取り付けるし、バルブを動かすためのモーターや、制御する基板も必要になってきます。バルブ自体はNASAの製品を輸入したり、モーターは日本の汎用品を買ったりしていますが、超低温の液体の中でバルブを動かすシステムなどありませんから、基板を含めてすべてが手作りになります。
 バルブシステムは一例ですが、僕もボール盤を回して、モーターバルブ機構の部品に穴を開けたりしています。本当に難しい(笑)。
ライブドアがしたこと、できなかったこと
将来性を見越してライブドアが普及させたPerl
 プログラミングを始めたのは中学1年のとき。最初に触ったのはMZ80K、自分で買った機種はMSX。言語は独学でBASIC、それからマシン語を覚えて、中学2年のときかな、通っていた塾がCAI(コンピュータ支援教育)をしていて、英語の学習プログラムなんかを作っていた。以前にソフト開発をしていた塾の先生が開発したもので、その移植や改良を僕がしていました。

 中学時代はプログラミングに熱中したけれど、高校ではあまりやらず、再び始めたのは大学時代のアルバイトがきっかけ。教材の統計処理みたいな仕事で、そうした関係に強いAWKを使っていました。PC-98でMS/DOSの時代だったからPerlだと重くて動かず、Cでコア部分を書いて、併せてAWKを使う感じです。

 ただ、インターネット系の企業でアルバイトをしていた1994年ごろ、「Perlっていけるんじゃないか」と思うようになった。当時のWebアプリはCで書く人が多かったけど、Perlは簡単で書きやすいし、Sunのサーバは当時にしては処理能力が高く、Perlがサクサク動いたんです。これは将来性があるなと思って、自分で会社(オン・ザ・エッヂ)を起業したときは、社内でPerlを使うことにした。Javaもはやっていたけど、難しいのとコストがかかるのとで、ずっと仕事はPerlです。

 このように僕がPerlプログラマだったから、ライブドアになってからのシステムもPerlで開発するようになった。そうしたらPerl使いが集まってきた。(日本語コード変換モジュールJcode.pmを開発した)小飼弾さんが来たり、(現在シックス・アパート執行役員の)宮川達彦君がバイトで入ってきたり、いつの間にか日本のPerlの第一人者がそろう会社になっていた。
 それでも、Perlは言語のメインストリームじゃないかもとずっと自問自答していました。だから、以前に「Web2.0はPerl」なんて記事を読んだら「やったじゃん」って思ったし、Perlが一般化したことは今でも感無量なんです。
Googleになれなかったのはプログラマとしてのコンプレックス
 プログラマとして、自分でゲームを開発するなどはしなかった、というよりできなかったですね。僕がプログラミングをしていたのは2000年までで、残念ながらもう長いこと書いていませんけど、昔からゲームを作るってすげえなって思っていました。ですから僕は、大したプログラマじゃないんです(笑)。

 ひょっとしたら、その弊害がライブドアの事業に出てしまったかもしれない。自分は優秀なプログラマではないというコンプレックスや、Perlが主流になるかわからないといった思い切りの悪さが、ライブドアをGoogleにできなかった大きな理由かとも感じています。なぜなら、1998年ごろにはライブドアでも検索エンジンを開発していたのですが、その事業を徹底して続けられなかったから。

 Googleはクリエイティブにあふれた企業というより、技術インフラの強い会社だと思います。そして特筆すべきは、検索結果を速く表示させるために、サーバを安く大量に調達して巨大なデータセンターを構築した点です。僕らも同じことをしていたけれど、サーバ1台当たりにコストを掛けすぎていたし、短期的な利益を考えて積極的な投資をしなかった。今考えると、とにかくサーバを並べてハードウェアの力でデータ処理すればよかった。なぜそれができなかったのかと、今でも後悔していますね。
社会を支えてきた技術者たち、もっとプライドをもっていい
デバッグはプログラミングもロケット開発も一緒
 僕は技術が世の中を支えていると思う。人間社会を豊かにしてきたいちばん大きな原動力は、技術者の力だと思っている。産業革命はもちろん、農作物の大量生産を可能にした農業革命も技術力によるものだし、インターネットはローコストで人と人とのコミュニケーションを実現した。鶏が先か卵が先かでいうと、技術革新は卵が先で、先駆者である技術者がいないと人間の進化や豊かな社会は生まれなかったと思います。

