特集 2018年10月25日

修学旅行でよく見た「お土産の木刀」を全国へ広めた会社は今

木刀をつくる専用の機械で、木材を木刀サイズに切り分けているところ

修学旅行のお土産といえば木刀だ。購入経験がある人はもちろん、買ったことはなくとも、記憶の隅に残り続けている人は多いのではないか。わたしもその一人だ。

そんな「お土産の木刀」に久しぶりに再会した。場所は白虎隊が眠る地・会津若松である。

1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

前の記事:喜多方ラーメンを喜多方で食べて揺さぶられる

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白虎隊の街・会津若松の木刀ラインナップがすごい

話は今年の5月に遡る。飯盛山周辺で木刀の多さにたまげたのだ。木刀がどの土産屋に行ってもある。ありすぎる。

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視界がぜんぶ木刀で埋まる瞬間が何度かあった。どういうことだ
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感化されて小さいサイズを購入

あまりの多さに興奮し、お店のおばさんに声をかけた。するとおばさんは「会津若松でつくられているからね。全国各地のお土産用の木刀も、会津若松でつくられているって聞いているわ」と言ったのだ。

え、そうなんだ!

それはぜひとも話を聞きにいかねば。数ヶ月後、再び会津に向かった。

 

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お土産としての木刀、スタートは48年前

尋ねたのは、福島県会津若松の「タカハシ産業」さんだ。お土産としての木刀をつくり始め、全国へと展開した会社である。

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帰宅後インターネットで探して「もしかして木刀、つくっていますか?」とおそるおそる連絡した

迎えてくれたのは、会長の高橋さんと社長の高橋さん。余談だが、わたしの本名も高橋なので、この取材、高橋密度が非常に高い。

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「会長とこう並ぶの、なかなかないよね」と言いながら並んでくれた。左が社長、右が会長。
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なぜ木刀に興味を持たれたのですか?
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飯盛山に木刀がたくさんあるのを見て、気になってしまって……。
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実は、飯盛山の木刀は今ほとんど中国産なんですよ。
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えっ!
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会津ですと、うちの木刀は鶴ヶ城の下のお土産屋さんに置かれています。中国産のものと一緒に。
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中国産だったのか!

 メードインチャイナの波は武士道にも及んでいたとは。衝撃だがこのまま話をすすめよう。

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いつ頃からつくりはじめたのでしょうか?。(※いきなり登場しましたが、今回の取材には編集部の橋田さんが同行しています)
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約48年前ですね。
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48年!

つまり昭和45年ごろである。当時はまだ「お土産品」を名乗るものが多くなかったそうだ。そこで「木刀を白虎隊のまち・会津のお土産にするのはどうか」と考えたのが始まりだという。

そうだった。生まれた頃から、観光地にいけばお土産があったから、意識して考えたことがなかったのだが、「お土産をつくろう」と思った人がいるから、お土産はあるのだ。

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修学旅行の記憶に木刀がある理由は「営業ルート」

会津で生まれた木刀がなぜ全国区になったのか。それは、会長自らが「お土産の木刀」を全国へ営業したからだという。つまり、会長の行動が、わたしたちの修学旅行の記憶に多大な影響をおよぼしているのだ。

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子供達が修学旅行で出るところを開拓して歩ったんです。京都、奈良、広島、香川県の金毘羅さん、九州の太宰府、浅草、靖国、小田原、静岡……。
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地道に回って歩いたってことですよね。
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もちろん!今だと、ネットでできるけど、その時代はなかったから。職業別電話帳を見て、ピックアップして書き出しておいて歩くんです。

 

毎年、製造がシーズンオフになる2月に一週間くらいかけて回りました。例えば東京で問屋さんが見つかったら、小田原移動して、歩いて。扱ってくれる問屋が見つかったら静岡に移動して。地域ごとに1軒ずつ問屋さんを見つけていく。
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一番売れたのは、どこですか?
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奈良と京都ですね。

おお、修学旅行の王道の地・トップ2である。ちなみに橋田さんもわたしも、修学旅行は京都と奈良だった。

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金閣寺とか行った

 

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営業は、断られることもあるんですか?
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あまりなかったですが、断られたのは、東北かな。東北地方は、秋口になるともう冬がくるんでね。秋になると仕入れを抑えちゃうんだよね。

