Special Talk Session#56

Keyキネティックノベルプロジェクト『LOOPERS』竜騎士07スペシャルインタビュー

『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』『Harmonia-ハルモニア-』などを生み出してきたKeyの キネティックノベルプロジェクトに新たな動きが!
まずは2021年春にリリースを予定している新作『LOOPERS』からシナリオを担当した 竜騎士07さんをお迎えし、たっぷり語ってもらったぞ!

photo = Toru Izumisawa
interview = Katsuyoshi Tanaka

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秋葉原での隠れ面接の結果
『Rewrite』に参加することに

新作『LOOPERS』のお話をうかがう前に、まずは竜騎士07さんがKeyと関わるきっかけみたいなところから訊いていきたいと思うのですが、どんないきさつがあったのでしょう?

もう20年くらい前のことになりますが、当時は僕、Keyさんのいちユーザーだったんです。出会いの作品はでしたね。そこからへと遡って、泣きゲーというジャンルにどっぷりと浸かっていきました(笑)。とくに『Kanon』に登場するヒロインたちは今の世界においてもキャラが立ちまくっていて、僕はあのとき「ヒロインの設定とはここまで攻めていいんだ!」と大いに感銘を受けたんですよ。それは後に書くのキャラクターたちにもインスパイアされているくらいで、当時からそれくらいヘビーにKeyさんを愛しておりました。

そんな竜騎士07さんがでKeyとタッグを組むことになりましたが、誰かからの指名があったのでしょうか?

僕もその辺は定かではないんですが、ひとつ言えるのは秋葉原でを開催していたことがありまして、そこに「よかったら見に来ませんか?」とお誘いをいただいたことがファーストコンタクトだったのかなと。僕としたら愛してやまないKeyさんからのお誘いだったのでふたつ返事で「はい!」だったんですけれど、一方ですごく不思議にも思っていたんですよ。なぜ誘ってもらえたんだろうって。でも今になって思うとあれは隠れ面接だったのではないかなって……(笑)。

あははは、隠れ面接ですか。

だって当時の僕はそれこそ、馬場社長をはじめKeyの皆さんとの面識なんてほとんどなかったわけですよ。だからKeyさんサイドでも仕事を依頼する前に「竜騎士07はどんな人間なのか」みたいなことを知っておきたかったという推理は大きく外れてはいないと思うんですよね。実際あのあとに『Rewrite』へのお誘いがあったわけですし。

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そんな隠れ面接の末に参加された『Rewrite』ではルチア編(此花ルチア)を担当されました。

当時は自分の作品を半年に1本ペースで出していまして……。たしかお話をいただいたときもの執筆真っ最中だったのでそれほど多くの文章は書けなかったんですけれど、冬コミから夏コミまで8か月空いているんですよ。その前半の4か月……、つまり1月から4月までだったら時間が取れるなと、参加させてもらいました。

執筆時の思い出やエピソードはありますか?

田中ロミオ先生が1ヒロインくらい脱稿しているだろうからその文章を読んでから取り掛かれるなと考えていたんですが、僕が書き始めなければならない時期はその脱稿の前だったので、結果的には設定資料を片手に僕が真っ先に書き始めなければならなかったことです(笑)。

ええ! 『Rewrite』は竜騎士07さんが最初に書き始めていたんですか?

はい。でも引き受けた以上はやるしかないという気持ちもありましたし、『Rewrite』だけに「何かあったらリライトするからとにかく書きたいように書いてくれ」と言われていましたのでとにかく書いてみようと! 脱稿の瞬間はそれこそ「憧れの会社で仕事ができて我が生涯に悔いなし!」の気持ちでしたよ。そんな昇天から幾年月。今回という形で再びお誘いしていただけたことで、うれしさも倍増ですよ。

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もう少し『Rewrite』のお話を訊きたいんですが、個別ルートはさておき、さすがにメインルートはあったんですよね?

