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SBドライブの自動運転バスは、無人運転可能なレベル4自動運転へどのように進化したのか?

内閣府による日本初のレベル3自動運転バス公道走行から約1年

羽田空港新整備場地区で行なわれたANAとSBドライブのレベル4自動運転実証実験

 2月21日から28日まで羽田空港(東京国際空港)新整備場地区で行なわれた、ANA(全日本空輸)とSBドライブによる自動運転バスの実証実験。新整備場地区の一般公道を使い、レベル3自動運転と無人運転可能なレベル4自動運転を行なうという画期的なものだった。

 自動運転の定義は各国において異なったものがあったが、現在はSAE J3016の定義を米国、欧州、日本とも用いている。日本が切り替えたのは、2017年5月30日に公開した「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」からで、レベル0からレベル5までを定義している。このうちレベル0は、いわゆるマニュアル運転でドライバーが全ての操作を行なうもの。レベル1は、ACCなどアクセル・ブレーキ操作を自動化するもの、レベル2はスバル「アイサイト・ツーリングアシスト」や日産自動車「ProPilot」のようにアクセル・ブレーキに加え、ステアリング操作を伴うもので、現在はここまでが一般的に許されている自動運転だ。

 これより高度な自動化は、システムが全ての運転タスクを行なうもので、一般的には各種関係機関へ許可を申請してから実施されている。レベル3はシステムが運転タスクを人に戻すなどがあり、人が運転席にいることが必須。レベル4は、限定された条件での無人運転。そして、レベル5が限定条件なしの無人運転となる。

 それぞれ日本語での名前も付けられており、レベル1(運転支援)、レベル2(部分運転自動化)、レベル3(条件付運転自動化)、レベル4(高度運転自動化)、レベル5(完全運転自動化)となる。レベル定義について興味のある方は、「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」をご覧になっていただきたい。

自動運転レベルの定義。「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」より

 今回、ANAとSBドライブが羽田空港新整備場地区で行なった実証実験は、レベル3とレベル4自動運転になる。SBドライブは先進モビリティとともに、2017年3月20日から内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「自動走行システム」(SIP-adus)施策の一環として、公道における自動走行バスの実証実験を沖縄県南城市あざまサンサンビーチをベースに開始。このときが日本初となる自動運転バスの公道実証実験で、レベル3自動運転が行なわれた。

 そこから約1年で、SBドライブはレベル4自動運転を行なえるほどの進化を果たしたわけだ。記者は、このあざまサンサンビーチでのデモや、その後に石垣島で行なわれたレベル3自動運転を取材。石垣島で行なわれたレベル3自動運転では、長距離を同乗させてもらうことができた。

 この羽田新整備場地区でも進化した自動運転システムのレベル3走行時に同乗させてもらうことができ、その違いを体感できた。レベル4自動運転をこなせるほどになった、SBドライブの自動運転バスを紹介していく。

レベル4自動運転実現のポイントは遠隔運行管理システム「Dispatcher」

ANA、SBドライブ関係者
日野「ポンチョ」には、各所にLiDARやカメラが増設されている

 今回、自動運転バスのベースになったのは日野自動車の「ポンチョ」。コミュニティバスなどでよく使われている小型バスで、通常のディーゼルエンジンを搭載している一般的なクルマだ。このポンチョに、車線維持制御としてGNSS(GPS)、QZSS、磁気マーカを設置。速度維持制御として信号情報の活用ができるほか、ACC(Adaptive Cruise Control)、PCS(Precrash Safety System)機能を搭載。障害物回避制御にAIや高精度地図を利用している。センサー類は、前方と後方、側方にLiDARを装備し、前方にはミリ派レーダーを備え、各所にカメラを装備する。

 ポンチョの新車に対して改造を行なっており、改造にかかった期間は約3カ月。制御の容易なEV(電気自動車)系のバスではなく、一般的なディーゼルエンジン搭載のバスを用いたことについてSBドライブ 代表取締役社長兼 CEO 佐治友基氏は、コスト面のメリットもあるが、より難しい状況にチャレンジすることで高い技術を得ることができるとしている。ガソリンやディーゼル自動車をコントロールできれば、EVのコントロールはさほど難しくないだろう。

 このSBドライブのバスは、ソフトバンクの電話網も使ったRTK-GPSによって高精度に自車位置を把握。あらかじめ決められたルートをトレースするほか、周囲の状況を感知して車線変更制御、バス停正着制御を行なう。一般的に自動運転というと自由自在に自動で走るイメージだが、それでは開発・制御項目が多すぎて実現するのがはるか先になってしまう。SBドライブは、ルートを走るバスという特性に着目し、高精度のルートトレース性能と、車線変更などの割り込み処理を開発することで、自動運転制御を現実のものとしている。

 当初のシステムでは、速度制御はアクセル操作しかできず、ブレーキは運転手が踏むということから始まった自動運転制御だが、2017年10月の沖縄での実証実験からブレーキ制御も自動化。レベル4自動運転を実施できる能力を持った。

 しかしながら、レベル4自動運転には警察など関係各所の許可が必要で、今回も1.1kmの区間のみ、最高速は10km/hという条件の下でのレベル4自動運転を行なっている。また、このレベル4自動運転の実施にあたって、自動運転バスのカメラをしっかり調整。本来の運転手が見ることのできる視野を、カメラで完全にカバーし、それを大型二種免許を持つスタッフがSBドライブの遠隔運行管理システム「Dispatcher」によってしっかり監視することで許可を得ている。

遠隔運行管理システム「Dispatcher」
同じ画面はノートPCでも見られる。Dispatcherの画面を説明するSBドライブ株式会社 代表取締役社長兼 CEO 佐治友基氏

 このDispatcherには、自動運転バスの現在地やクルマの情報のほかカメラ映像も送られてきており、運転手が得ている情報と同様のものを監視することができるようになっている。それだけの条件を整えたからこそ、一般公道においてレベル4自動運転の実証実験ができているわけだ。

 この許可を得るために国と東京都が共同で設置した「東京自動走行ワンストップセンター」を利用。この仕組みのおかげで、スムーズに自動運転実証実験の申請が進んだと佐治氏は言う。

 今回の実証実験では、大型二種免許を所有するスタッフが遠隔運行管理システムであるDispatcherを監視、自動運転バスにも万が一のときにバスを止めるスタッフが同乗するなど、省力化(2人の免許保有者が貼り付いている)につながっていないが、将来的には1セットのDispatcherで複数台のバスを監視するなどの効率化を考えているほか、このDispatcherの外販も考えているとのことだ。

 最後にレベル4自動運転とほぼ同様のコースを使って行なわれたレベル3自動運転同乗時の模様をお届けする。石垣島での実施と異なり、アクセル操作がスムーズに、そしてブレーキ操作が自動となり、車内の乗客の姿勢もディープラーニングで認識。この認識などには、NVIDIAのDRIVE PX 2を使っているという。また、バスの外部カメラからの映像もディープラーニングで認識しており、歩行者認識などに役立てられている。

SBドライブとANAによるレベル3自動運転。羽田新整備場地区
バス車内に設置された各種画面
車室内の乗客の状態をディープラーニングで判断。立っているか、座っているかなどが分かる
バス横のカメラ画面に映る歩行者を認識。事故を未然に防ぐことができる

 ANAという協力者を得ることができ、空港内での利用という明確なターゲットが定まったことで、SBドライブの自動運転開発はさらに加速していくだろう。自動運転バスに普通に乗ることができる日は、意外と近いのかもしれない。