ステンレス鋼の開発研究において,その不働態皮膜の安定性についてもメカニズムにはまだ不明な点が多い.この理由は不働態皮膜が膜厚数nmの極薄膜であることに起因する構造解析の困難さによるところが大きい.我々はこの不働態皮膜の構造解析技術の開発を目的として,SPring-8を用いSUS304L鋼及びSUS316L鋼上の不働態皮膜について微小角入射X線散乱(GIXS)測定及び全反射XAFS測定を行った.GIXSの結果からはこれらの皮膜の構造がスピネル型構造の特徴を持つことが示唆された.また,全反射XAFSの結果からは不働態皮膜中にCrが濃化していることが示された.この記事では過去の放射光を用いた不働態皮膜研究についてまず概観し,上記の我々が行った実用ステンレス鋼の不働態皮膜に対する構造解析技術の検討結果について報告する.