それも割りと途中でしたね。ここからはもし言ってはいけない発言だったらカットしてもらいたいんですが朱音周りの設定もかなり柔らかい感じで……、ガイアとガーディアンの具体的な組織設定もふわっとしていたんです。だからこそ、僕もそこは勝手に解釈して「間違っていたらなんとかしてくれるだろう」という気持ちで書き進めたんですが、意外とガッツリそのまま使われていて(笑)。若さゆえのなんちゃらってやつですよね、懐かしいな……。楽しかったな……。

たしかプロットでははふわっとしていたそうですし、それにルチアに関してもなかったとも聞きました。

そうなんです。じつは最初、ルチアという女の子はいなかったんですよ。小鳥、ちはや、朱音、静流はいたんですが、そんな中でガイアはふたりいるのにガーディアンは静流ひとりだけじゃないですか? そこで僕は「もうひとり作ります」と提案させていただきルチアを書かせていただくことになったんですよ。だから自由にやらせてもらった部分はありました。

Keyで仕事する前はファンという立場だった竜騎士07さんですが、実際仕事で関わって印象が変わった部分はありましたか?

結論からいうと変わらなかったですね。はじめて大阪にある本社におうかがいしたときにも「これだけ尖った人たちが集まっている会社だからこそ、素晴らしい作品の数々を生み出せるんだ!」と納得しましたからね。もちろんいろいろと物珍しくて「完全防音の中で仕事をしているな」とか、「きっとこの窓から監視されてるんだろうな……」なんていろいろ妄想を膨らませていましたけれど、そんな妄想ばかりではなく個人のやる気をしっかりと受け止めようという社風が見てとれたこともあり、感動していましたから。やっぱり尖った作品を生み出す会社には、麻枝さんを筆頭に尖った方々がいらっしゃる。それこそ馬場社長からして尖っていらっしゃいますからね!

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※1 『AIR』
2000年9月8日に発売したKeyの第2作目。TVアニメや劇場アニメにもなっている。

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※2 『Kanon』
1999年6月4日に発売したKeyした処女作。2度TVアニメになっている。最近、グッドスマイルカンパニーのねんどろいどに、ヒロインの月宮あゆが発売になり、ビジュアルアーツ社内の誰もが「なぜ?」と思ったとか思わなかったとか。

※3 『ひぐらしのなく頃に』 監督・脚本を竜騎士07さんが手掛けるサウンドノベル作品。もともとは同人としての発表であったが、さまざまなメディアミックス展開が行われている。

※4 『Rewrite』
2011年にKeyより発売。従来の制作スタイルとは変え、メインシナリオライターにゲームシナリオライターであり小説家の田中ロミオさんを起用。サブライターとして竜騎士07さん、都乃河勇人さんが参加して作られた。2015年にはアニメ化もされ、特に中国国内では絶大な人気を誇る。

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※5 リトルバスターズ!原画展
2007年5月に東京と大阪にて開催した『リトルバスターズ!』の原画展。原画だけでなくヒロインのひとりである棗鈴の等身大フィギュアなども展示した。

※6 『うみねこのなく頃に』
竜騎士07さんの代表作のひとつ。『ひぐらしのなく頃に』の血脈を受け継ぎつつ、全く別の世界観で表現されている。同様にもともとは同人としての発表だったが、さまざまなメディアミックス展開が行われている。

※7 キネティックノベル
ビジュアルアーツが制作する短編のビジュアルノベルの名称。映画やアニメを楽しむような受動的な感覚と、コミックや小説を楽しむような能動的な感覚を楽しむことができるジャンルとして提唱している。

※8 ガイアやガーディアン
『Rewrite』に登場する組織名。魔物使いたちからなる「鍵」を崇め星の再生を掲げる「ガイア」と、ガイア主義や魔物を討ち人類の存続を掲げる超人たちからなる「ガーディアン」で敵対している。

※9 折戸伸治作業部屋
Keyのコンポーザー折戸伸治が作業を行っている部屋。音楽制作を行う関係から防音の個室となっているが、中の様子を見られるように壁には大きな窓が付けられている。

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Special Talk Session#56

Keyキネティックノベルプロジェクト『LOOPERS』竜騎士07スペシャルインタビュー

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ブランドイメージを考えて
ホラーは抑え目に描いた

それではあらためて新作『LOOPERS』のお話を伺っていきたいと思うのですが、まずは企画の立ち上げからお聞かせいただきます。

そこはディレクターの高田さんからも説明してもらったほうが良さそうですね。

かしこまりました。『LOOPERS』のディレクターをしておりますビジュアルアーツ企画進行室の高田です。『LOOPERS』は宝探し――それもという、実際にある宝探しゲームをモチーフにした物語を作ろうというところからはじまりました。そこから詳しい内容に関しての会議になっていくんですが、そこで「宝箱の中になにが入っている?」という議題が出たときにプロデューサーの丘野塔也さんが「人の指とか入ってたら面白くない?」と発言したんですよ。この発言のインパクトが強くて、そこからプロジェクト『LOOPERS』が本格的に走り出すことになります。もちろんKeyは「泣き」が絶対のテーマですので、今回のコンセプト「宝探し×ホラー×泣き」という骨子をつくりまして、その時点で「このコンセプトだったら竜騎士07さんしかいないだろう」とお声掛けさせていただきました。

