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阿蘇火山地質図 解説地質図鳥瞰図
2:カルデラ内の火山と地層

中岳

 中岳火山は複雑な構成をもつ玄武岩質安山岩・安山岩の成層火山である.活動火口の東方に南北に延びる絶壁を連ねる頂上部は主山体(古期山体とよぶ)の大きい火砕丘の東半分であり,西半分は破壊されて,その位置に新期山体・最新期火砕丘がある.中岳頂上部の稜線は南北両端で西に曲り,旧火口縁を示す低い稜線に続き,それと最新期火砕丘との間の低地が砂千里ヶ浜である.

 古期山体の中央部は成層凝灰岩.溶結した凝灰集塊岩,中腹は非固結の黒色成層火山灰の厚い累層を主とし,溶岩流は山腹から山麓に多い.砂千里ヶ浜東方の絶壁は,いくつかの不整合で境された厚い火砕岩の累層からなる.砂千里ヶ浜南部付近の岩石は熱水変質を受け,白・緑・赤等に変色し,登山道の稜線近くでは変質した火砕岩を上位の新鮮な火砕岩が不整合に覆っている.

 活動火口を含む最新期火砕丘をとりまく様に新期山体の凝灰岩丘があり,第1火口の北東側に,その火口縁がよく現れている.この凝灰岩丘は中-細粒の成層凝灰岩からなる.この凝灰岩はマグマ水蒸気爆発によって砂嵐状に地表近くを横に移動したサージの繰返しによる堆積物である.この時期の溶岩流は,古期山体の西側を南北に流下している.

 最新期火砕丘は,南北に連なる火口群(図5を拡大する 第5図)を囲む複合した火砕丘である.凝灰岩(黒色,細かく成層)・溶結凝灰集塊岩(とくに第4火口周辺)・爆発角礫岩(第2・3火口縁上部などの灰白色の地層)の累層からなり,それぞれ噴煙型活動,ストロンボリ型の本質火山弾の投出,水蒸気爆発の産物である.中岳南東側には玄武岩の火砕丘・溶岩流からなる丸山火山がある.中岳火山と楢尾岳火山の下位には,それらと構造・組成が全く異なる別の火山体が伏在して,とくに南の白水村側に露出が多いので白水火山と命名した.デイサイトの溶岩流(黒曜岩や灰色緻密な溶岩)と少量の同質降下軽石,安山岩溶岩からなる.また,中岳西側,山上の北と南とに,おそらく独立した古い安山岩の火山体が露出しており,それらを地質図上では古期小火山体としてある.


高岳・鷲ヶ峰

 高岳は中央火口丘中の最高峰である.高岳火山は鷲ヶ峰火山がやや侵食された後,その頂上部南西側に噴出した,玄武岩・玄武岩質安山岩の小形の成層火山.頂上部には東西約700mの火口があり,頂上付近は鷲ヶ峰火山の上を覆う溶結火砕岩を主とし,南東側の斜面は溶岩・火砕岩からなる.鷲ヶ峰火山は,高岳北東の険しい岩峰群である鷲ヶ峰付近を中心とした,開析された玄武岩・玄武岩質安山岩の成層火山.中心部付近は溶結した火砕岩・貫入岩などからなり,それをとりまくように,成層した粗粒の火砕岩と少量の薄い溶岩とが分布している.高岳から北へ延びる仙酔尾根には整然と成層する火砕岩の累層が分布するが,この成層構造は高岳ではなく,鷲ヶ峰を噴出中心とした方向を示している.


楢尾岳

 やや開析された玄武岩・玄武岩質安山岩の成層火山.山頂から北西に開いた馬蹄形の火口地形がある.頂上付近は主に溶結火砕岩,中腹以下は成層した火砕岩と溶岩とで構成されている.仙酔峡有料道路終点西側,標高900m付近に露出する厚い溶岩は,前述の白水火山のデイサイト溶岩であり,楢尾岳火山の溶岩はその上を薄く覆い,北に流下している.


