宝石学会(日本)講演会要旨
平成20年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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特別講演 九州の鉱物と九州大学の鉱物標本
*上原 誠一郎
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抄録

九州の地質は大きく3つに区別されます。(a) 主に北部九州に分布する基盤岩類(三郡変成岩および白亜紀花崗岩類),(b) 南部九州に分布する付加体,(c) 新生代後期の火山岩類。新生代後期の火山岩類が広く分布するのが特徴です。今回は九州の代表的な鉱物および九州大学の鉱物標本,特に高壮吉鉱物標本を紹介します。
1.九州の鉱物産地
九州産の鉱物は明治初期の鉱物学黎明期から文献に登場します。古典的産地を産状ごとにまとめると次のようになります。
1-1. 接触交代鉱床:福岡県三ノ岳(灰重石),大分県尾平鉱山(斧石),大分県木浦鉱山(スコロド石,亜砒藍鉄鉱 1954年 伊藤貞市ほか),宮崎県土呂久鉱山(ダンブリ石)。岩佐巌(1885)は三ノ岳の黒色タングステン鉱物を三ノ岳鉱(トリモンタイト)と発表するが,後に灰重石であることが判明する。
1-2. ペグマタイト:福岡県長垂(紅雲母),福岡県小峠・真崎(閃ウラン鉱,モナズ石),佐賀県杉山(緑柱石),宮崎県鹿川(水晶)。高壮吉は1933年に長垂のペグマタイトについて初めて鉱物学的報告をした。翌年,「長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈」として、国の天然記念物に指定される。
1-3. 変成岩・蛇紋岩:長崎県鳥加(磁鉄鉱),熊本県豊福(コランダム),福岡県篠栗(ブルース石),大分県若山鉱山(針ニッケル鉱),大分県鷲谷鉱山(菫泥石,灰クローム石榴石)。岩佐巌(1877)は鷲谷鉱山の紫色と緑色鉱物の化学分析を行い日本で初めての新鉱物として発表した。これは紅礬土鉱(ブンゴナイト)と緑礬土鉱(ジャパナイト)であるが,再検討され菫泥石,灰クローム石榴石となる。
1-4. 新生代後期の火山岩類:佐賀県西ヶ岳(普通輝石),佐賀県肥前町(木村石1986年 長島弘三ら),熊本県石神山(鱗珪石),熊本県人吉(芋子石,1962年 吉永永則・青峰重範),鹿児島県咲花平(大隅石,1956年 都城秋穂)。
2.九州大学の鉱物標本
現在,「高壮吉標本」は総合研究博物館第一分館の自然科学資料室に展示されています。高壮吉は1912年から1929年まで工学部採鉱学教室応用地質学講座の教授を勤め,また,1890年代から1930年代にかけて数多くの鉱物結晶の標本を収集しました。本標本は1939年に理学部が開設された際,収集標本の中から学問的に貴重なものが選ばれ,理学部地質学教室(現在の地球惑星科学教室)に寄贈されたものです。その他に工学部のクランツ標本を中心とする鉱物標本,理学部の岡本要八郎標本,吉村豊文標本,1958年制作の「日本新名鉱物一覧標本(1958)」などがあります。これら鉱物標本のデータベースは総合研究博物館のホームページ中に制作中で,一部を公開しています(http://database.museum.kyushu-u.ac.jp/search/mine/)。

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