種の保存法(読み)しゅのほぞんほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「種の保存法」の意味・わかりやすい解説

種の保存法
しゅのほぞんほう

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ることにより、生物の多様性を確保するとともに、良好な自然環境を保全し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的」(第1条)とした法律で、正称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年法律第75号)。1992年(平成4)6月に制定、1993年4月に施行された。

 種の保存法に基づいて指定される希少野生動植物種には以下のものがある。

(1)国内希少野生動植物種:国内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生動植物種の個体等(生きている個体のほか、死体やその加工品〈剥製標本など〉、一部の種については卵・種子器官〈個体の一部。毛、皮、つめ、牙など〉やその加工品を含む)の捕獲・採取殺傷損傷譲渡(ゆずりわた)し等(あげる、売る、貸す、もらう、買う、借りる)、販売・頒布(不特定多数に配布すること)目的の陳列・広告、輸出入が原則として禁止。種の保存のために生息・生育地を保存する必要があると認められる場合は「生息地等保護区」(監視地区、管理地区、立入制限地区の区域指定が可能)が指定される。また、個体数の維持・回復を図るために個体の繁殖の促進、生息地等の整備等が必要な種を対象として「保護増殖事業計画」が策定され、事業が実施される。

 国内希少野生動植物種の一部は次の二つとして指定される。

 (a)特定第一種国内希少野生動植物種:商業的に個体を繁殖させることができる種。事業者は事前に「特定国内種事業」として届出をすることで、個体の譲渡し等を行うことが可能。

 (b)特定第二種国内希少野生動植物種:販売・頒布目的での捕獲・譲渡し等、陳列・広告、輸出が原則禁止。調査研究、環境教育等の目的での捕獲・譲渡し等は可能。

(2)国際希少野生動植物種:ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)附属書Ⅰ掲載種、および二国間渡り鳥等保護条約(日米、日露)・協定(日豪、日中)に基づき相手国から絶滅のおそれのある鳥類として通報のあった種の譲渡し等、販売・頒布目的の陳列・広告は原則として禁止。例外として、環境大臣の登録を受けた個体等の譲渡し等、また、べっこうについては「特定国際種事業」として届出をした事業者、象牙(ぞうげ)については「特別国際種事業」として登録を受けた事業者による譲渡し等が可能。

(3)緊急指定種:上記の希少野生動植物種以外で、新種として発見された場合、絶滅とされていた種が再発見された場合などに、とくにその保存を緊急に図る必要があると認められる種について、3年間を上限として指定される。生きている個体の捕獲・採取、殺傷・損傷、個体等の譲渡し等、陳列等が禁止。

[石井信夫 2023年7月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「種の保存法」の意味・わかりやすい解説

種の保存法
しゅのほぞんほう

平成4年法律75号。正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」。1993年4月施行。絶滅のおそれのある鳥類の保護を効果的に行なうために制定された「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」と,野生動植物の国内での捕獲・採取,取引・譲渡を規制する「絶滅のおそれのある野生動植物種の譲渡の規制等に関する法律」(→ワシントン条約国内法)を廃止・統合して,新たに制定された。対象を哺乳類や鳥類だけでなく,昆虫類や魚類,両生類,爬虫類,植物にまで広げたことと,生態系そのものの保護もねらったという点で,体系的に野生生物の保全をはかることを目的とした日本初の法律。特殊鳥類に指定されていた鳥類などは,国内希少野生動植物種と国際希少野生動植物種,緊急指定種に分けられ,保護を行なうべき種として統合され指定されている。指定された種は学術目的以外の捕獲・採取の禁止,取引・譲渡の禁止や規制,輸出入の制限などが行なわれる。違反者の罰則も従来より厳しくなり,2013年6月の改正後はさらに強化された。また,生息地を保護区として指定し,そのうち繁殖,産卵などが行なわれる地域は開発行為を規制するなど厳しい管理を行なえる。さらに,希少種の保護増殖事業として,給餌,飼育増殖,生息環境の整備なども盛り込まれている。

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知恵蔵 「種の保存法」の解説

種の保存法

絶滅の恐れのある野生生物を保護するため、1992年に制定。環境省は、国内に生息する絶滅の恐れのある種を国内希少野生動植物種、絶滅の恐れのある動植物種の国際取引を規制するワシントン条約と協力して保存すべき種を国際希少野生動植物種に指定し、捕獲や譲渡を規制している。国内希少野生動植物種は、ほ乳類4種、鳥類39種、は虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類5種、植物19種の計73種。狩猟・捕獲を規制する鳥獣保護法だけでは野生動植物を守れないことから、生息地を保護区に指定する制度も作ったが、開発規制を嫌う地元自治体の抵抗で数は増えず、2006年6月現在、7種、8カ所に過ぎない。

(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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