「飽食の時代」と呼ばれる日本ではあるが, 鉄欠乏症は, 未解決の問題として残されている.鉄欠乏症が, 栄養上の問題ばかりか, 身体的, 社会的な問題でもあるからである.近年, 問題の解決に向けて, いくつかの新しい知見が明らかにされてきた.栄養的には, 食物の鉄含有量のみならず, 腸での鉄吸収にも目が向けられ, その機序も分子レベル0解明されつつある.身体的には, 乳幼乳期や思春期の急速な成長が大きな鉄需要を生み, 小乳を鉄欠乏に傾けると考えられ, 鉄欠乏による, 発達遅延や学習障害の可能性が指摘されている.社会的には, 「飽食」とはうらはらに, 食習慣は乱れがちであり, 鉄欠乏への関心もうすく, 鉄欠乏のもつ障害性についての啓蒙もけっして十分とはいえない.全国規模の小乳貧血 (鉄欠乏症) スクリーニング・システムの確立が望まれる.