でも、そんなに難しいことではなかったんです。当時お土産用の木刀をつくっていたのは、会津だけだったから。静岡や小田原も木工品は盛んなんだけど、木刀はつくっていなかった。つくってもたぶん、単価的に負けてしまうからだろうね。

どうしてこんな値段でできるのかっていうと、自分の会社のなかで、それにスムーズにいくように機械をつくってしまうわけですよ。

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木刀をつくる機械も自社で開発を……?
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そうです。わたしは、もともとは営業で「売り方」だけをやりたいと思っていたんです。でも、だんだん品物が間に合わなくなってきて、じゃあ、自分たちでつくって売っちゃおうという風になっていった。
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営業自ら!

ストレートな発想だが、実際にやるとなると結構大変なんじゃないだろうか。そんな「自分たちでつくっちゃおう」が形になったものがこちらである。

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ノコギリの刃が、うぃーんと板の下を通る。すると、1枚の板が5枚の部品になる

 

一気に動き出すノコギリがかっこいい。機械が切り出す木材はすべて木刀サイズ。木刀のためだけの機械である。

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そこからさらに木材に反りをいれ、削り
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組み合わせ、留め具を留め、
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木刀の原型が出来上がった。手前が持ち手部分。引き出すと木の刀がにゅっと出現する
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そこからさらに、名所の名入れをする。使うのはシルクスクリーン
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機械にインクをセットし
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木刀を所定の位置に置き
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機械を足元のペダルで動かす。するすると、リズミカルに名前が入っていく。手際、めっちゃ良い!
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それにしてもシルクスクリーンの判、種類ありすぎないか

ちなみに、シルクスクリーンを導入する前は、手作業で1つ1つ判子を押していたのだそうだ。奥にしまっていたものを見せてもらった。

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捨てちゃうかもしれなかったらしい。もったいない。数が多い
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よく見ると、彫った跡が見えないだろうか。職人さんの手彫りなのだ。何に使っていいかわからないけど欲しくなってしまう
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「忍者刀」って書いてある!
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網走刑務所……!
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木刀は儲からない

そんな木刀だが、ピーク時に比べ、生産数はがくんと減っているという。今タカハシ産業で売り上げの半分を占めているのは、業務用のピザをのせるピザトレー、ステーキ皿の下の木台、木べらなどだ。
 

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成形されている途中のピザトレー。このかたち、既視感ある。居酒屋とかで会ったことある
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こちらは整える前の木べら
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子どもの数も減っていますからね。昔1学年8クラスだったのが、今は2クラスとか。木刀のピークは30年くらい前で、全国で16万本くらいでした。今は3万6千本くらいかな。今では、全体の売り上げの約16%を占めているだけ。他のことをやっているから、木刀も続けていられる。
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儲かるからやっているわけではないんです。
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観光のお土産品は、もう何十年も前から、材料費があがっていても、値段があげられないので、利益がどんどん薄くなっているんです。子どもたちの小遣い、大抵上限が決まっているじゃないですか。それにお土産は、1個だけじゃなくていろんなもの欲しいじゃない。だから、売値が1000円越えると違うんだよね。昔つくった機械がなかったら、赤字どころかつくれないですね。
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ひー!ちなみに、大人で刀を買われる方は……?
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いないと思います。ほんとのおもちゃだからね。
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そうだろうとは薄々感じていましたが、やっぱりいないんですね。
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でも、舞踏とかで使う用に、アルミ箔とかで加工するために買う人はいるみたいですね。
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甲冑やカブトをダンボールや紙などでつくって、それに合わせてうちの木刀を加工する人もいるようです。そういう教室を開くと、全国から集まってくるっていう話を聞きました。
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あと、ドバイには一回送りましたね。
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ドバイ!
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あのお金持ちの国に、木刀が!(ドバイの写真:AC)

 

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日本の企業からの、ドバイで販売したいというオファーでした。
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海外の方は、漢字とか喜ぶそうですね。でも社長、海外出張の時には木刀は持って行ってないよね。
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木刀の生産量増えたら利益があがんないよ。つぶれちゃう。もうたいへん、絶対無理!
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おしゃれな雑貨もつくっている
 