そうなんです、僕が最初に聞いたのも「宝探し×ホラー×泣き」でお願いしますというお題でした。「泣き」という王道、そして「宝探し」という最近のノベルとしては珍しいお題目、そして「ホラー」ですから、僕が今回呼ばれた理由はやっぱりホラーなんだろうなと思いましたけれど、それでいて宝探しですからね! 楽しそうだなと快諾させてもらいました。

そこから『LOOPERS』をどのような物語にしていこうと考えていたのですか?

僕はホラーだけでなくループ作家みたいな評価もいただいているので、プロットの段階から同じ日を繰り返す「ループ」を取り入れてみようと。ありがたいことに練り込む時間はたっぷりいただいていましたので、プロットの時点で何度も議論を交わしながらかなり丁寧に描きあげていきました。例えるならば『Rewrite』が若さと勢いで書いた作品とするなら『LOOPERS』はこれまでに培ってきたベテラン的な知識を総動員した作品。もしかすると僕の人生でいちばん丁寧に作り上げていった作品かもしれません。

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ところで先ほど話題に出た「ジオキャッシング」は耳慣れない言葉でしたが、竜騎士07さんはご存知だったのでしょうか?

僕も知りませんでしたし、最初に宝探しと聞いたときは「徳川埋蔵金」を思い浮かべました(笑)。そこから「ジオキャッシング」という存在を教えてもらい、実際にアプリを入れてやってみたんですが、残念ながら宝物を見つけることはできませんでした。隠した時期が昔すぎて誰かがすでに取っていたのか、それこそ街中に隠されている宝なので見知らぬ誰かが片付けちゃったかだと思うんですが、その「有るか無いか」もまた宝探しの醍醐味だなって感じました。ちなみに作中ではジオキャッシングではなく、ジオハンティングとなっています。

その『LOOPERS』はキネティックノベルという体裁でのリリースとなりますが、竜騎士07さんはキネティックノベルについてはどう感じましたか?

映画みたいに1本まるっと通して見られるシナリオ量。それでいて起承転結がしっかりとしている物語。そんな気持ちのいいサイズ感は気に入っています。

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通常の美少女ゲームとは違い選択肢のないお話という点もキネティックノベルの特徴ですが、選択肢の有無は気になりませんでしたか?

僕はそれほど選択肢を作る作家ではないですし、選択肢というのはユーザーにその瞬間を悩んでほしいときに入れるものだと考えています。でも『LOOPERS』に関しては純粋に「映画のように読める作品」を目指していますので、そこは気になりませんでしたね。

ではそろそろ本題……といいますかファンの声を代弁しておうかがいしますが、竜騎士07さんのシナリオということで「かなりのホラーになりそう」と予想しているファンも多いと思います。先ほど「人の指とか入ってたら面白くない?」みたいな発言もあったと聞きましたが、実際のところはどうなのでしょう?

あくまでもその発言は「宝探し×ホラー」を生み出す上での一例で出た言葉ですから誤解しないでくださいね(笑)。しかし実際に宝箱に指が入っているのか、はたまた別の何かが入っているのかは本編までのお楽しみということで勘弁してください。僕的にはKeyさんのブランドイメージもありますのでやっぱり泣き7割に対してホラー3割くらいのイメージで書かせていただきましたし、あまり「ホラーだ! ホラーだ!」というと語弊があるので僕は「ミステリアス」といっているんですが、そのミステリアスパートは掴み部分に多くて、そこから「ああ、そういうことだったのね」となってからの真オープニング以降は泣きに向かっての物語になっていくので、ホラーテイストはかなり抑えたつもりですよ? これ以上話すと全部しゃべっちゃいそうなのでこれくらいにしておきますが、とにかく最初から最後まで下腹に力を込めて読ませるような作品ではないと断言しておきますのでご安心ください。子供が見ても大丈夫!

