体から毒素を排出? いわゆる「デトックス」に医学的な根拠はない

内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
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 水分をいちどに大量に飲むと、ときには死に至るような水中毒という健康被害が生じる可能性があります。海外の報告ですが、体から毒素や老廃物を排出して健康になると称する、いわゆる「デトックス」目的で水中毒が生じた事例もあります。水以外にはハーブティーやフルーツジュースのみを摂取していました。どちらもナトリウムがほとんど含まれていませんので、低ナトリウム血症になりやすいのでしょう。

 「大量」ではなく「十分な量」の水を飲むことは健康によいと思います。脱水や熱中症尿路感染症や尿路結石、便秘の予防につながります。ただ、毒素を取り除く作用によるものではないので、デトックスとは言えません。飲水を促す方便でデトックスと呼べばいいという考え方もありますが、たくさん飲めば飲むほどよいという誤解を招きかねません。

 そもそも、現在のところ医学的には、デトックスには意味がないと考えられています。高額な自費診療クリニックならともかく、普通の病院でデトックスを勧めているところってありませんよね。米国立衛生研究所(NIH)のウェブサイトでは、デトックスの長期的な効果を調べた研究はなく、中には大量飲水とハーブティーの摂取のように有害なものがあると指摘されています。日本でも同じような状況で、私が見たところインチキなものや危険なものが散見されます。

 飲むだけで美肌になって痩せると称するデトックスサプリメントの広告がありました。まあインチキなのですが、毒素を排出することで代謝が亢進(こうしん)し痩せるのだという理屈がつけられています。そんなに安全に簡単に痩せられるのなら肥満症の患者さんに処方したいものですが、有用性を示した臨床研究なんて行われていませんので、まともな病院では処方できません。

 自費診療クリニックで数千円から数万円で提供されている、有害な重金属を取り除きアンチエイジング効果があるなどと称するデトックス点滴もあります。鉛中毒などの特別な病態に対しては有用な治療ですが、もともと健康な人に対するプラスの効果は証明されていません。デトックス点滴で有害金属だけを取り除ければいいのですが、亜鉛などの栄養学的に必要な微量元素も同時に取り除いてしまうので潜在的に危険です。

 もしかすると、将来、本当に健康に良い効果のある有用な排毒方法が開発されるかもしれません。しかし、私が研究者だったらデトックスとは呼ばず、別の言葉を使います。すでにデトックスという用語は健康ビジネスに利用された宣伝文句となっているからです。

※参考:“Detoxes” and “Cleanses”: What You Need To Know https://www.nccih.nih.gov/health/detoxes-and-cleanses-what-you-need-to-know別ウインドウで開きます(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。