2011.11.21

成立間近小宮山洋子厚労相が推し進める「スゴい〝禁煙法案〟」

ホテルの部屋も、居酒屋も喫茶店も
吸えなくなる!喫煙室を作り替える必要も
11月6日、自宅近くのコンビニで買い物を終えた小宮山氏を直撃。なぜそこまでタバコが嫌いなのかは謎だ

 職場だけでなく、喫茶店でも居酒屋でもタバコが吸えなくなる---。そんな社会の全面禁煙化を視野に入れた改正法案が今国会に提出されようとしている。労働者の安全と健康を確保する目的で定められた労働安全衛生法の改正案である。

衆議院議事堂分館の喫煙室。壁で隔離されてはいるが、改正案が成立すれば、換気扇の改修が必要となる

 これまでは、'03年に施行された健康増進法に基づいて、学校や駅など公共施設での分煙が努力目標とされていた。今回は別の法律で規制しようというのである。厚生労働省がまとめた改正案には、職場のメンタルヘルス対策などとともに、「職場の受動喫煙防止対策として、職場の全面禁煙もしくは空間分煙の義務化」が盛り込まれている。つまり、あらゆる〝職場〟で禁煙と分煙が徹底されることになる。

 規制を受ける事業者は、一般的な企業の職場だけでなく、ホテルや旅館、居酒屋や喫茶店、パチンコ店も含まれる。それらすべてに対し、全面禁煙もしくは喫煙室の設置が義務付けられるのだ。しかも、喫煙室に関する規定が厳密で、室内の煙と粉じん濃度は0.15mg/m3以下に保つ義務がある。

 さらに、煙が喫煙室の外に漏れ出ないようにするため、非喫煙場所から喫煙室に向かって0.2m/秒の速さで空気が流れ込むようにしなければならない。タバコの煙が真横に流れるほど強力な吸引力が必要なため、既にある喫煙室の多くも、改修しなければ使うことはできない。求められる換気量は、現行の建築基準法の倍以上という厳しさだ。

「喫煙室を改修するにしても新設するにしても、空調設備に500万~600万円の設備投資が必要です。不景気で営業成績が上がらない会社や客が減っている中小の飲食店、旅館にとっては大変な出費となることは必至です。結果的に、ほとんどの事業所で全面禁煙となる可能性が高い。ホテルの個室にしても、規定の空調設備が必要なので、実質、喫煙ルームはほとんどなくなるでしょう。法案では、飲食店や措置が困難な職場については『当分の間は一定の濃度と換気を守ること』として例外を設けています。しかし、『当分の間』がいつまでなのかについて、今のところ、業界に対しても説明はありません」(全国紙政治部記者)

参議院議員食堂は分煙されているが、仕切りは天井には達しておらず、換気も弱い。やはり改修が必要だ

 政府は工事費用の4分の1(上限200万円)を補助するとしているが、その予算規模は'11年度で2.8億円。500万円で喫煙室を作ったとしても助成金をもらえるのは220件程度だ。こうした動きに対し、影響を受ける業界は反発を強めている。

「当会の会員は約8万5000店ですが、その8割近くは家族経営の零細店です。一斉に申請すれば、助成金は足りません。当分の間は猶予されたとしても、一定の濃度を守る義務はある。それを報告するために、粉じん計を購入したり、借りたりするのも大きな負担です」(全国飲食業生活衛生同業組合連合会)

「宴会場での喫煙が問題です。一定の濃度を守れと言われても、現実的には難しい。(宴会場を喫煙室と捉えて)0.2m/秒の気流を作るにしても、それ相応の機械を設置しなければなりません。宴会場から離れたところに喫煙室を作れば、苦情も出るでしょうし・・・・・・」(全国旅館生活衛生同業組合連合会)

タバコ嫌いで有名

 この労働安全衛生法改正案は、昨年末から菅直人内閣の細川律夫厚労相の下で検討されていた。その改正案に「たばこの受動喫煙は許さない」として、「受動喫煙防止」という項目を挿入したのが、タバコ嫌いで有名な小宮山洋子厚労副大臣(当時)だった。東日本大震災で一度ウヤムヤになったが、野田佳彦内閣で小宮山氏は厚労相に昇格し、ここぞとばかりに改正案成立に向けて躍起になっているのだ。改正案で最も大きな影響を受けるJT広報部は次のように語る。

「昨年11月に、厚労省で『職場における受動喫煙防止対策に関する公聴会』が行われましたが、当社は意見発表者に選出されませんでした。機会があれば、お話しさせていただく準備はしております。今回の改正案が『一方的か』と問われれば、『幅広い観点から、実態に応じた対策を検討していただきたい』とお答えしたい。受動喫煙に関しても、健康への影響に関する科学的な検証は不十分であると考えております」

 小宮山氏は大臣就任時には「たばこ増税」を突然口にしたために、安住淳財務相から「所管は私だ」と言われ、いきなり〝閣内不一致〟を起こしている。超党派の禁煙推進議員連盟で幹事長を務めたこともある小宮山氏は、健康思想を押し付けんがために、今回もやや暴走気味のようだ。業界への説明も不十分なまま、なぜそこまで改正を急ぐのか。自宅近くのコンビニで買い物をしていた小宮山氏を直撃した。すると、記者を睨み、

野田首相は一日2箱吸うヘビースモーカーとして知られる。改正案への態度は不明だ。左は安住財務相

「どうしてこういうところに来るの!」

 と言ったきり、一切質問には答えず、路上に駐車していた車に乗り込み走り去った。提出されれば成立確実とされるこの改正案について、愛煙家でもある山口俊一自民党総務会長代理が言う。

「労働安全衛生法の改正案ということだが『受動喫煙の防止』などという項目はこれまでまったくなかった。こんなものをこっそり法律の中に差し込むなら、改正案ではなくて『禁煙法』という新しい法律で出すべきです。こんな不況の時に多大な出費をさせるなんてとんでもない。根拠も曖昧な法律なんて断固反対です」

 愛煙家として知られる野田佳彦首相はこの法案を支持するのだろうか。

〔PHOTO〕片野茂樹(小宮山氏) 鬼怒川 毅

「フライデー」2011年11月25日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら

関連記事