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TOCOMにTSR上場、日本が発信する天然ゴムの国際指標

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

東京商品取引所(TOCOM)は10月9日、「TSR」を新規上場した。TSRと言われても一般の人(多くの投資家にとっても)には分かりづらいが、自動車タイヤなどに使用される天然ゴムの区分の一つになる。現在、TOCOMのゴム市場にはRSS(Ribbed Smoked Sheet)が上場されているが、これに加えてTSR(Technically Specified Rubber)も上場することで、ラテックスなどを除いた国内に流通する天然ゴムのほぼ全てをカバーできる体制を整えることになる。

RSSとTSRはともに用途としては自動車タイヤが8~9割を占めているが、RSSが「視覚的格付けゴム」、TSRが「技術的格付けゴム」とも言われるように、グレードの格付け手法に違いがある。天然ゴムは、ゴムの樹液から作られるためにどうしても品質にばらつきが生じるが、RSSは国際品質包装規格に準拠した視覚検査によって格付けを行う。一方、TSRは技術的に標準規格が定められており、客観的な技術検査によって格付けを行う。

両者には格付け手法の他に製造過程にも違いがあるが、基本的にはユーザーにとって必ずRSSでなければならない、または、TSRでなければならないといったものではない。しかし、国内メーカーは伝統的にタイ産RSSを志向していたため、日本の商品先物市場において天然ゴム先物と言えば、それはRSSとほぼ同義だった。しかし、近年は国内メーカーのTSRシフトの動きが強くなっており、「国内に流通する天然ゴム」と「TOCOMに上場する天然ゴム」との間に微妙なギャップが発生していた。

具体的な数値でみてみると、2000年時点で国内に流通する天然ゴムはRSSが53%、TSRが31%となっていたが、2017年時点だとRSSが19%、TSRが79%となっており、ほぼ8割がTSRになっている。このため、市場関係者からはTSR上場の必要性を訴える声が強くなっていたが、ついに上場が実現して取引が開始されたのが10月9日である。

■日本が発信する天然ゴムの指標価格

世界には幾つかの天然ゴム先物市場が存在しており、有名なのだと中国・上海期貨交易所(SHFE)とシンガポール取引所(SGX)がある。中国は出来高としては最大のゴム市場になるが、グローバルに解放された市場ではないため、極めて投機色が強いマーケットになっている。一方、SGXはRSSとTSRを既に同時上場しているが、特にRSSの出来高が少なく、指標価格としては疑問の声も強い。

一方、TOCOMの天然ゴム先物は1952年の東京ゴム取引所から続く伝統もあって、国際指標として高い評価を受けている。コモディティ(商品)価格は一般的にニューヨークかロンドン市場に国際指標が存在するが、天然ゴムは日本が国際指標を提示している数少ないマーケットの一つになる。世界のゴム取引はここで形成される価格を指標にしていると言っても過言ではない。こうした中で、TOCOMがRSSに加えてTSRも上場することは、リアルタイムにRSSとTSRの国際指標価格が世界に発信されることを意味する。

世界に向けて指標価格を提示すると同時に、実需や投資家の市場参加を促すことで、RSSとTSRの大きなゴム市場を作り出すことができるか、TOCOMゴム市場の大きな挑戦が始まっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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