杵島岳・往生岳・米塚・蛇ノ尾

 玄武岩の火山群で,噴出口付近のスコリア丘と,そこから北・北西方に流下した溶岩流からなる(蛇ノ尾火山は米塚火山の溶岩流にとりまかれたスコリア丘が露出しているのみで,溶岩流を伴ったかどうかは不明).蛇ノ尾火山はやや古く,他の3火山は,杵島岳・往生岳・米塚の順に噴出した.杵島岳・往生岳両スコリア丘が形成された活動では高い噴煙柱が生じたらしく,カルデラ縁より東方まで2層の降下スコリア層として分布し,火山灰層中のよい鍵層となっている.杵島岳と米塚の中間には上米塚の小スコリア丘・噴出口群があり,県営有料道路沿いで,1つのスコリア丘の断面が観察できる.


草千里ヶ浜

 草千里ヶ浜火山は直径500mと1kmの二重の火口をもつ大きい軽石丘である.草千里ヶ浜の草原は内側火口から外側火口の西縁までの部分を新しい火山灰が埋積したもので,草原中央の南北にのびる丘陵が内側火口の西縁,その南端が破壊された溶岩円頂丘の残存部である.主軽石丘は大規模な軽石噴火の産物で,この降下軽石は南の烏帽子岳の頂上を含む北斜面をすべて覆っている(図4を拡大する 第3図).この軽石層は2つの層準で強く溶結し(溶結凝灰岩は草千里ヶ浜の火山科学館入口の壁の石材に使用されている),山腹斜面に沿う二次流動も起した.この降下軽石層は,橙黄色の特徴的な軽石層であり,その上位のAT火山灰層とともによい鍵層として,カルデラ外側,とくに南方に広く分布する.


沢津野溶岩

 沢津野溶岩は草千里ヶ浜火山の軽石層の下位にある黒色ガラス質のデイサイト溶岩で,湯の谷温泉北方の斜面を西に流下し,数鹿流ヶ滝上流側と栃ノ木温泉側とに向う2つの流れに分岐している.この溶岩の噴出口は確定できないが,草千里ヶ浜火山の軽石と鉱物・化学組成ともよく似ているので,同一噴出源かも知れない.


烏帽子岳火山

 烏帽子岳火山は草千里ヶ浜南方の,やや開析された、安山岩の成層火山.前述のように頂上部は草千里ヶ浜火山噴出物に覆われているので,烏帽子岳山体にみられる成層構造の上部は草千星ヶ浜火山,下部が烏帽子岳火山の噴出物である(図4を拡大する 第2図).烏帽子岳山体を作る火山の中心部は粗粒の火砕岩と溶岩流からなり,溶岩流は西に流下して地獄・垂玉温泉付近では数枚の溶岩流があり,その先端は国鉄高森線の線路傍にまで達している.


御竈門山

 烏帽子岳南方の,やや開析された安山岩の成層火山で,頂部に長径800m,東北東に開く馬蹄形火口がある.山腹には斜面に沿って流下する溶岩流の崖が連なっている.


夜峰山

 地獄温泉南側に頂上があり,南に凸な弧状の稜線が急斜面の山腹に続いている.山体を構成しているのは玄武岩の溶結火砕岩である.現在の山体は火砕丘の南半部にあたり,火砕丘の北半は破壊された後,火砕丘の南縁を残して後の堆積物によって埋積されたのであろう.夜峰山火山の南東側下位,御竈門山火山の上位に,玄武岩の火砕岩・溶岩流からなる小火山があり,これを松ノ木火山とした.夜峰山南西麓東下田集落の北には下位の安山岩溶岩があり,古期小火山体として示した.


