5月19日、札幌ドームでのナイターに備えて準備していた午後1時頃、一報が届いた。午後7時から行われるサッカー・ルヴァン杯の札幌・鹿島戦が、通常と違う形で開催されるというものだった。
野球とサッカーを兼用する札幌ドームは、サッカーの際、屋外に置いてある天然芝のピッチ(ホヴァリングサッカーステージ)をドーム内に移動させた後、90度回転させる。メーンスタンドから見て横向きにするのだが、この日は機械の不具合が発生したため、90度回転させることができなくなった。そのためメーンスタンド側がゴール裏になるという、2001年の開業以来、初めての形で試合が行われた。
札幌ドームによると、試合前日の18日に最初のトラブルが発生。屋外からピッチを全く動かすことができなかったという。その後、日付が変わった19日の深夜にドーム内に引き込むまではしたが、それ以上の復旧はできなかった。8300トンもの重さのピッチを空気圧で浮上させて動かすという方式は、そのシステムが稼働しなければ人力ではどうすることもできない。それでも試合開催へ、関係各所が最大限の努力を続けたことを後に聞いた。
札幌はいくつかの策を検討。屋外に置いたままの開催という案はナイター設備がないため不可能に。他会場への変更も模索したが、空いている場所がなかった。ピッチが動かなかった18日夜の段階では「試合中止」も選択肢にあった。引き込むことはできたが、通常と観客席からの見え方が変わる事もあり、19日午前の時点でも開催か否かは検討されたという。「お客様のことを考えたらこれ以上は引き延ばせない」と昼過ぎ、収支は度外視し、全額払い戻しでの開催を決断した。
試合は滞りなく行われたが、運営に関わる人々は徹夜で対応策をぎりぎりまで練り続けた。あるスタッフは眠い目をこすりながらも「これもいい記念」と前向きに捉え、試合終了後も動き回っていた。選手からも不満の声はなかったし、観客からも大きな苦情などは出なかったそう。試合を終え、安どする運営側の姿を見られたことは救いだった。
記者席から見る光景も普段と違い、選手が横ではなく縦に動くことに開始時こそ違和感はあったが、スライドや縦パスのコースなど違った見方ができ、一味違った面白みはあった。もう2度と体験できないであろう一戦に立ち会えたのはいい思い出だが、裏で支えた人たちの苦労を知ると、2度目がないことは切に願う。(北海道支局・砂田 秀人)