それを聞けただけでも少しホッとしました。

とはいいましたが、やっぱり僕も「人の指が入っていたら面白くない?」のインパクトに惹かれたのは事実で、作家としての血が騒いだのか「こういうのはどうでしょう?」と別の提案もさせてもらったんですよ。そうしたら「いや……、それはKeyのテイストとしては……」と無事却下されてしまったという裏話もありましたけれどね(笑)。それに何よりジオキャッシングという実在のゲームを参考にさせてもらいましたので、悪用してはいけないという気持ちもありました。実際に宝箱に指を入れる人間が出てきたら迷惑をかけてしまうことにもなりかねませんし、楽しい宝探しゲームを穢したくもありませんからドギツイ表現は無しの方向で……。その結果、物語をきれいに落としこめたのではないかなと感じていますから。

きれい、ですか? それはどういう意味で?

物語はいってしまえば王道と邪道とのバランス。王道というのは起承転結がしっかりしていて読後感もよい物語。王道の物語をマンネリだと嫌う人もいますが、実際はみんな王道が好きなんですよ。だってみんなが好きだからこその「王道」なわけですから。じゃあ邪道はどうなんだというと、これは王道の果てに少しだけ崩しが入る物語だと僕は思っています。だから「王道なくして邪道なし」という言葉があるわけですし、そのさじ加減が「物語を作る上で大切なのは王道と邪道とのバランス」という話に繋がってくるんです。王道ばかりの物語では舌の肥えたKeyファンに「今さらこんな普通の話を作る必要あるの?」とそっぽを向かれてしまうでしょう。そこに竜騎士07という劇薬――つまり邪道を連れてきた。僕に声がかかった理由はそこにあるのかなって思っています。

そのバランスがうまく取れたというのが「きれい」なんですね?

はい、そうです。Keyファンが求めるひとつの様式美、作法、お約束の王道に対して僕はどれだけの劇薬を垂らしたらいいのか? ただ単にいい話にするだけだったら僕じゃなくてもいいんですよ。でもあえて僕が呼ばれた。それならば竜騎士07という個性を出しつつKeyファンが納得する形を模索しなければいけないじゃないですか? しかもという作品がある中で新たにキネティックノベルシリーズの一員に加えてもらえたわけですから「この話をキネティックノベルで読めてよかった」と感じてもらえなければダメ。それもあって『LOOPERS』が内包する世界観を大事にしながら王道と邪道の調整に長い時間をかけてきたのですが、それが最終的に「きれいに落とし込めた」という話です。

ディレクターとしても竜騎士07さんが提出してくれたプロットはキネティックノベルだからこそのチャレンジと、Keyのブランドカラーが見事に両立している内容だと感じましたし、そのバランス加減はさすが竜騎士07さんだなと感じました。

長い時間をかけてプロットを練っていったのはそういう部分だったんですね。

そうなんです。ただグロイ話、ただただショッキングな話であればいくらでも書けます。でも歴史あるキネティックノベルのライターとして呼んでいただいたということは、グロイ話だけが必要なわけじゃなく「宝探し×ホラー×泣き」の心地よさが必要だったからだと思っていますし、その期待には応えたかったですからね。

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※10 ジオキャッシング
GPS(現在位置を人工衛星からの電波で測り知る装置)を利用した宝探しゲーム。2000年にアメリカで誕生したといわれている。

※11 『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』
Keyからリリースされたキネティックノベル作品。英・簡中・繁中・ドイツ・フランス・スペインなどの多言語化すると同時に、アニメ化なども展開を行われている。

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※12 『Harmonia-ハルモニア-』
2016年に全世界対応のダウンロードサイトSteamにて、海外先行販売として英語版を発売し、その後コミックマーケット91にて日本語版を発売した……という異例のリリース方法を行ったKeyのキネティックノベル作品。

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Special Talk Session#56

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「みんなの輪に加わる」という点は
しっかり書こうと思っていました

ここからは『LOOPERS』の世界観について訊いていこうと思うのですが、まずは主人公のはどんな男の子になるのでしょう?

