ネットで大ブームのBL短歌って何?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

BL短歌合同誌『共有結晶』vol.2(密林社)

BL短歌合同誌『共有結晶』vol.2(密林社)

昨年あたりから、ネットで巻き起こっている短歌ブーム。そんな短歌ブームのなかでも、ひときわ盛り上がっているジャンルがある。それが、BL短歌だ。その勢いはネットだけに留まらず、BL短歌の発起人でもある佐木綺加を中心に『共有結晶』(密林社)という同人誌が作られるほど。11月4日には『共有結晶』のvol.2も発売されたのだが、腐女子たちが詠む五七五七七には、どんな萌えがつまっているのだろうか。

まず、『共有結晶』では、自分の萌えの原点になったものをテーマにして短歌を作ったりしている。主従関係に萌えるという照井セイは、「倦んだ王見えない枷を軋らせて政道転ばす喜び失せぬ」や「召人め奥から覗くじとじたり心、目さえも返せず逸らす」といったように、萌え設定に自分の萌えフレーズを盛り込んで創作しているのだ。

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しかし、ただテーマを決めて自分の好きなシチュエーションを短歌にしているわけではない。「圧縮←→解凍」をテーマにした『共有結晶vol.2』では、『共有結晶』で掲載した短歌や寺山修司、若山牧水、鯨井可菜子など、歌人の作品からイメージを膨らませて小説にしたりしているのだ。逆に、ほかの人が書いた小説や妄想から短歌を考えたものもある。

また、「BL作家憑依詠」と題して、あの作家がBL短歌を詠んだら…というイメージで作られたものも。たとえば、中村明日美子や彼女の作品をイメージして書かれた短歌には、「ピンヒール、履いて中指のばすからアンタのすきなおしゃぶりにどう?」(孤伏澤つたゐ)。「薔薇色の舌をねっとり寄せ合って奴隷制度のはなしをしよう」(孤伏澤つたゐ)など、匂い立つような耽美な作品が並んでいる。そして、ヤマシタトモコを憑依させて考えられた作品は『イルミナシオン』(宙出版)に収録されている「ばらといばらとばらばらのばらん」から想像をふくらませているのだが、この話には同じ男子に片想いしている男子・十亀と女子・中久が登場する。BLにしては珍しく女の子が主人公の話なのだが、彼女は十亀が恋する姿を見て、自分の恋は子どもじみていると思うのだ。そんなシーンを思い浮かべて詠んだ「●●ちゃんは誰が好きなの? そうやって楽しむような恋しか知らず」(佐木綺加)は、31文字のなかで中久の思いを上手く表現している。

ほかにも、詠みたいことはあるけどうまく表現できないという人のためにみんなでアイデアを出しあってブラッシュアップしたりもしている。BLへの熱い思いや萌えを小説やマンガで表現するのは、時間もかかるしなかなか難しいが、五七五七七の31文字になら、自分の萌えや情熱だけをぎゅぎゅーっと詰め込むことができるのだ。次から次へとどんどん妄想が膨らんでいく腐女子には、その思いを次々と表現できる短歌という手法がピッタリだったのかもしれない。

文=小里樹