保全生態学研究
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世界最南限のイワナ個体群"キリクチ"の個体数変動と生息現状
佐藤 拓哉名越 誠森 誠一渡辺 勝敏鹿野 雄一
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2006 年 11 巻 1 号 p. 13-20

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抄録

世界最南限のイワナ個体群キリクチSalvelinus leucomaenis japonicusの主要生息地において、過去13年間にわたって、キリクチおよびそれと同所的に生息するアマゴOncorhynchus masou ishikawaeの個体数変動を調べた。また、調査水城におけるキリクチ個体群の現在の分布構造を把握するために、流域に11カ所の調査区間を設定して、それぞれの場所での生息密度と体長組成を調べた。調査水城に設定した約500m区間におけるキリクチとアマゴの推定生息個体数はともに減少傾向にあり、特に2000年以降、キリクチの個体数は低い水準で推移していた。2004年時点では、アマゴの推定生息個体数は、キリクチの約2倍であった。2004年に生息範囲のほぼ全域で行なった捕獲調査において、キリクチは本流の下流域ではほとんど捕獲されず、上流域と支流を中心に分布していた。一方、アマゴの生息個体数はすべての調査区間で大差はなかった。また、キリクチ当歳魚はほとんどが支流で捕獲されたが、アマゴ当歳魚は支流と本流で大差なく捕獲された。標準体長の季節変化を調べた結果、キリクチ当歳魚はアマゴ当歳魚に比べて浮出時期が1-2ヶ月遅いと推察され、その平均値は、すべての月においてアマゴ当歳魚よりも低かった。また、1歳以上のキリクチの平均体長は、すべての調査区間でアマゴよりも小さい傾向が認められた。これらの結果から、本調査水域におけるキリクチの生息個体数と生息範囲はともに減少傾向にあることが確認された。また、キリクチはアマゴとの種間関係において劣勢にある可能性が示唆された。このような現状のもとでの、キリクチ個体群の保護・管理策について考察した。

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© 2006 一般社団法人 日本生態学会

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