2019年11月17日 23時55分00秒

ディズニーが買収を繰り返したことによる成功と戦略とは?

By travisgergen

映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」が全世界興行収入の1位になるなど、数々の成功を打ち立てたディズニーが、どのような戦略で成長し、どのような問題を抱えているかについてを、ベンチャー投資家であるマシュー・ボール氏が語っています。

Disney, IP, and “Returns to Marginal Affinity” — Matthew Ball
https://www.matthewball.vc/all/marginalaffinity

目次:
◆買収によるIPビジネス
◆ブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)
◆ディズニーの成功と失敗
◆ディズニーの停滞
◆SVODによる新ビジネス

◆買収によるIPビジネス
ディズニーは2015年から2019年までの5年にわたり、映画分野で最高収益を記録。全世界の興行収入ランキングにも多数の作品が食い込んでいます。興行収入額でみると、過去に20億ドル(約2170億円)以上を記録した5作品のうち3作品、2009年~2019年の期間に10億ドル(約1090億円)以上を記録した36作品のうち23作品がディズニー作品でした。

2019年の全世界興行収入ランキングには「アベンジャーズ/エンドゲーム」「ライオンキング」「キャプテン・マーベル」「トイ・ストーリー4」「アラジン」の5作品がランクイン。さらに「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」「アナと雪の女王2」もランクインが期待されています。ボール氏は「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」もディズニー作品に数えているため、最大でトップ10のうち8作品がディズニー作品になる可能性があると記しています。


ディズニーは、ピクサー・アニメーション・スタジオマーベル・エンターテインメント21世紀フォックスなど、総額約3億ドル(約325億円)にのぼる買収を行ってきました。ディズニーに買収された企業は、ディズニー傘下に入った後、競合他社の利益を大きく上回るようになりました。一時はルーカスフィルムを売却しないと言っていたジョージ・ルーカス氏も、ディズニー傘下に入ったマーベル・エンターテインメントの成功を見て、ルーカスフィルムをディズニーに売却することを決めました。ルーカス氏は他社に入札されないようにするため、売却のことを周囲に公表しませんでした。1977年公開の「新たなる希望」以来、「スター・ウォーズ」シリーズの興行を手がけてきた20世紀フォックス、および分社化した21世紀フォックスですらルーカスフィルムの売却のことは知らされていませんでした。
By sharonmccutcheon

ディズニーの成功は、他社がまねできない経営戦略と、莫大な収益に基づく買収によって支えられています。それだけでなく、ディズニーの成功を理解するには、「ブランド・エクイティ」によって生み出される利益を理解する必要があるとボール氏は説いています。

◆ブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)
ブランド・エクイティに基づくビジネスは優れた営業力を持っています。人々を作品のファンにすることは、必ずしもコストがかかるものではありません。コストの低さに対して、ファンの愛によってもたらされる利益が大きいため、ディズニーのような企業は莫大な恩恵を受けることができます。ディズニーによる映画作品からの収益は過去数年間で増加しましたが、グッズ販売などの営業利益はより高いことから、ブランド・エクイティを活用したビジネスの奥深さがうかがえます。

以下でボール氏が示しているのは、ディズニーの分野別の営業利益率を示したグラフ。オレンジ色の点線で示された「Studio Entertainment」が映画作品からの収益、青い線で示された「Consumer Products & Interactive」がグッズ販売などの収益を表しています。


IPの価値は、希少価値のある限定グッズを登場させることでより効果を発揮します。映画のチケットやテレビの視聴者に上限はありませんが、たとえば「アナと雪の女王」に登場するエルサの限定ドレスを発売すれば、ファンはこぞって購入するはずです。作品に対するファンの多さは、実質的な価格設定力を高めることができます。

◆ディズニーの成功と失敗
マーベル・エンターテインメントは、2008年から約10年間で予想以上の急成長を遂げています。2015年以前は年間1~2本作品しかリリースせず、米国内で平均2億9100万ドル(約316億円)ほどの収益でした。2016年以降、マーベルシネマティックユニバース(MCU)として年間2~3作品をリリースし、1作品あたり平均4億5000万ドル(約489億)の収益をあげました。2016年以降に発表された映画11作品のうち、2015年以前の平均より少ない収益だったのは2作品だけでした。

MCUの収益が向上したのは、初期作品によって築き上げられた“信用”がファン増加と、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「ブラックパンサー」のような有名ではなかったキャラクターにスポットを当てた新たな企画を立ち上げたことによるものです。

一方で、2019年にカリフォルニアとフロリダのディズニーリゾートに登場した「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」の収益は思わしくなかったとディズニーは公表しています。需要の過大評価が、高すぎる入場料とアトラクション不足につながりました。スター・ウォーズ関連グッズの売り上げは、2015年の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」公開以降、大幅に減少していました。つまり、ディズニーはスター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジよりも2020年以降に登場予定の「アベンジャーズ・キャンパス」の建築を優先すべきだったとボール氏は述べています。

