座礁クジラ、救出の難しさ

2013.12.09
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座礁したクジラに鎮静剤を打つ海洋生物学者。アメリカ、フロリダ州マデイラビーチ沖(10月31日)。

Photograph by Scott Keeler, The Tampa BAy Times/AP
 アメリカでクジラが座礁すれば、ボランティアや訓練を受けた生物学者のネットワークが即座に対応する。道具や技術の改良は進むが、命の瀬戸際に立つ海洋哺乳類を常に救えるわけではない。 今月、フロリダ州南部エバーグレーズ国立公園の浅瀬で、ゴンドウクジラ51頭の群れが座礁。生物学者たちは救出に向けて、今も懸命の努力を続けている。

 イルカの仲間ゴンドウクジラは、世界中に生息する。濃い灰色や茶、または黒い体色で、明るい斑点を持つ個体もいる。最大6.5メートルの体長で体重は約3200キロと、大きさはシャチ程度だという。

 米国海洋大気庁(NOAA)で座礁海洋哺乳類ネットワークのコーディネーターを務めるブレア・メーズ(Blair Mase)氏は「Christian Science Monitor」紙の取材に対し、先週報告された51頭のうち、6頭は既に死亡、苦しんでいた4頭は生存の見通しがたたず、4日に安楽死させたという。

 3頭の遺骸は浜に打ち上げられていたが、生存中の41頭は約23メートル沖で座礁している。水深1メートル以下で、身動きできない状態だという。NOAAと国立公園局の生物学者が4日、ボートで囲んで沖に向かわせようと試みたが失敗に終わった。

 海洋哺乳類専門の生物学者で、NOAAのネットワークに所属するトレバー・スプラドリン(Trevor Spradlin)氏はワシントンD.C.のオフィスからナショナル ジオグラフィックの取材に応え、漁師のグループから第一報を受けたと説明。「直通の電話番号を含む連絡網が確立している。おかげで、誰かが座礁した海洋哺乳類を発見したら、最終的にはわれわれの耳に入るようになっている」。浜の漁師や旅行者が地元の保安官やライフガードに連絡、巡り巡ってNOAAに報告が届くケースが大部分だという。

◆クジラ救出ネットワーク

 NOAAは、専門家とボランティアから成るネットワークとも連携。ネットワークのメンバーは海洋哺乳類の座礁に対応する訓練を受けており、海に面するすべての州で活動している。2012年には、アラスカ州を含む大陸部だけで、4500件以上の海洋哺乳類の座礁に対応した。

 クジラは、病気や空腹、船舶との事故による衰弱、化学物質や騒音の影響、社会的行動など、さまざまな理由で浅瀬に乗り上げる。

 スプラドリン氏によれば、ゴンドウクジラは特に集団で座礁するリスクが高いという。社会性が非常に発達し、家族や群れが強く結び付いているためだ。「結束を大変重視するゴンドウクジラは、いつも一緒に行動する」。高齢、または病気の個体がまず座礁し、その後、群れ全体が続くと考えられているという。

「病気の仲間を見捨てずにいるうちに、群れ全体が潮の満ち引きに巻き込まれ、方向感覚を失ってしまう」とスプラドリン氏は説明。

◆救出法

 スプラドリン氏によれば、海洋哺乳類の救出にはさまざまな手法や技術が開発されており、どちらもここ数十年の進歩が著しい。同時に海洋環境では、現場との距離や塩水の腐食性、天気や気温の変動といった数々の難題に直面するという。

 しかし、苦しむ海洋哺乳類を治療する獣医学の進歩は特に目覚ましいと同氏は語る。「医療の質は大幅に向上し、座礁に対応できる人材訓練も各地で進んでいる。おかげで、装備のしっかりした強固なネットワークが確立されている」。

 海岸から沖に移動させる手段として、音を使う場合が多いという。同じ動物の鳴き声を再生して誘い出す、または捕食動物の鳴き声で追い出したりと、ケースバイケースで対応する。

 浜に打ち上げられてしまうと、救出は一層困難になる。体の大きさや健康状態に応じて海に戻さなければならない。「トラック、ロープ(スリング)、クレーンなどが成否を握ることになる。こうした機材の手配が、遠隔地では非常に難しい」とスプラドリン氏は話す。

 生存の確率が高い健康な個体をまず優先する。「クジラ目の種は水中で生きるようにできている。浜に打ち上げられると、内臓にいつも以上の体重がかかり、徐々に押しつぶされていく。現場はいつも時間との勝負なんだ」。

Photograph by Scott Keeler, The Tampa BAy Times/AP

文=Brian Clark Howard

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