日本生態学会誌
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特集 つる植物の多様な生態と多様な研究
野外環境下における木本性つる植物の成長特性 -自重支持依存のコストとリスクを考える
市橋 隆自
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2019 年 69 巻 2 号 p. 71-81

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抄録

木本性つる植物は巻き付く、貼り付くなどして周囲の樹木等に取り付き、これに自重支持を依存しながら成長する。樹木では自重を支えながら高く成長するため茎肥大に大きな資源投資を必要とするのに対し、つる植物の成長様式はその分の資源を茎伸長と葉量増加へと振り分け、よって資源を効率良く用いて生育空間と光合成生産を拡大する戦略として解釈される。しかしこの仮説は十分に検証されておらず、そもそも野外におけるつる植物個体の成長過程に関する情報は非常に少ない。本稿では著者のこれまでの研究に基づき、日本冷温帯林の木本性つる植物4種を主な対象として成長過程の記載を行いつつ、自重支持依存の戦略的意義を改めて考察した。地上部アロメトリ解析の結果、地上部重量が同じ個体同士を比較した場合、つる植物が当年に伸長させる茎の量は樹木の5倍、当年に展開する葉量は樹木の3倍近くに及んでいた。この物質分配特性は、植物個体の伸長成長と光合成生産を促進させるものと考えられた。一方、年輪数に基づく個体成長パターンの解析からは、つる植物が実生から林冠層到達に要する年数は樹木と同程度であり、その期間に蓄積される地上部重量は樹木の10分の1程度にとどまることがわかった。つる植物は支持物を獲得するためにシュートを伸ばし続けるが、支持物を獲得せず枯れ落ちるシュートも多い。また、つる植物が取り付いている樹木(ホスト)の倒壊・枝の落下に際し、つる植物自身も損傷を受け、その体の一部を失うことがある。種によっては林冠に辿り着くまでに伸ばした茎の、長さにして8割近くを失っていると推測された。この大規模な茎のターンオーバーは、つる植物個体の重量増加速度が小さい一因であると考えられた。以上から、つる植物の自重支持依存の意義は、従来の仮説通り、茎肥大への資源投資を減らすことにより毎年の茎伸長量を大きくすると共に、同化部の割合が高い地上部構造を維持できる点にあると考えられた。これは光競争の激しい環境で優占する上で、あるいは生産性の低い林内環境で成長を維持する上で大きな利点となる。一方、常にホストを獲得する必要があり、ホストが枯死した時に巻き添えを受ける等の制約により、長期的には必ずしも効率の良い個体成長を可能にするわけではなく、さらに地面まで完全に落下するリスクも内包する不安定な成長様式であることも明らかになった。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会
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