2013 年 116 巻 1 号 p. 17-26
味覚障害は, その評価において患者の自覚的な訴えに頼らざるを得ず, 現在もさらなるエビデンスの集積が求められている診断・治療の難しい疾患である. 今回われわれは亜鉛欠乏性または特発性に分類される味覚障害患者219例を対象に, ポラプレジンクを用いた亜鉛補充治療の効果をプラセボコントロールの無作為化二重盲検法により検討し, さらに背景データ等による詳細な検討を加えた. その結果, 亜鉛群は投与8週時から濾紙ディスク味覚検査法の認知域値でプラセボ群に対して有意に改善し, その差は投与終了の4週間後でも持続した. ただし, 事前に定めた「有効」の判定基準に従った有効率では統計学的な差が認められなかった. 性別または抑うつ性の程度により治療効果の違いを認め, 男性およびSDS (Self-rating Depression Scale) で抑うつ性が高いと評価された患者では, 症状の正確な評価に注意を要することが示唆された. 一方で, 約77%の症例が該当したSDSスコアが「正常」で, かつ4味質すべてで障害の見られた168例では, 有効率においても亜鉛群がプラセボ群を統計学的に有意に上回っていた. 本疾患の診断や治療効果判定においては, SDSスコアによる抑うつ性の評価や濾紙ディスク味覚検査法での個々の味質の障害程度を考慮した詳細な検討が必要であることが示された.