アングル:米国の「オピオイド危機」、欧州にも波及の恐れ

アングル:米国の「オピオイド危機」、欧州にも波及の恐れ
 10月26日、米国で近年最悪の薬物中毒死を引き起こしている鎮痛剤オピオイドの乱用について、欧州でも警戒を高めるべきだ、と専門家は指摘する。写真はオピオイド鎮痛薬の錠剤。米オハイオ州の薬局で6月撮影(2017年 ロイター/Bryan Woolston)
Axel Bugge
[リスボン 26日 ロイター] - 米国で近年最悪の薬物中毒死を引き起こしている鎮痛剤オピオイドの乱用について、欧州でも警戒を高めるべきだ、と専門家は指摘する。欧州でもこうした鎮痛剤の処方が増加しており、悪用の恐れがあるためだ。
米国におけるオピオイド中毒は、1980年代のクラック・コカインなど過去の薬物危機と比べ、過剰摂取による死者数も多く、その期間も長引いている。医療専門家は欧州への波及を危惧している。
トランプ米大統領は26日、オピオイドの乱用問題で、公衆衛生の非常事態を宣言した。これにより、中毒患者が治療を受けやすくなったり、対策に必要な連邦政府のスタッフの確保が円滑になるという。
鎮痛医薬品コンサルタントのキャシー・スタナード氏は、処方された鎮痛剤オピオイドの悪用という、米国の「まぎれもない公衆衛生上の大失策」を受け、鎮痛剤処方の際に患者が中毒症状に陥ったり、最終的にヘロインに手を出したりするリスクの検討が行われている、と語る。
「欧州では、米国における議論のすべての側面に留意している。ただし、われわれの議論も、米国同様に増加しているオピオイド処方件数が起点となる」と、スタナード氏はリスボンで開かれた中毒問題の国際会議で語った。
米連邦保健福祉省でオピオイド中毒を研究しているクリストファー・ジョーンズ氏は、米国では長年オピオイドの処方が死者数を押し上げてきたと述べた。
「だが、その増加は、2011年ごろ以降鎮静化している。現在、新たに問題として浮上しているのは、合成オピオイドだ」と同氏は語る。
特に中国の麻薬組織が、新たな顧客を引き付けるため、より強力で危険な合成オピオイドを製造しているという。
2000年から2015年にかけて、モルヒネの50─100倍強力な鎮痛剤フェンタニルなどの合成オピオイドによる死者数は11倍以上増加した。同時期のオピオイド全般による死亡増加率は、約3倍だった。
ジョーンズ氏によると、米国における薬物過剰摂取による死者数は昨年、約6万4000人に達しており、2015年の5万2000から大きく増加した。その半数以上にオピオイドが絡んでいた。
一方、欧州での薬物過剰摂取による死者数は、2015年に3年連続で増加し、8441人に上っている。その81%が、ヘロインを含むオピオイド関連によるものだった。
この会議を主宰したリスボンに本拠を置く欧州薬物・薬物依存監視センター(EMCDDA)も、合成オピオイドの脅威が増大していることを認めた。
「この18カ月で、新しい強力な合成オピオイドが急速に出回り始めた。そのほとんどがフェンタニル誘導体だ」と、EMCDDAのポール・グリフィス氏は指摘した。「非常に強力なので、使用したり、偶然接触した人には大きなリスクとなる」
ジョーンズ氏は、米国においても、中国から新たな種類のフェンタニルが流入するという、似たような傾向が認められると語る。「人々は使用する薬物についての認識が不足しているため、自分の身を守ることができない」と同氏は述べた。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab