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「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」 第115回

サイバーエージェントのライブ配信が事実上サービス終了へ

2019年01月24日 08時00分更新

文● ノダタケオ(Twitter:@noda

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 株式会社サイバーエージェントは運営するライブ配信プラットフォーム「FRESH LIVE」の無料チャンネルにおける「新規チャンネル開設」「新規番組作成(※配信予約)」「生配信およびアップロード配信」「全ての番組のアーカイブ保存、公開」などの機能を2019年2月12日(火)をもって順次終了することを発表しました。

 2月13日以降、FRESH LIVEでライブ配信が可能となるのは、一部のチャンネルを除き、1月10日時点で会員制チャンネル(月額有料)として存続しているチャンネルのみに限られ、これまでのように「誰でも手軽にチャンネルを開設してライブ配信をする」ことができなくなります。

 このことから、今回の発表は運営が続くものの「サービスの縮小」であり、そして、事実上の「サービス終了」の宣言であると言えるでしょう。

「ポストUstream」と期待されたFRESH LIVE

 FRESH LIVEがサービスを開始(2016年1月21日)したのは、ライブ配信メディアの黎明期を支えてきた「Ustream」「ニコニコ生放送」「ツイキャス」の3つのサービスのうち、Ustreamが2016年1月末をもって日本から事実上のサービス撤退を表明(2015年12月)したばかりのときのことでした。

 Ustreamは当時、高画質でライブ配信をすることができ、サービスダウンも少ないプラットフォームの代表格で、商品やサービスのプロモーションのひとつとして、企業系の硬派(少しフォーマルな)ライブ配信を活用したいと考えたときに、Ustreamは選択肢のひとつとして必ず挙げられたものでした。

 しかし、Ustreamがサービス撤退を表明して以降、特に、安定性を求める企業系のライブ配信、高画質高音質を求めるスポーツイベント系のライブ配信は、同じように高画質でライブ配信ができるFRESH LIVEへ関心が集まります。

 そして、新しく登場した「FRESH LIVEにあってUstreamに無かった仕組み」として注目されたのが「マネタイズ」です。

 今ではライブ配信におけるマネタイズの仕組みは様々なものが確立され、その主流は「投げ銭(ギフティング)」ですが、その当時はライブ配信をすることによるマネタイズの仕組みがほとんどありませんでした。

 このとき、FRESH LIVEは配信者の好きなタイミングで配信中に再生される動画形式広告である「生放送中CM」や、アーカイブ再生時に再生される動画形式広告である「アーカイブ開始前CM」の機能をサービス初期から備えていたこともあり、結果、Ustreamでチャンネルを開設していたライブ配信の配信者たちはFRESH LIVEへホームグラウンド(チャンネル)を移していく人も多かったと記憶しています。

 そうした時代背景もあり、その当時は「ポストUstream」と期待されるぐらいの魅力がありました。でも、残念ながらその期待は長く続くことができなかったのです。

好調の「AbemaTV」の一方で置いて行かれた「FRESH LIVE」

 2015年までは「Ustream」「ニコニコ生放送」「ツイキャス」の3つのサービスがしのぎを削ってきた時代でしたが、FRESH LIVEが生まれた2016年は、FacebookやMixChannelがライブ機能を公開し、LINEもそれまでは特別な人しか利用することができなかったLINE LIVEを一般ユーザーにも開放した年。

 さらには、LiveMeやドキドキLIVE、Stager Liveといった、スマートフォンから配信をすることがメインで、スマホを縦持ちにして縦長画面レイアウトで視聴をする、新しいライブ配信のプラットフォームが多く生まれました。

 結果的に、ライブ配信メディアの全盛期時代となった2016年に生まれた同期のサービスたちの流れと一緒にFRESH LIVEは乗っていくことができませんでした。いま思えば、流れに乗っていくことができていないことに苦悩をしていたのだろうと、これまでの3回におよぶサービス名称の変更からそれとなく私たちユーザーも感じ取れます。

 2016年にサービスを開始した当初、FRESH LIVEは「Ameba FRESH!」という名称でした。それから「AbemaTV FRESH!」「FRESH! by CyberAgent」「FRESH LIVE」へと変わっていきます。さらに、名称が変わりながら、同時にサイバーエージェントの運営からAbemaTVへ移管され、再び、サイバーエージェントへ運営が戻されたりと、サービスが向かっていこうとしている明確な方向性が見えませんでした。それは、ユーザーだけでなく、運営するサイバーエージェント自体も見いだせなかったのかもしれません。

 その一方で、サイバーエージェントとテレビ朝日の出資で設立された株式会社AbemaTVが運営するインターネットテレビ局「AbemaTV」は、一般の人たちへの認知度を上げており、サービスそのものは現状赤字であるものの好調と言えます。

 AbemaTVは大きく伸びてゆき、名称や運営を3年ほど変えながら進んでいったFRESH LIVEは、最後は「サービスの縮小」であり、事実上の「サービス終了」の宣言をすることに至りました。サービス開始時にはシステム的な関係性があったAbemaTVとFRESH LIVEの2つのサービスは、それぞれ大きな明暗が分かれた結果となったのです。

大切なファンとの関係性が切れてしまわないようなコミュニティ作りが急務

 サイバーエージェント、そして、そのグループが運営するライブ配信プラットフォームはこれまで、2015年7月から始まり2017年1月に終了した「takusuta(タクスタ)」があり、今回、2016年1月から始まった「FRESH LIVE」が約3年でサービスの縮小へ向かいます。

 残されたのは株式会社CyberZが運営する「OPENREC.tv」で、こちらはゲーム実況配信者が多く集まるプラットフォームです。いま、ゲーム実況ジャンルのライブ配信は人気のコンテンツですし、e-sportsの流行もあり、何らかの影響を即座に受けることは考えにくいでしょう。

 しかし、私たちライブ配信の配信者たちがいつも親しみをもって利用しているプラットフォームが(どの会社が運営していたとしても)いつか突然サービスの縮小や終了へ向かう可能性を秘めていることはゼロではありません。

 結果、プラットフォームが無くなってしまえば、私たちライブ配信者がその場で築きあげてきた視聴者(ファン)たちとの関係性が切れてしまうことへ繋がります。

 今回の発表をきっかけに、大切な視聴者(ファン)たちとの関係性が切れてしまわないような、「ひとつのプラットフォームに依存しすぎないコミュニティ作り」が大切であることを、私たちライブ配信者は改めて感じざるをえないのです。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com

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