本塚・灰塚・北塚

 国鉄豊肥本線内牧駅の北東,阿蘇谷の平坦面から突出するこの3小丘は,独立した1火山の残骸であり,この火山を本塚火山とよぶ.岩石は角閃石デイサイトであり,中央火口丘群中では特異な鉱物組成をもつ.各塚の基部には,細かい節理が発達した多孔質岩塊の累積からなる水中溶岩が露出し,一方,本塚・北塚の上部には,通常の陸上溶岩らしい緻密な溶岩が露出する.これは水面がこの両者の中間にあったことを示し,阿蘇谷が一時期,湖であったことの強い証拠である.


カルデラ西縁付近の溶岩類

 赤水溶岩は赤水付近に露出する輝石安山岩の溶岩流.吉岡溶岩は湯の谷温泉とその南方吉岡集落付近に分布する玄武岩の溶岩類.多量のかんらん石と大形の普通輝石との斑晶を特徴とする.軽微な熱水変質によって暗緑色を呈することが多い.赤瀬溶岩は黒川下流赤瀬付近から数鹿流ヶ滝まで黒川の河床を作り,滝の下流は段丘状に立野駅西方まで連続する玄武岩の溶岩流である.AT火山灰より少し下位にあり,この時期の立野の白川峡谷の下刻の深さを示している.立野溶岩は黒川数鹿流ヶ滝から立野までの峡谷の谷壁を作る,柱状節理の発達した,黒色の細粒安山岩溶岩.栃ノ木溶岩は栃ノ木温泉裏の崖に露出する板状節理の発達した無斑晶の安山岩溶岩である.東方の長野北方の道路傍には同質の溶結火砕岩が露出する.鮎返ノ滝溶岩は白川峡谷の鮎返ノ滝を作る溶岩とその下位との2枚の玄武岩溶岩である.


山麓部・平坦地の堆積物

 久木野層は南郷谷西部に標高370m前後の平坦面を作る,水平に成層したシルト・砂・火山灰等で,淡水産の珪藻化石を含む.栃ノ木・立野溶岩頃の時期に存在した湖の堆積物である.カルデラ埋積層は阿蘇谷の平坦面を構成するもので,阿蘇谷にたたえられた湖水による堆積物である.扇状地堆積物は火山体の山麓扇状地を構成する堆積物.崖錐は急斜面下の堆積物.カルデラ埋積層・扇状地堆積物・崖錐の間は漸移的で境界は必ずしも確定できないところがある.南郷谷西部の白川沿いには小規模な河岸段丘があり堆積物をのせている.降下火山灰は急斜面を除き事実上すべての岩層の上にあり,古い岩層の上ほど,また東方にあるほど厚く堆積している.地質図には降下火山灰が厚く分布し,その下にある岩層が全く露出していない場合のみに塗色してある.


阿蘇カルデラ

 カルデラ壁には,カルデラの形成に導いた火砕流群と阿蘇火山以前の古い火山岩類との双方が露出し,古い火山の部分の方が大きい.カルデラ壁直下には基盤の白亜紀花崗岩と堆積岩(田中伸廣,1985,私信)に150-500mで達する5本の試錐があり,基盤の陥没部分は地形としてのカルデラの輪郭よりも小さいことを示している(図4を拡大する 第3図).


根子岳

 東の裾野を除き,ほとんど全容がカルデラの凹地内にあるので,中央火口丘の1火山と考えられていたが,Aso-3火砕流よりも下位にあり,後カルデラ火山ではない.15万年前頃に形成された安山岩の成層火山.深い放射谷に開析され,中心から対称的に外に傾く溶岩・火砕岩の成層構造が南北側からはよく見える.東西両側は火山斜面が保存されている.頂上部の稜線は硬い溶岩層の突出によって鋸歯状をなしている.その中央の岩峰,天狗岩は中央火道部の岩脈で,周囲には数本の放射状岩脈があって,いずれも板状の岩峰として周囲から突出している.この火山の岩石は玄武岩質安山岩・安山岩で,輝石の他に角閃石斑晶を伴うものもあり,化学組成も他の阿蘇火山の岩石と異なる(図4を拡大する 第4図).重力(ブーゲー)異常からも,カルデラ縁として自然な位置にある(図4を拡大する 第3図).


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