デジタル化した書籍の全文検索サービス「グーグルブックス」を巡る訴訟で、グーグルと米国作家協会・米出版社協会は、和解の修正案を11月初旬に提出することになった。和解案の内容にグーグルのライバル各社から反対意見が寄せられ、米司法省からも著作権法と独禁法などの観点から懸念が表明されたためだ。グーグルブックスのデータベースには、世界の古典的名作や多くの学術論文も含まれている。マイクロソフト、ヤフー、アマゾンらが和解案に異議を唱えるべく結成した団体「オープン・ブック・アライアンス」の共同議長を務めるインターネット・アーカイブのピーター・ブラントレー氏に、反対の根拠と今後の展開を聞いた。

われわれはなぜグーグル書籍検索和解案に反対するのか?~MS・ヤフー・アマゾン連合の影の立役者に聞く
ピーター・ブラントレー(Peter Brantley)
グーグルのブック検索和解案に対して意義を唱えてきたオープン・ブック・アライアンスの共同議長で、非営利のウェブ保存団体であるインターネット・アーカイブ(IA)のブック・サーバー・プロジェクト・ディレクター。IA移籍前は、大学図書館や国立図書館が組織する非営利組織デジタル・ライブラリー連合(DLF)のディレクターを務めていた。カリフォルニア州大学システム、ニューヨーク大学図書館などで情報管理職を歴任。

―米グーグルの「グーグルブックス」を巡る裁判で、ニューヨーク州の連邦地裁は、グーグルと米国作家協会・米出版社協会(AAP)に和解案を11月9日までに修正するよう求めた。和解案には、著作権所有者への補償金支払いが盛り込まれているが、独占禁止法上の懸念、海外の著作権所有者への配慮の欠如といった点で内容の見直しが行われる見通しだ。そもそも、インターネット・アーカイブ(IA)、マイクロソフト、アマゾン、ヤフーなどが加盟するオープン・ブック・アライアンスは、インターネットによって書籍へのデジタルアクセスが可能になることを評価しつつも、和解案に異議申し立てを行っていたわけだが、この動きをどう評価しているか。

 歓迎している。IAは他では指摘されなかった「グーグルが書籍価格をディスカウントできる権利」についても反対意見を表明したが、司法省の意見はこの点も含めて言及していた。

 とはいえ、まだ不透明な部分も多い。たとえば、海外著作権所有者についての配慮は含まれているが、学術論文の著者については触れられなかった。実際、グーグルブック検索がスキャンした書籍のかなりの部分は、学術論文が占めているにも関わらず、だ。

 また、著作権所有者が特定できない、いわゆる「孤児作品」の扱いについてもはっきりしない。司法省は、第三者が商用化できるようにすべきだとは言っており、われわれが提示していた「強制ライセンス権」(例えば、非営利の版権管理組織を設立し、第三者が書籍データにアクセスできるようにすること等)について支持は示しているものの、「何のライセンス」かを明確にしていない。

 書籍をスキャンする権利のライセンスと、スキャンされた書籍データへのアクセス権のライセンスとは別々のものだ。スキャンのために費やされる図書館側の作業量を考えると、スキャン作業を繰り返すのは現実的でなく、書籍データへのアクセス権ライセンスを認める方が望ましい。

―グーグルが書籍を無断でスキャンしたことについては、それ自体が著作権法に違反するとの指摘もあるが。

 それはどうか。今や、書籍の存在自体を発見できるようにする検索目的のスキャン作業は、視覚障害者による利用を目的としたものやフェア・ユース(公正な利用)目的のものと同様、違法行為から除外されるよう著作権法が再考されなければならないと考えている。だが、同時にスキャンされた書籍の中身は公共の用に供されることが必要だ。