日本応用動物昆虫学会誌
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千葉市郊外におけるマツカレハの死亡要因
小久保 醇
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1971 年 15 巻 4 号 p. 203-210

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抄録

千葉市郊外のクロマツ林において,マツカレハの死亡要因を調べた。
世代内における個体数の変動をみると,発育初期においては非生物的要因による減少が大きく,中∼後期においては生物的要因による減少が大きいと考えられた。
卵期の死亡は主として卵寄生蜂によるが,死亡率は比較的低く,例年20%にみたない。幼虫期の死亡の大部分は1令から2令にかけて起こり,この時期にふ化幼虫の70%以上が死亡するが,これは地上への落下が主な原因である。越冬に至るまでには3∼4令の幼虫がカマキリなどの捕食によって死亡する。越冬中の死亡は黄きょう病によるものが多い。越冬終了後は寄生蜂や寄生バエによって死亡するが,死亡率は一般に低い。しかし,とくに虫の密度が高いときには春から夏にかけてウイルス病が発生し,密度の急激な低下をもたらすことがある。蛹期の死亡は主として寄生昆虫によるが,ときに幼虫期に流行した病気の影響を受けて高率の死亡が起こる。
当地方と,同じような林分構成状態にある茨城県鹿島地方とを比較すると,蛹期の寄生昆虫については,その種数が少ないこと,寄生蜂の寄生率が低いのに反し寄生バエのそれは常に高いことなどの共通点がみられたが,卵期のそれについては,鹿島地方においてもっとも密度の高いマツケムシクロタマゴバチ(その寄生率は著しく高く,ときに100%に達する)が当地方ではまったくみられないこと,鹿島地方では密度がきわめて低いキイロタマゴバチが当地方では優占種であることなど,かなりのちがいがみられた。また,病気については,虫の密度が高いときにウイルス病の流行することが同じように観察されたが,一方,鹿島地方ではほとんどまったくみられない黄きょう病が,当地方では虫の密度に関係なく幼虫∼蛹期を通じて常に発生していた。

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