 と、先ほど、社長の海外出張の話が少し出た。なぜ海外に行くのかというと、社長の代から始まった事業のためだという。それは、ざっくり言うと、おしゃれな雑貨ブランドの制作である。

ブランド名は「Eau(オー)」。表参道や銀座のショーウィンドウに飾られているような、木製のデザイン小物や家具を想像してほしい。
 

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たとえばこういうことである(カタログの写真より)
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フランスやイタリアなどの海外の展示会に何度か行っています。
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ヨーロッパ進出……!
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日本では「インテリアライフスタイル」という展示会で毎年新作を発表しています。これが今年出した「ゴミ箱」です。
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気安く「ゴミ箱」と呼んでいいのかオロオロする美しいゴミ箱。たためる(カタログの写真より)

 

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ビニールが隠せるように工夫されている(カタログの写真より)
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どこで買えるんですか?
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都内のセレクトショップなど、インポート家具に特化しているところで販売してもらっています。あとはインターネットですね。
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木製のiPhoneスピーカーもつくっている。電源や電池なしで、入れるだけで音が響くしくみ

 

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このブランドを始めるためにデザインを勉強した

なぜブランド雑貨をつくるようになったのだろう。
 

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このブランドを始める前は、別の会社で7年間営業をやっていました。会津に帰ってくる時に、どう会社を飛躍させるのか、競合と戦わないようにするためにはどうしたらいいのかを考えた時に、オリジナルのブランドをつくるのが良いと思ったんです。

でもデザイナーさんにお願いすると、すごく高いと聞いたんです。で、色々計算してみると、あまりにも利益が上がらなすぎるので、じゃあデザインは俺がやろうと。

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そこで矢印が自分に向かうとは……。

さっきの会長の「機械を自社でつくっちゃおう」同様、話としてはストレートなのだが、急な坂道をがっしがしと駆け上る展開である。

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でも当初はスケッチを描いても、もうそれが、何なのかわからないくらい下手くそだったんです。独学で勉強して、あとはきれいなものをあちこちに見に行きました。

デザインを勉強しようと思い立ってから、巨匠たちが描いた絵画の線や色の美しさを徐々に認識できるようになりました。わからなくても、ひとつ何かわかると、わかりはじめてくる。

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きれいだなと思うと構造に興味が湧いて、見えない部分はどうなっているんだろうと、覗きたくなってしまいますね。
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取引先のセレクトショップでも、「ちょっと見ていっていいですか?」って6時間くらいいたり。
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6時間!
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照明とかをずっと見ています。照明は、絶対落ちない構造になっていて、燃えないよう、どう放熱させるかも計算されている。その視点で見ていると、面白いんですよ。「わーこの照明作った人、天才ー!」とか思って。

まさか木刀の話を聞きにきて、照明を6時間見続ける話を聞くとは想像してなかった。想定外すぎる展開である。

木刀もブランド雑貨も同じ「強み」を持っている 

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でも、木刀もブランド雑貨も、考え方の基本的な部分は同じなんです。時代によって、つくるものを変えながら、やってきた感じですね。自分たちでもつくって、自分たちで広めたり売ったりできるのが、ひとつの強みだろうなぁと思っています。
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インタビュー終了後、鶴ヶ城のお土産やさんに行ってみた

 

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そして木刀を買った。使い方はまだ決めていない(わからないとも言う)

後日、浅草の仲見世通りを探索した。タカハシ産業の木刀があると聞いていたのだ。 

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浅草の仲見世。賑わいまくっていた

「木刀、売れていますか?」と単刀直入にお店の人に聞いてみたところ「修学旅行の時期にはけっこう売れますよ」とのことだった。

先生がOKしているか確認してから販売するそうだ。若干厳しくはなったものの、修学旅行と木刀の関係性は、今この瞬間も健在だった。

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自分も買った。記念撮影をしておこう

バランス感覚がすごい

インタビュー中、繰り返し「木刀、儲からないんです」と言っていた会長と社長。だけど、木刀が儲からなくても、全体ではまわっている。そのバランス感覚が絶妙だ。
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浅草の仲見世では、子どもたち数人が楽しそうに木刀を選んでいました

外野の勝手な意見ではあるけれど、木刀、機械が壊れるまでは続けて欲しいなぁと思う。

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