望月けい先生の絵を見た皆さんはとてもクールな男を連想したんじゃないでしょうか? でも物語の彼は、単純で、おバカで、表裏のない根アカな男として描かれています。ひとことで例えると「黙っていたらイケメン、しゃべると残念」な男子かな? それでも非常に前向きでポジティブで、熱烈な宝探し信者でもあります。日本のみならず「世界中に隠されている宝物を探す冒険に出るんだ!」という熱い思いを胸に、彼はこの夏休みも毎日のようにスマホを片手に走り回っています。

物語の序盤、そのタイラはと出会いますね。

ミアはタイラとは真逆で見たままの野良猫みたいな女の子。でもここも野良猫みたいなんですが、一度気を許すとベタベタと懐いてきちゃう。ということで、ひとことで例えると「距離感が極端な女の子」になるのかな? 彼女はとある理由から対人関係が希薄だったので人との距離感が「他人」or「家族」みたいところがあるんですよ。物語的にも重要なヒロインで、タイラ的には冒頭のミステリアス部分では「おまえは何を知っているんだ……」的な謎の少女でもあります。

そのミアもルーパーズの一員なんですよね?

はい。この世界には「今日の1日を無限に繰り返す人たち」というのが存在していて、それがルーパーズという集団になるんですが、彼女もその一員です。このルーパーズとは「永遠に繰り返す今日から、明日へと抜け出したい」と願う者たちの集まりでして、主人公のタイラもある日を境にルーパーになってしまうわけですが、最古参のメンバーには10年以上同じ日を繰り返している人もいます。

10年も同じ日を繰り返すとなるとさすがに無気力になりそうですね。

最初は楽しいでしょうけれどね。ただこのルーパーズは同じ境遇の者たちがただ集まって傷の舐め合いをしているというわけではなく、いざこのループから抜け出したときに正しい明日を過ごせるよう訓練をしている集団という側面もあるんです。究極的な話をしてしまえばループ世界で罪を犯してしまっても翌日になるとなかったことになるわけですが、もしループせずに明日になってしまえば惨劇になってしまうじゃないですか? 神の領域まで近づいてしまった者たちが、いつか人間に戻るときに備えて正気を保つための寄り合いがルーパーズなんです。

記憶の持ち越しはあるわけですか?

逆にいうと記憶の持ち越し以外はできない世界です。具体的な例をあげると、使ってしまった財布の中身も戻るけど、最初から入っていないお金は増えることはないみたいなやつです。ただこの「記憶がある」というのが厄介な話で、毎日毎日同じ日を繰り返していくわけですからなにをやってもマンネリ化してきちゃう。それに何をやってもゼロに戻ってしまうので生産性もゼロ。たとえ小説を書いても次の日には白紙に戻ってしまう……、クリエイターには厳しい世界です(笑)。

もし竜騎士07さんがそんな同じ1日をループしてしまう世界に陥ってしまったら何をするんでしょうね?

僕はもうオジサンなのでマンネリ化した世界でもなんとか生きていけるでしょうね(笑)。インターネット環境さえあればずっと楽しめそうですし、ゲームだって最新の作品からレトロゲームまでたくさんあるじゃないですか? しかも年を取ると同じゲームを長く遊ぶようになるんで永遠に遊んでいそうですね。ロールプレイングゲームはセーブをしても戻っちゃうから遊ばないかもしれませんが、アクションゲームならずっとできますし、スマホゲームも新規登録をすれば毎日初回無料ガチャが引けちゃう……って、これは次の日になるとが消えちゃうからダメか(笑)。ただ若者にとっては地獄のような世界なんだろうなと想像しながら書きました。だって何も変わらないし、何も生み出せない。若者にとってこんな苦痛はないと思いますよ? 食事すら採らなくていいのだから、ひょっとすると長い間食べ物を口にしていない人がいてもおかしくないですし。食事をするという楽しみすら色褪せていく世界……恐ろしいですよね。

話をタイラとミアに戻しますと、そんな世界でタイラが何かしらの光明をもたらす存在になるのですか?

ええ。それと同時にここで出てくるのが先ほどから話題に出ていた「宝探し」です。宝探しと聞くと皆さん中身が気になるかと思われますが、タイラは宝探しという行為そのものに意味を見出している男の子なんですよ。それからもうひとつタイラの哲学に「宝探しとは、隠した人のことを信じなければ成立しない」というのがあるんですが、それは宝を見つけたことではじめてその信頼関係が証明されるという考えで、ここが宝探しの醍醐味でもあり、物語のテーマのひとつでもあるのでそんな宝探しが物語にどのように関わってくるのかを楽しみにしていてください。

では質問の方向を変えて、タイラとルーパーズの関係はどのような感じになりそうですか?

