日経ビジネスでは9月3日号特集「アマゾンは怖くない『選ばれる小売り』」で、インターネット通販の攻勢に抗い、実店舗の魅力で勝負する企業を紹介した。「アマゾンエフェクト」が拡大するなか、店舗の存在意義は「商品」「顧客体験」「接客」といった本質をどこまで磨き上げられるかにかかっている。

 これまでプロの作業員向けにターゲットを絞っていた商品展開を一般客層にまで広げ、独自開発の高機能ウェアで業績を大きく伸ばしつつあるのが、ワークマンだ。高機能・低価格衣料品の市場で25%のシェアを目指すという高い目標を掲げ、プロ向け作業服で培ってきた商品開発力でカジュアル路線に打って出る。

 カジュアルなアウトドアウェアを着た若者が、軽快に走るテレビCM。どのアウトドアブランドかと思えば、広告主は作業服大手のワークマンだ。演歌歌手の吉幾三を起用するCMで知られてきた同社だが、思い切ったイメージ刷新に打って出た。

 「これまではワークマンという会社を知ってもらうためのCMだったが、今後は自社ブランドを売るためのものにしていく。従来のCMを知っている顧客にも、変化を印象付けられる」

 そう語るのは、ワークマンの栗山清治社長だ。2016年以降、同社は一般客層をターゲットに、丈夫さや快適性が求められる作業着水準の品質を持つ高機能ウェアをPB(プライベートブランド)で展開している。ワークマンの2018年3月期のPB売上高は前の期比33.4%増となり、チェーン全店売上高も同7.3%増と好調だ。

 小売りが独自開発するPBは、一般的なメーカーブランドの商品と違い、アマゾンに出品しない限り、同サイトでは手に入りにくく、価格も比較されにくい。アマゾンに対抗する上で有効な手段の一つとされ、力を注ぐ小売りが増えている。とりわけワークマンは、作業着という機能性と低価格の両方が求められる世界でノウハウを磨いてきた経験があり、満を持してPBの高機能カジュアルウェアに参入しようとしている。

 同社が開発した一般向け高機能ウェアは、軽さや防寒性に優れたアウトドア用の「FieldCore」、耐久性・撥水性を強化したスポーツ用の「Find-Out」、透湿・防水機能を持った雨具の「AEGIS(イージス)」の3種類だ。プロ向けに販売していたPBの作業着が、口コミ・SNSを通じて、オートバイのライダーや釣り人などにも人気となったことから、一般客向けのブランドを立ち上げた。

「FieldCore」ブランドで発売したブルゾン。軽さと撥水性が特徴だ。
「FieldCore」ブランドで発売したブルゾン。軽さと撥水性が特徴だ。

高機能・低価格に的を絞る

 イージス以外では、3000円程度に商品価格を抑えた。国内アウトドア用品大手のモンベルや、国内スポーツ用品大手のアシックスと比較すると、およそ半分以下の価格水準に相当する。「アパレルのなかでも、高機能ウェアで、かつ低価格というのは比較的競合の少ない市場。そこで25%のシェアを取りたい」。栗山社長はこう意欲を見せる。

 同社の想定する高機能・低価格衣料の潜在市場は4000億円。仮にその25%に当たる1000億円が取れた場合、その売上規模は2018年3月期のワークマン全体の売上高797億円を上回る。今後は衣料だけでなく、靴やかばんといった商品も拡充していくという。

 ワークマンの商品開発の考え方は「トレードオフ」。客が必要とする機能を残し、必要性の低い機能を捨てることで、高機能と低価格を両立する。

 「仕事で毎日着る人のために商品をつくっている。使い倒して年に3、4回は買い替えることを前提にすると、低価格でなければ使ってもらえない」(栗山社長)

 季節性のある通常の衣料品と異なり、作業着や作業用品といった通年で使用される商品が多いことが低価格の実現に寄与している。中国などの製造受託工場から見れば、ロットが大きく生産量が変動しにくいワークマンの商品を手がけることは、経営の安定につながる。こうしたメリットがあるため、ワークマンが追加で季節性衣料を発注する際にも、コスト面で工場の協力を得やすく、競争力につながっているという。

カジュアル路線の新業態も誕生

 今年9月には、一般向け高機能ウェアに特化した新業態「ワークマン・プラス」をショッピングモール「ららぽーと立川立飛」に初出店する。従来は出店できなかった都市部の好立地でカジュアル路線をアピールし、フランチャイズ加盟店を中心とした全国825店舗での売り上げ増につなげる思惑だ。

 この機会にワークマンを知った一般客の心を掴むために、プロ向けに最適化してきた全国の売り場を変更し、季節感のある衣料品の存在感を大きくしていく。加えて、商品ごとに需要予測と発注を自動で行うシステムを開発し、店舗への導入を進めている。売り逃しや過剰在庫を防ぐと同時に、従業員が浮いた時間を新規顧客への接客や営業に回せるようにすることが狙いだ。

 一般客層もターゲットに入れることで、出店できる余地は全国1000店から1500店に拡大できるという。従来は人口10万人に対し1店の目安で出店してきたが、今後は7万人に1店の出店が可能になると栗山社長はみている。

ワークマンの栗山清治社長(写真:北山宏一)
ワークマンの栗山清治社長(写真:北山宏一)

変化を前提に次世代育成

 ワークマンの思いきった方針転換の背景には、市場環境がまたたくまに変化していくことに対する危機感が透けて見える。1990年ごろまで、同社の売り上げの2割程度はカジュアルウェアが占めていた。だが、ユニクロなどの手ごろな価格の衣料専門店にその売り上げを食われ、作業服・作業用品に特化することになったという経緯がある。しかしその業態も、リーマンショック後に建設工事が減少して需要が低迷し、2009年3月期と2010年3月期には減収減益となった。

 停滞の打開策としてワークマンが打ち出したのが、PBの強化だった。現在の高機能ウェアの展開も、そうして培ってきた商品開発力の上にある。プロ向けに磨いてきたノウハウを武器に、「カジュアル」の世界にも再び挑戦しようとする。アウトドアブランドが主な競合だが、ユニクロの機能性を重視する衣料ともバッティングする可能性がある。こうしたカジュアルファッションを狙うには、ねじり鉢巻きや安全ヘルメットをかぶった吉幾三のCMはそぐわない。

 栗山社長は2014年以降毎年、社員を米国の小売り・流通業界の視察へ送り出しているという。

 「今は一強のアマゾンにすら、長期的には強力な対抗企業が現れるかもしれない」と栗山社長は語る。「米国で成功している小売りの現場や、その栄枯盛衰を見ておくことが、なにより次世代の力になる」という。アマゾンエフェクトの直撃を受ける流通先進国の動きをにらみつつ、ワークマンも自己変革を急いでいる。

■訂正履歴
当初、本文に記載しておりました「人口1万人に対し1店の目安で出店してきたが、今後は7000人に1店の出店が可能になる」は、人口10万人に対し1店、7万人に1店の誤りでした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。 [2018/9/3 11:23]
まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。