日本緑化工学会誌
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特集
キリギリス科昆虫の卵休眠-長期休眠現象に着目して-
檜垣 守男
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2005 年 30 巻 3 号 p. 518-523

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抄録

キリギリス科昆虫の一種イブキヒメギス(イブキ)は,本州中部以北,特に高地に多く生息する。本種は,胚発育中に初期胚で起こる初期休眠と成熟胚で起こる最終休眠の 2 つの休眠を経験する。それぞれの休眠期で越冬してから孵化する 2 年 1 化の生活史を基本とするが,初期休眠の長期休眠性により,孵化までに 2 - 4年を要する卵が混在する。初期休眠の生態的意義を探るため,本種と,最終休眠のみを持ち,主に低地に生息する年 1 化のヒメギス(ヒメ)の生活史を比較した。弘前では,ヒメの産卵は 7 月下旬に始まり,短期間に集中的に行われた。8月下旬以降に産下された卵は最終休眠期に到達できず,翌春の孵化が大きく遅れた。一方,イブキの産卵は 8 月上旬に始まり,秋遅くまで続いた。産卵期の早晩は 2 年後の孵化期に影響しなかった。高地のイブキの孵化, 羽化期は平地の系統より遅く,特に羽化期は年によって大きく変動した。ヒメギ類は幼虫発育に高温を必要とするため,高地のイブキは,冷夏や日照不足によって深刻な影響を受けると考えられた。以上より,イブキは初期休眠を持つことによって,発育季節が短く,不安定な地域での生活を可能にしていると考えられる。

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© 2005 日本緑化工学会
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