 また、最近感じたのは、技術って元は同じだということ。例えば、先のバルブシステムがうまく動かないときは原因を探すわけですが、プログラミングのデバッグと全く同じ要領なんです。きれいな燃焼は目で見てわかるので、不完全燃焼しているときは、カシオの高速連写デジカメで撮影します。すると、コンマ何秒の単位で噴射の様子が見えるので、どのバルブから炎が出ているかがわかる。では、出ていないインジェクターはなぜ詰まっているのか。

 例えば、入ってきた水蒸気が液体酸素で急激に冷やされて氷となり、穴を塞いでいるのかもしれない。ならば、パイプの中に水蒸気を入れないために、乾燥させる方法を考えなくてはならない。こうした選択肢が思いつくだけあって、最適な解決法を考えていく過程は、まさにバグ取りなんですよ。ですから、ロケット開発にはプログラマとしての経験がとても役立っています。
地味な存在? もっとプライドをもつべきだ
 ただ、エンジニアの苦労を一般の人は知らない。エンジニアのすごさは、彼らの仕事を知らないとわかってもらえないと思う。ボール盤を回すとか(笑)。普通の人は、どんな技術で自分たちの生活が成り立っているか想像できませんよ。僕だってハード系は電子工作くらいまでで、機械設計なんて今回のロケット開発で初めて触れましたから。

 世間に仕事の中身を理解されることが少ないから、エンジニアは地味な存在になってしまい、脚光も当たりにくくなる。自分たちもそれを知っているから、派手になれずに、プライドをもちにくいのかもしれない。でもそれは違う。もっともっと自信をもっていいと思う。

 Tech総研さんとかマスコミの人はエンジニアをもっとアピールしてほしい。僕も好きな、読みやすいマンガはどうですか? Tech総研さんに「セミコン見ル野のシブすぎ技術に男泣き!」ってマンガがあるでしょ。エンジニアの仕事がよくわかるし、面白くて愛読しています。最近では『とろける鉄工所』というマンガも好きですし、ソフト系ならエンジニア流星群の「理系の人々」もいいですね。
 ただ、エンジニアが主人公のマンガは、どれもちょっと自虐っぽい(笑)。自虐的でないアピールがあってもいいのかも。いずれにせよ、エンジニアは自分の仕事にもっとプライドをもつべきです。
堀江貴文さんから
エンジニアをもっとPRしよう。自虐ネタはほどほどにして。堀江貴文
堀江貴文さんの最新情報
『徹底抗戦』(集英社) 3月5日に発売されたばかりの『徹底抗戦』(集英社)。
ニッポン放送株の買収、衆議院選挙の出馬、証券取引法違反容疑での逮捕、拘留、保釈、そして現在までを、堀江氏が自分の言葉で語っている。 現在は最高裁に上告中だが、仮に懲役刑になった場合は「拘置所の独房より懲役仕事がしたい」というくだりが、妙にリアル。 事件の流れがわかりやすく理解できるし、記事中の宇宙開発の話も出てくるので、ぜひご一読を。
人気のブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」も本音炸裂。
http://ameblo.jp/takapon-jp/
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
一時代の風雲児ですから、私もテレビや雑誌などで堀江さんを見ていました。そのころに感じていたのは、「ウソは言っていないのだろうけど、要領はよくないかもしれない」。取材で一度会ったくらいで前者の是非は判断できませんが、ボール盤の操作を嬉々と語る人は信じたいと思います。また、「要領がよくない」のは相手によって変わるのかなと。

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