事件後に出版された犯人の手記

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 海外での日本人女性のレイプ被害事例が報告されている。2014年11月下旬、インド東部のコルカタで、22歳の日本人女性が複数の男に現金7万6千ルピー(約14万円)を奪われた挙句、集団レイプを受けるという惨事が起こり、先日、現地のインド人3名が逮捕された。近年インドでは、凶悪なレイプ事件が頻発しており、ついに日本人女性もその餌食となってしまったようだ。

 海外における邦人レイプ事件といえば、2012年8月に発生した「ルーマニア日本人女子大生強盗殺人事件」が記憶に新しいが、今から約20年前、ローマで起きた「日本人女子大生6人レイプ事件」、別名「カバキ事件」を覚えている人はいるだろうか。

 当時、このニュースはセンセーショナルに報じられ、スポーツ新聞や週刊誌は真偽不明の”お下劣”情報を流しまくり、これにより「ニッポンの女子大生=すぐに股を開く尻軽オンナ」というイメージが広く流布された。さらに、後にはこの事件をモデルにしたAV作品まで登場、偏見を助長する結果となった。

「事件はデッチあげ」黙殺された犯人の主張

 当時の報道をもとに、事件の概要をまとめてみよう。

 1993年の冬、卒業旅行でローマを訪れていた東洋大学在籍の仲よし6人組が、トレビの泉などの観光名所を歩いていたとき、

「スパゲティを一緒に食べませんか」

 などと巧みな日本語で近づいてきた“イタリア人男性”の誘いに乗り、男の自宅マンションを訪れてしまったことから悲劇は生まれた。女子大生6人全員が、犯人アリ・カバキによって陵辱され、犯されてしまったのだ――。

 その後、女子大生たちが現地警察に被害届を出したことで、まずはイタリアのメディアがセンセーショナルに報じ、日本にも知られることになる。当時、事件を取材したベテラン週刊誌記者は語る。

「当時のメディアは写真誌全盛期。エログロばりばり、人権なんて関係ないって時代でしたから、各メディアはいきり立って報道合戦を繰り広げた。といっても、現地取材などまともにやっていない。ネタ元は現地のタブロイド誌の記事や、現地記者のコメントがほとんどでした。また、当初イタリア人と見られていた犯人アリ・カバキは、“イタリア人を装ったイラン人”で、日本滞在経験があることが後にわかりました」

 当時の週刊誌にはショッキングな見出しや記事が、これでもかと並んだ。

「犯人アリ・カバキの部屋で、日本刀で脅され全裸にされた6人は、全員四つん這いの格好にされると、次々に犯された」

「6人のうち、1人は処女だった」

「女子大生は、望んで犯人の部屋に行ったのであり、自業自得」

 等々。真偽不明の情報が入り乱れたが、実際はどうだったのだろうか?

「事件が起きたこと自体は、その後、イタリア国内で裁判があったことを見ても、事実でしょう。しかし、このレイプ裁判には、被害者である日本人女子大生たちがほとんど出席せず、真相がはっきりしないまま、うやむやになってしまった。ただ、当時、事件を取材した現地の信頼できる記者によれば、当時の報道はかなり大げさではあったものの、大筋のところでは事実だったという見方が主流のようです」(前出・ベテラン記者)

 今となっては、どこまでが真実だったのか知る術はない。が、事件から数年後、気になる動きがあったので、最後に紹介しておきたい。

 1995年、犯人アリ・カバキの著書が日本で出版された。『偽りのレイプ――イタリア日本人女性6人強姦事件の真相』(マサクリエイティブ刊)がそれで、現在でも入手可能となっている。ここでカバキは、

「あれはすべて女子大生たちのデッチ上げだ」

 と、身の潔白を主張したが、多くのメディアからは黙殺された。

 事件の真相は当事者のみぞ知る話だ。しかし、この事件には人間の心を揺さぶる何かがあった。レイプ被害を食い止めなくてはならないのはもちろんのことだが、それ以上に、もっと根源的な人間の「下劣さ」といったものを浮かび上がらせてくれた事件だったように思う。

(取材・文/小林靖樹)