ボール氏の考えでは映画、音楽、本などの販売数は国民投票のようなものだとのこと。たとえば、2016年にDCコミックスは、「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」と「スーサイド・スクワッド」で、それぞれ1億6600万ドル(約180億円)と1億3400万ドル(約145億円)を売り上げました。しかし2年後の「ジャスティス・リーグ」は、DCコミックスのキャラクターで特に人気がある、バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマンが出演しているにもかかわらず、9300万ドル(約100億)と売り上げを落としました。また、Netflixの「Marvel ザ・ディフェンダーズ」シリーズは、各シーズンが長すぎるという理由で失敗に終わっています。

新しい作品を生み出すということは、ファンの期待に常に挑戦し、シフトする必要があります。いい意味でファンの期待を裏切るには、前作と同じ、またはより大きな感動を与えなければなりません。ファンを待たせたり、公開に時間がかかるほど、収益は不安定になってしまうとボール氏は語っています。
By jacoblund

◆ディズニーの停滞
ディズニーの映画における収益は、2020年以降大幅に減少する可能性があるとボール氏は述べています。この予測は、MCUの柱である人気キャラクター・アイアンマン役のロバート・ダウニー・Jr.とキャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスの契約が終了しており、「マイティ・ソー」の次回作「Thor: Love and Thunder(マイティ・ソー:ラブ・アンド・サンダー)」公開が2021年11月予定であるためです。ボール氏によると、もともとMCUの急成長は想定外のもので、将来的には適度なところに落ち着くとみているとのこと。

また、MCUの収益が向上した理由であった「知名度のあまり高くないキャラクターを用いたIP」が多いことは、停滞の理由としても挙げられています。MCUは2008年から展開された「インフィニティ・サーガ」(フェーズ1~3)が終わり、2020年からフェーズ4に突入します。その1本目である「ブラック・ウィドウ」は、S.H.I.E.L.D.のエージェントとしてアイアンマン2から登場したナターシャ・ロマノフ(ブラック・ウィドウ)を主人公とした作品ですが、原作コミックでそこまで人気があるわけではなく、ボール氏は「事実上、未知のIP」と懸念を見せています。

人気シリーズである「スター・ウォーズ」も、2015年公開の「フォースの覚醒」、2017年公開の「最後のジェダイ」に続く続三部作完結編「スカイウォーカーの夜明け」が2019年に公開されたあと、2022年以降にライアン・ジョンソン監督主導の完全新作三部作が公開されるまではテレビシリーズのみの展開となり、ファンの大幅な増加は難しいとみられます。

そしてピクサーは、2019年以降の数年間は「トイ・ストーリー」や「Mr.インクレディブル」のような既存のIPの続編ではなく、オリジナル映画を作成するようです。これは、ディズニーが新しいIPを得られるという意味で優れていますが、新しいIPをすぐに商用化する準備ができるわけではありません。テーマパークのアトラクションを構築し、商品の販売を拡大するには、年単位の時間がかかります。

By jakehills

◆SVODによる新ビジネス
既存のIPによる成長が見込めないディズニーが盛り返す要素として、スピンオフ作品の制作が挙げられます。たとえば「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は、奇抜なジャンルの作品でもマーベルが莫大な収益を上げられることを証明しました。しかし、前例があるものの、2020年公開の「ジ・エターナルズ」が同じレベルの成功を再現するのは難しいかもしれないとボール氏は述べています。

また、2019年にサービスを開始したDisney+は、スター・ウォーズ、マーベル、ピクサーのスピンオフシリーズを配信する予定で、中でもスター・ウォーズのTVシリーズ「ザ・マンダロリアン」は、「ウォーキング・デッド」や「ゲーム・オブ・スローンズ」レベルのヒットになる可能性があるとボール氏は述べています。

ボール氏は、Disney+は単なるSVODサービスではなく、ディズニーがファンの求める需要を正確に知るためのツールでもあると予測しています。人気があるのはどんなキャラクターか、どれくらいの頻度でコンテンツが見られているかを把握することで、コンテンツを適切に供給できるだけでなく、個々のファンの需要に対する供給をより最適化することができます。

最も重要なのは、Disney+がどのようにディズニーという企業を成長させ、ファンとの関係を育てるかだとボール氏は述べています。ディズニーはDisney+を通じて、予算がかかる映画をリリースすることなく、各キャラクターの認知度や人気を向上させることができます。ディズニーがSVODによる戦略を促進するのは、消費者がDisney+を見るために大金を費やしたり、外出したりする必要がないという点です。この戦略によって、ディズニーのIPストアの価値を急速に成長させる可能性があります。また、ディズニーはすでに、映画市場での成長が成熟していることを把握していることから、新しい市場を必要としているとボール氏は述べています。
By travisgergen

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