日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
ポストワクチン時代における小児感染症の問題点
加藤 政彦
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2018 年 121 巻 2 号 p. 97-103

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抄録

 新しいワクチンの開発と導入によりワクチンで予防できる疾患, いわゆる Vaccine Preventable Diseases(VPD) が増えている. 小児の耳鼻科領域におけるワクチンとしては, インフルエンザ菌 b 型 (ヒブ) と肺炎球菌が特に重要であり, ワクチン導入後同感染症は減少傾向にある.

 ポストワクチン時代の感染症治療の課題と注意点としては, 海外ではヒブ感染症が激減する中, 無莢膜型や b 型以外の莢膜型による侵襲性感染症が微増していることである. 本邦の調査でも同様の報告がなされている.したがって, インフルエンザ菌が無菌的な部位から検出された際には, 必ず菌株を保存し, その莢膜型を確認する必要がある. また, 喉頭蓋炎については, ヒブワクチン導入後は, その発生数は減少したものの, 平均発症年齢の上昇がみられたとされている. 今後は, 小児よりも成人における喉頭蓋炎の増加や典型的な症状の変化に注意するべきである.

 肺炎球菌については, その数多くの莢膜型の存在からワクチンに含まれているタイプが減少する一方で, 非ワクチンタイプが増える serotype replacement (血清型置換) を認めている. その中には, ワクチンタイプの株が莢膜遺伝子群の組み換えを起こすことで血清型を変化させる capsular switching が起こることもある. 実際に, 7価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV7) 導入後, PCV7 に含まれない血清型 19A の検出率が全体の約2割を占めたという海外の報告がある. この原因として, 薬剤耐性化の関与も考えられている. 国内でも同様の報告がある. さらに, 13価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV13) 導入後も PCV 非含有株による侵襲性感染症が主体となっている. このような観点から, 今後のサーベイランスと薬剤耐性のさらなる検討が重要と考えられる.

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