Key作品といえば気心が知れた、仲のいいグループが形成される話が多いですよね? 実際に麻枝さんが描いた『リトルバスターズ!』の世界がまさにそれですよね。不思議なヤツらだけど仲良くなれた。大勢の友人ができた、と。ですので『LOOPERS』でも気心が知れた仲間たちができるというところは大事にしましたし、今回もループ世界に閉じ込められたタイラが「ミステリアスな人物たちに出会う」ではなく、「みんなの輪に加わる」という点はしっかり書こうと思っていました。

タイトルもLOOPERという単体ではなく『LOOPERS』と“S”が付いていることが重要で、仲間の部分を大切にしています。

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グループを魅力的に描くといっても、それを表現するにはメンバーそれぞれを魅力的に描かなくてはならないわけですから、実作業は大変だったのでは?

たしかに言われてみるとそうですが、僕としてはキャラクターの性格を決めていく時点からすでに楽しかったですし、それぞれの出番だったり個性があったらいいなと思いながら物語を書いていましたから、大変ではありましたが楽しく書かせてもらったという思いの方が大きいですね。

おかげさまでこれまでのKey作品にはいなかったようなキャラクターたちが誕生したなと感じています。個人的にルーパーズの中では、が好きなんですよ。

僕はが印象的かな? 彼みたいな筋肉キャラは麻枝さんの作品だったら必ずひとりはいなければならないだろうと組み込ませてもらったんですよ。

せっかくレオナやジョウという名前が出たので、タイラやミアだけでなくルーパーズの主要メンバーも紹介してもらえますか? 

まずリーダーはという大学生で、ルーパーズの変態枠です。変態といっても性癖うんぬんではなく、超お金持ちだったり、瞬間記憶能力を持っていたりという意味での変態なので……敬意を表して「天才枠」ということにしておきましょう(笑)。

ツインテールが印象的なはいかがでしょう?

こちらはずばり「頭突き系ヒロイン」です。そのキャッチフレーズから連想されるようにカラッとした女の子ではあるんですが、その反面ビビリな一面もあります。そんなヒルダに毎回頭突きを喰らうはめになってしまう不幸系少女がレオナなんですが――。

彼女からは不良っぽい雰囲気を感じますね。

と、思いますよね? でもレオナをひとことで例えるなら「不良ぶっているニート」なんです。個人的にも本来悪くない子が悪ぶっている姿は書いていてかわいかったなと感じていましたし、このレオナと先ほどのヒルダの仲がすこぶるいいのも書いていて楽しい部分でした。途中から「もう結婚しちゃえばいいじゃないか!」と思っていましたからね。

そして竜騎士07さんのイチオシのジョウ。

先ほどもチラッと紹介したように彼は筋肉キャラ。ループ世界に閉じ込められた当初は「無限に筋トレができる!」と浮かれていたんですけれど、結局ループする世界ではいくらトレーニングをしても筋肉がつかないと気がついてしまいまして、今は生きる意味を見失っているところです(笑)。

あははは! いいですね、その無力感! 設定を聞いただけで彼の性格が伝わってきます!

という女の子は人気動画投稿者。しかしループ世界ですから、どれほどいい動画を上げて再生数も増えようが、「いいね」がたくさんつこうが、結局はゼロに戻ってしまうんです。それだと創作意欲もなくなってしまいますよね? こうしてやはりジョウと同じように無気力になっていくんです。

最後に残ったのがオッドアイの

彼女はイラストが上がってきたときはメガネキャラだったんですが、サイモンがいたので外してもらいました。職業は漫画家。どれだけ描いても翌日になると原稿用紙が真っ白になってしまうので、情熱をどんどん失って……と、この辺はホリーやジョウと同じですね。そういう意味ではジョウ、ホリー、リタポンにとってはとくにループ世界は地獄かもしれませんね。

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アプリゲームのガチャなどで最高レアのカードやキャラクターのこと。

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冷静沈着なルーパーズリーダー
サイモン
「諸君を歓迎すると共に、形容の出来ない不運に巻き込まれたことに、心より同情申し上げる」

眼鏡の似合う、クールな男子大学生。
ルーパーズの決起者で相当の長い期間をループ世界で過ごしている。
ある種のサイコパスでどのような異常な状況下にも動じず冷静。
達観し過ぎていて、精神年齢はもう老境に達している可能性も。
天才的な暗記力がある。生きる記憶装置。

