ポータブルNMR

このブログのメインコンテンツはNMR関係の論文解説ってことにしました。ってなわけで早速。

Towards Portable High-Resolution NMR Spectroscopy

Burkhard Luy, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 354 – 356

ACIEに出てたポータブルNMRに関してのhighright。

現在NMRは超電導磁石を用いて高磁場を発生させていますがこれには液体ヘリウムで冷却する必要があったり、rfパルスを打つためのアンプが重かったりととてもじゃなけど持ち運べるような代物ではありません。

また高分解能を実現するために1GHzを超える高磁場を発生させるものも開発されています。

しかし実際にそこまでの分解能は必要がない場合もままあります。

低分解能でもいいから手軽に安価に使えるNMRがあってもいいんじゃないかってことで行われている研究です。

まず一報目
Small Magnets for Portable NMR Spectrometers
E. Danieli, J. Perlo, B. Blümich, F. Casanova, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 4133–4135

磁場は永久磁石で発生させています。超電導磁石を使わない最大のデメリットはシムコイルによる磁場の調整ができないため磁場の不均一性にによりシグナルがぐしゃぐしゃになってしまうことです。

これを永久磁石の巧みな配置でメカニカルに調整することでプロトン30MHzでトルエンのメチル(2ppmくらい)と芳香環(7ppmくらい)を区別できています。線幅も0.15ppmだそうです。

3kgという重さも驚きです。

2報目
NMR with excitation modulated by Frank sequences

B. Blümich, Q. Gong, E. Byrne, M. Greferath, J. Magn. Reson. 2009, 199, 18–24

超電導磁石とともにかさばるrfパルスのアンプ。このでかさは強力なパルスを打つために必要なもので弱くてもいいならもう少し小さくできるらしいです。

そもそもなんで強力なrfパルスが必要なのかというと、A秒のrfパルスで倒せるのはだいたい1/AHzの周波数領域に限られるという事情があるからです。

観測したい周波数領域が決まると自動的にパルスの長さが決まってしまうので、磁化を90度倒すためにはラジオ波の振幅を上げるしかありません。つまり強いパルスが必要になるということです。

しかしながら磁化を90度倒しきらなくてもNMR測定は可能です。Frank sequenceは弱いパルスによる小さなflip angleでNMR測定をするためのパルス系列らしいです。

1次元NMRより2次元NMRのほうがより高い磁場の安定性を必要とします。これはそのFrank sequenceを使って20MHzでプロトンのH-H COSYを取ったという論文。

highrightには500MHzで測定したスペクトルが並んで乗ってるのですがJカップリングのでかさがなかなか新鮮です。(J値は磁場によらないので磁場が小さくなるとチャート上で相対的に分裂幅が大きくなる)



キッチンでも密林の奥地でもNMR測定ができる日が来るのかもしれません。


ちなみにこれらの仕事はBernhard Blümichのラボで行われたものですがほかにもいろいろやっているようです。(プロジェクトにDeep sea ocean drillingとか書いてあるけどなんなんだろうw)