2004 年 65 巻 1 号 p. 1-12
富栄養湖である諏訪湖に端を発する天竜川の上流域では,造網性トビケラの一種,ヒゲナガカワトビケラStenopsyche marmorataが多数生息している。春から秋にかけて諏訪湖で発生した有毒藍藻のMicrocystisや,その細胞に含まれる肝臓毒microcystinが大量に天竜川に流下することがある。天竜川に生息するヒゲナガカワトビケラ幼虫のmicrocystin濃度の季節変化と,ヒゲナガカワトビケラからのmicrocystinの排出について研究を行った。幼虫のmicrocystin含有量は,河川水に含まれる有機懸濁物質中のmicrocystin濃度と相関を示した。また若齢個体ほどmicrocystin含有量が高い傾向が見られた。これは幼虫の成長に伴う食性の変化と関係していると考えられる。さらに前蛹,蛹,成虫からも低濃度ながらmicrocystinが検出された。Microcystin排出実験では,5日間microcystinが幼虫の組織内に残留した。
これらの結果は河川生態系においでヒゲナガカワトビケラがmicrocystinのベクターとなり,さらに陸上生態系へもmicrocystinが移行する可能性を示唆している。