本名:西門 貴明
学年:大学4年生
誕生日:3月5日
<身長:181cm
好き:査読付き論文閲覧、ハンドスピナー

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筋トレバカなムードメーカー
ジョウ
「任せてくれ! 僕の筋肉が嬉しい雄叫びをあげているよッ」

体格がよく、筋トレが趣味。
明るいムードメーカーであり、単純で、タイラと同等のバカ。
事あるごとに筋肉を見せつけてくる。

本名:霧島 譲
学年:大学1年生
誕生日:6月6日
身長:178cm
好き:オリジナル筋トレの考案、オリジナルプロテインドリンク作り

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まっすぐで熱くて元気、生粋の宝探しバカ
タイラ
「だったら、宝探ししようぜッ!!!」

幼い頃は芋っぽかったが、今はなかなかのイケメンに生まれ変わっている。
しかし、中身は小学生のまま。バカで熱くて単純。そして元気。
いつでもトレッキングに出掛けられそうな格好をしている。
その正体は生粋の宝探しバカ。
この夏休みをすべて使って、都内にひしめく様々な宝探しに没頭している。
ヒルダ、レオナと同じ小学校出身。

本名:平良 明
学年:高校1年生
誕生日:7月21日
身長:172cm
好き:宝探し、戦隊ヒーローショー

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ビビりでアホの子、頭突き系ヒロイン
ヒルダ
「誰がッ! 不良だッ!! お酒は! 二十歳に! なってからだッ!!!」

一見ガラが悪いが、根は真面目で育ちが良い。
身体を動かすのは得意だが、頭を使うのは苦手。
ツッコミに頭突きを食らわす、頭突き系ヒロイン。
タイラとは別ベクトルのアホな子。
ホラー全般が非常に苦手。いつもレオナにビビりだと揶揄われている。
タイラ、レオナと同じ小学校出身。

本名:昼田 貴理子
学年:高校1年生
誕生日:9月13日
身長:159cm
好き:レオナとおしゃべり、セルフィー

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チャレンジ系動画の人気インフルエンサー
ホリー
「面白かったらぜひ! チャンネル登録をお願いするでありますっ!」

ホーリーナイトチャンネルという個人動画チャンネルを持ち、登録者数100万越えの人気インフルエンサー。
軍人口調でおバカなチャレンジ系動画を投稿している。

本名:堀井 佐奈
学年:大学1年生
誕生日:12月27日
身長:164cm
好き:帽子集め、下町ぶらりひとり旅

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ミステリアスで猫みたいな少女
ミア
「覚えなくていいです。……でももし――覚えていることが出来たなら。その時に、また逢えるでしょう」

警戒心の強い猫みたいな表情をしている。なかなか笑わない。
ただし、一度気を許した相手には全幅の信頼を寄せる。
あまり過去のことを語ろうとしないミステリアスな少女。
幼い見た目に反して、大人びた言動をとる。
明太子に一家言をもっている。

本名:藤川 みあ
学年:中学2年生
誕生日:4月2日
身長:148cm
好き:リップクリーム集め、明太子

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中二病患者の人気イラストレイター
リタポン
「よくぞ来た、我ら呪われし輪廻者の集い、ルーパーズへ。歓迎しようぞ」

ミラクルエナジー☆リタポンDのペンネームで活動している人気イラストレイター兼漫画家。
書店流通網の外で活躍している。
重度の中二病。

本名:利田 美咲
学年:専門学校2年生
誕生日:5月8日
身長:156cm
好き:コスプレ衣装作り、アニメ鑑賞

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病んでる系ダウナー少女
レオナ
「クスクス……ヒルダ、やっぱメッチャおもしれーしぃ」

感情の起伏が少なく、クールなダウナータイプ。
無口というわけではなく、おしゃべりは好き。
ヒルダを揶揄うのが趣味。
元々優等生だったが、とある経験から印象がかなり変わってしまった。
タイラ、ヒルダと同じ小学校出身。

本名:町村 玲央奈
学年:高校1年生
誕生日:2月24日
身長:158cm
好き:ヒルダとおしゃべり、新作のコンビニスイーツ

Special Talk Session#56

Keyキネティックノベルプロジェクト『LOOPERS』竜騎士07スペシャルインタビュー

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最後にこれだけは伝えたい
『LOOPERS』は怖くない!

そんなメンバーたちをイラストレイターのさんが、スタイリッシュに描いてくれてますね。望月さんを起用した理由は?

