雑誌や新聞の定期購読を意味していた「サブスクリプション(サブスク)」。だが、今ではサブスクはIT系、デジタル系のサービスでも使われるようになってきた。ビジネスキーワードやトレンドワードとして目にすることが増えたサブスクを解説する。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 サブスクリプション(サブスク)という言葉を聞いて、何を連想するだろうか? 10年前なら、多くの人は新聞や雑誌の「定期購読」をイメージしただろう。しかし、今やサブスクはIT系、デジタル系のサービスをはじめ、様々な業界で利用される契約形態として導入されるようになっている。

サブスクは出版業界でおなじみの用語

 サブスクとは本来「定期購読」ないしは「定期購入」を意味し、雑誌や新聞などの出版物を定期的に購入する契約形態を指す言葉だった。売り切り販売と違って、企業は継続的に安定した収入を期待できる。

 出版分野のサブスクの変わり種としては、デアゴスティーニ・ジャパンやアシェット・コレクションズ・ジャパンが刊行する「分冊百科」がある。分冊百科は発行された号を全て購入してそろえることで完結する形式の書籍だ。

 例えば、飛行機や自動車の模型を完成させる分冊百科では、各号に付属してくるパーツを全て集めなければ、完成品は作れない。このため、読者は定期購読契約はしないものの、定期購読的な買い方をすることになる。このように出版物と関係が深かったサブスクだが、現在ではIT系や、デジタル系サービスの契約形態としての存在感を高めている。

 ソフトウエアはその1つだ。ソフトウエアはもともとユーザーが「買い切る」ものであり、一度購入すると期限を問わず使い続けられる。しかし、買い切りデメリットとして、機能の陳腐化とセキュリティー問題がある。購入したソフトウエアは、しばらくは無料でプログラムのアップデートを受けられる。しかし、新バージョンのソフトウエアが発売されると、古いソフトウエアの機能更新サービスや、セキュリティーやバグなどの脆弱(ぜいじゃく)性を克服するためのサポートは終了してしまうことが多い。このため機能が陳腐化するだけでなく、外部からの不正アクセスなどのリスクも高まってしまう。

 一方、ソフトウエアをサブスクで利用すれば、契約が継続している限り、常に最新バージョンを利用でき、機能面でもセキュリティー面でも安心だ。

 サービスを提供する側にとってサブスクのメリットはどうだろうか。製品を売り切ってしまえば、キャッシュフローは消費者の購入時点で終了してしまう。完成度の高い製品をつくって販売しても、その後消費者に買い替え需要が生じ、かつ再購入されなければ、企業の収益機会は一度きりになってしまう。

 一方、サブスクとして販売すれば、顧客がソフトウエアを乗り換えない限り、キャッシュフローは継続する。その収益を機能性やセキュリティーの向上に投資できる。デメリットとしては、短期でユーザーがサブスクをやめてしまうと、売り上げは積み上がらず、売り切りの場合より小さくなってしまうこともある。

飲食業もサブスクビジネスに参入

 ソフトウエアだけでなく、ネットフリックスやHulu(フールー)、ディズニー+(プラス)など音楽や映画の配信サービスでもサブスクが2010年代後半から人気を高めている。定額で幅広いジャンルの音楽や映画を楽しめる。サブスクはさらに他の業態へも波及し始めている。近年注目されているのは飲食業のサブスクだ。

 利用回数制限をするものもあるが、基本的には一定期間の定額料金での食べ放題・飲み放題と考えればよい。こうした食べ放題・飲み放題サービスは、飲食業になじみ深いこともあり、個人店・チェーン店を問わず、多くの飲食店が提供し始めている。

 外食チェーンでなくても関連企業や、自社物件のテナントと協力して飲食サブスクを提供する企業も出てきた。小田急電鉄は21年3月に小田急線沿線の店でそばやおむすびなどの飲食や購入を定額でできる「EMotパスポート」サービスを開始。三井不動産は、自社で管理する物件内のテナントレストランなどを定額で利用できる「COREDOサブスク」の提供を始めている。

ワーケーションでは休暇で訪れるようなホテルで、リラックスしながら仕事を行う。サブスクリプション化により、コストを抑えて気分転換をしながら仕事をする場所としてホテルが活用される様になった(写真:PIXTA)
ワーケーションでは休暇で訪れるようなホテルで、リラックスしながら仕事を行う。サブスクリプション化により、コストを抑えて気分転換をしながら仕事をする場所としてホテルが活用される様になった(写真:PIXTA)

サブスクが苦境に立たされるホテル業界の救世主となる

 サブスクで目を引くもう1つの業界がホテル業界だ。新型コロナウイルスの感染拡大で国内外からの観光客が激減。空室率は過去最高を記録するなどホテル業界は苦しい状況に追い込まれた。一方、20年の緊急事態宣言の発令を契機に、自宅などオフィス以外で働くリモートワークが増えている。そんな中で生まれたのがホテルの「宿泊サブスク」だ。

 一定期間、定額料金で客室を利用できるのが宿泊サブスクの基本形だ。連泊するよりも格段に安い価格が特徴だ。大手ホテルでは、ストリングスホテル東京インターコンチネンタル、京王プラザホテル、ホテルニューオータニなどが宿泊サブスクを提供している。中でも世間を驚かせたのが帝国ホテルのサブスクだ。帝国ホテルが21年2月に発表した「サービスアパートメント」は、36万円で帝国ホテルに宿泊できるとあって話題を呼んだ。サブスク用に用意された99室は即日全ての予約が埋まった。

 こうしたホテル業界のサブスクは都市部だけのものではない。ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を掛け合わせた「ワーケーション」と呼ばれる新しいライフスタイルの登場により、都市部以外の滞在施設でもサブスクは広がりを見せている。ワーケーションではリゾート地や温泉地などの旅館やホテルでリモートワークをする。こうしたワーケーション需要を取り込むため、東急は21年4月に同社が運営する全国39の施設を月額定額制で住み替えられる「tsugi tsugi(ツギツギ)」というユニークなサービスを発表した。

人気の高まるサブスクには問題点も

 様々な業界でサブスクが拡大する一方、問題点も浮上してきている。運営側から見たサブスクの問題点は、過剰利用による収益悪化だ。利用者はサブスク料金の元を取るため利用回数を増やそうとする。しかしソフトウエアなどと異なり、飲食サブスクや宿泊サブスクなどでは利用回数が増えると収益性が悪化する。

 このため、収益性の悪化を懸念してサービスを打ち切る事業者や、利用制限を導入する事例が出てきた。利用者からすれば、「使い放題」という認識なのに利用を制限されることになる。

 サブスクが抱えるもう1つの問題がブランド力の低下だ。特に、ホテル業界におけるサブスクは、コロナ禍での苦肉の策とはいえ、通常の宿泊料よりも格段に安い価格でサービスを提供した。宿泊客の裾野は広がるが、本来のターゲット顧客とは異なる客層を呼び込み、ブランド力の低下につながる可能性もある。

 コロナ禍が収束し旅客が戻ってきたときに、これらのサブスクはどうなるのだろうか。宿泊サブスクは一時的なキャッシュフロー改善策にはなるが、長期的なビジネスとして成り立つかはまだ不透明だ。

(執筆者=宇佐美フィオナ)

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中