日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-171
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一般演題 ポスター
職業性膀胱がん発生現場で使用されていた芳香族アミン6種のDNA損傷性およびDNA損傷誘導メカニズムの検討
*豊岡 達士祁 永剛柳場 由絵太田 久吉王 瑞生甲田 茂樹
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抄録

福井県の化学工場で、芳香族アミン類の取扱い経験を有する複数の従業員に膀胱がんが発生したことが最近報告された。我々の研究所による現場調査等の結果、膀胱がんを発症した従業員らは、オルトトルイジン(OT)、パラトルイジン(PT)、2,4-ジメチルアニリン(DMA)、オルトアニシジン(ANS)、アニリン(ANL)、オルトクロロアニリン(OCA)の6種類の化学物質を主に取り扱っていたことが判明している。これら化学物質のうち、OTのみ過去の疫学調査により、ヒトへの発がん性が認められている。一方で、DNA損傷の生成は発がんにおける重要なファーストステップであるが、OTを含め、これら化学物質に対して過去に実施されてきた各種遺伝毒性試験の結果は必ずしも一致しておらず、化学物質間における遺伝毒性の強弱やDNA損傷誘導メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、ヒト膀胱細胞株である1T1細胞において、これら6種類の芳香族アミンのDNA損傷性をリン酸化ヒストンH2AX (γ-H2AX)を指標に検討した。6種の化学物質全てで、γ-H2AX応答が観察され、その強弱は、DMAとOCAで非常に強く、次いで、OTが強かった。PTとANSはともに同程度のγ-H2AX応答を示し、ANLは本研究で検討した6種の中では最弱であった。また、強いγ-H2AX誘導が観察されたDMAについて、その誘導メカニズムを検討したところ、DMAは、主にCYP2E1によって代謝される際に生成する活性酸素種によって、γ-H2AX応答が誘導されることを明らかにした。現在、残りの化学物質についても、CYP2E1代謝と活性酸素種に着目し、γ-H2AX誘導メカニズムの検討を行っている。本研究は、現場で使用されていた6種類の芳香族アミンのDNA損傷性の強弱、およびDNA損傷メカニズムの一部を明らかにした初めての研究であり、今後、膀胱がんを発症した従業員らのばく露履歴等と本研究結果を有機的に結びつけ、化学物質のリスク評価に役立てていく予定である。

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