日本生態学会誌
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宮地賞受賞者総説
撹乱生態学が繙く森林生態系の非平衡性(宮地賞受賞者総説)
森 章
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2010 年 60 巻 1 号 p. 19-39

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抄録

森林生態系は、その構成・構造・機能が絶えず変動するものであり、また画一的な定常状態や平衡点に達することは極めて有り得ないことであると考えられるようになった。この森林生態系の"非平衡性"を引き起こしている主要因としては、自然撹乱が挙げられる。近年、自然撹乱体制を明らかにすることで、森林生態系の動態がより明らかになってきた。現在の陸域の生態系管理において、森林生態系やその高位の地理的スケールにある景観に内在する自然撹乱体制を正しく認識することは非常に重要である。自然撹乱を中心とした、自然本来の動的プロセスを尊重し、生態系の構成・構造・機能を健全に保全することは、多様なレベルにおける生物多様性の包括的な保全に貢献し得るとも考えられている。このように、生態系の非平衡性の重要性と、非平衡を生み出している自然の必要性について、基礎生態学的観点及び応用生態学的観点の双方から広く認知されている。しかしながら、森林生態系の変動性・複雑性については、まだまだ未知のことも多い。生態系で起こり得る撹乱、特に大規模な自然撹乱は、予測不可能なものであり、生態系に与えるインパクトについても複雑で不確実なものである。それゆえに、複雑性・予測不可能性・非平衡性を認知した上で、環境変動に対する生態系の挙動を如何に理解できるかが、生態系の管理や復元にとって重要である。森林生態系における非平衡パラダイムの理解のためには、自然撹乱を軸として、個体から景観に至るまでの様々なヒエラルキーの中での生態系の動的事象を多角的に捉えることが必要である。

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© 2010 一般社団法人 日本生態学会
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