キネティックノベルはチャレンジができる場でもあります。竜騎士07さんのシナリオに、従来のKey路線の絵をつけるのは違うのでは?という話になったんです。そこでお声掛けさせていただいたのが、最近若者の間で支持を集めているイラストレイターの望月けいさんでした。望月さんはひと目で、望月さんのイラストだとわかる非常に個性の強いイラストレイターさんです。また、竜騎士07さんも言わずとしれた個性の強い作家さんです。個性の強い作家さん同士がぶつかって、大きな化学変化が起きることを期待しました。

望月さんのイラストって、本当にスタイリッシュですよね?

スタイリッシュだけでなく、そこに萌えが組み込まれているところが望月さんのすごいところなんですよ。

かっこいい中にかわいいも組み込める……まさに最先端な感じですよね。キャラ絵を見たファンの中には荒廃した東京を舞台にした異能バトルなどを連想した人もいるかもしれませんが、念のためにいっておきますとルーパーズのメンバーにはとくにそういった特殊能力はありませんのであしからずです(笑)。

上がってきたキャラたちを見た最初の感想はいかがでしたか?

率直に「かっこいいなあ!」でした。平均的なビジュアルノベル作品で言うとかわいい絵が多いですが、こういったソリッドな絵はまさに秘密を持った若者たちの集団であるルーパーズに似合うなと。

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もうひとつ、今回は楽曲にも力を入れているそうなので、その辺をいえる範囲で紹介してもらえますか?

歌曲は3曲を予定しておりまして、3曲とも同じアーティストさんに歌ってもらうことになります。まだ誰とは言えないのですが、最近アニメのエンディング曲を歌われているユニットのボーカルさんとだけお伝えしておきます。

じつは楽曲については僕の方からも「こんな感じの曲がいいです」とオファーを出させていただいていたんです。たとえば今回のオープニングだったらアニメ『リトルバスターズ!』のオープニング曲みたいなテイストがいいですとか。

そこは我々も同じイメージだったので、きっと『LOOPERS』にぴったりな曲になると思いますよ。

僕の中でも『LOOPERS』のチーム感は『リトルバスターズ!』を大いに意識させていただいたところがありますし、楽曲でもそこはリスペクトさせていただきたかったので、いけしゃあしゃあとお願いさせていただいたんですが、まだ僕も聴いていないので完成を楽しみに待っていますね。

最後に物語の核心のお話も少しだけうかがいます。そんなLOOPERSがループする世界を抜け出せるか? はたまた違う世界があるのか? 気になる後半部分はどうなっていくのでしょう?

1か所だけ正確に訂正しますと「抜け出せるか?」ではないんです。「抜け出しますか?」なんですよね。

というと?

先ほどからループする世界は飽きるとかマンネリだとか変化がないと言ってきましたが、裏を返せばその世界から抜け出せば不老不死ではなくなるし、お金も使い放題ではなくなる。これまで何が起こるかすべてわかっていた人間にとって、何が起こるかわからない明日は不安でもあるんですよね。

たしかに言われてみれば「老いも死もない世界からあえて抜け出さなくても」とは考えてしまいそうです。

いずれ体験版が公開されると思いますが、そこで『LOOPERS』の世界をどこまで見せられるのかは僕も楽しみなところなんです。作品はホラーとかサスペンスという意味ではなく、全体的な風刺として竜騎士07らしい毒もチラッと入っておりますので、最後まで楽しんで遊んでいただけたらうれしいなと思っています。

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最後に皆さんに向けてメッセージをお願いします。

作品はキネティックノベルという手ごろなサイズ感で楽しめる物語となっていますので、映画を見るような気軽な感覚で楽しんでください。そしてこれもかなり気をつけて書いた部分なんですが、この『LOOPERS』には皆さんが不愉快になるようなキャラクターは存在しません。つまりメンバーはみんないいやつばかりなので、きっと皆さんに元気を与えてくれる存在になると思います。そして最後にもう一回だけ念を押しておきますが、皆さん……『LOOPERS』はミステリアスな話ではありますがけっして怖い話ではありませんよ! ぜひ勇気を持って『LOOPERS』の世界に飛び込んできてください。

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Visual Style

※14 望月けい
さまざまなイラストを独特のタッチにて描いているフリーイラストレイター。配色テクニックなどで評価が高い。