©️宝塚歌劇団


礼真琴、舞空瞳コンビで8年ぶり「ロミオとジュリエット」再演開幕

星組トップコンビ、礼真琴と舞空瞳のコンビによるミュージカル「ロミオとジュリエット」(小池修一郎潤色、演出、稲葉太地演出)が14日、宝塚大劇場で開幕した。2010年に星組で初演、その後雪組、月組と毎年再演され、最後が2013年の星組で、今回が8年ぶり5度目の上演。その間、梅芸版の男女版公演があり、8年ぶりと聞いてもうそんなたったのかと驚く。基本的に初演と大きく変わるところはないが、衣装や装置がリニューアルされ、より豪華で洗練された感覚。そしてなんといっても礼、舞空を中心とする星組メンバーの歌、ダンスのクオリティーの高さが今回の再演の一番のみどころ、ききどころだろう。

このミュージカルがこれだけの人気作になった原因は、あまりにも有名なシェイクスピアの原作を大胆に脚色、ジェラール・プレスギュルヴィック作曲によるパンチの効いたフレンチロックと斬新な振付のダンスで味付けし、加えて擬人化した愛と死が二人の間を彷徨い全体に死生観を漂わせながら原作の持つ普遍的なテーマをうきあがらせ、現代に通じる新たなラブストーリーとしてよみがえらせたことだろう。

今回の再演でも愛と死に誘われるように冒頭のヴェローナの広場でのモンタギュー家とキャピュレット家の諍いの場面がパンチの効いたダンスで展開、見るものを一気に物語の世界へと引き込んでいく。

5度目の上演ということになると、内容よりもやはり出演者の評価が先に立つのは仕方のないところ。しかし、今回の再演は早くから演目が決まっていたこともあって、どのパートも完璧に出来上がっていた。

このバージョンのロミオはこれまで柚希礼音、音月桂、龍真咲、明日海りおが演じ、礼は5人目。これまでの4人もそれぞれのアプローチでロミオ役を体現したが、礼は、よく伸びる滑らかな歌声、シャープで切れ味鋭いダンス、そして直情的で初々しい青年像、これまでの4人に優るとも劣らないたたずまい。2010年の初演時、礼は入団2年目だったが「愛」に起用され、2013年の星組再演の時は本公演でベンヴォーリオ、新人公演ではロミオを演じており、ロミオを演じるためにいまここに存在するかのようだった。大人になりきれない少年っぽさが礼ならではの作りこみで個性がよく生きていた。

ジュリエットの舞空も、ただ可愛いだけではなく、芯の通ったところもきちんと表現、歌唱も格段に充実して、礼とのコンビがはまってきた。ロミオの幻想に現われる最初の登場シーンやバルコニーのラブシーンなど呼吸ぴったりで文句なしだった。ただ一点、仮面舞踏会の場面だけ、マスクと髪型が似合ってなくてマスク越しのラブシーンにやや違和感があったのが残念だった。背中の空いたミニのドレスも品位にかけた。この衣装これまでと同じだと思うのだが……。とはいえフィナーレの礼とのデュエットダンスのすばらしさですべては帳消し。ダンス能力の高い二人だからこそできるスパニッシュ風の情熱的なデュエットダンスで、複雑なフォーメーションをいとも楽しげにこなし、最後は礼が超絶テクニックのリフトで決めた。デュエットダンスに至るまでの愛月ひかるを中心にした男役の群舞もみもの。振付はKAORIalive。久々にみた目の覚めるダンスシーンだった。

 ロミオとジュリエット以外は若手に役が少なく、今回も大幅な役替わりが組まれていて初日から23日まではAパターン。ティボルトが愛月、ベンヴォーリオが瀬央ゆりあ、マーキューシオが極美慎、パリス伯爵が綺城ひか理、ヴェローナ大公が輝咲玲央、死が天華えま、愛が碧海さりお。この7役がBパターンで複雑に入れ替わる。

Aパターンでティボルトに扮した愛月は登場シーンでみせたちょっとしたしぐさで男役としての色気を発散、ティボルトの人物像を一瞬で表現して見せた。歌にも味があり、若さで突っ走るロミオとジュリエットとは一線を画した青年を巧みに演じ、二人にとっては敵役なのだが、そう思わせない繊細さで物語に深みを加えた。Bパターンの死もぜひ見てみたいたいと思わせた。

ベンヴォーリオの瀬央は黒髪のショートカットのヘアスタイルで最初はだれかわからないほどのイメチェン。しかし、前半と後半に一曲ずつある大曲ソロも見事に歌いこなし、新たな一面を見せてくれた。マーキューシオの極美は赤毛風のブロンド。長身が映えて美貌がさらに際立った。街角で歌うソロは音程のとりにくい難曲だがよくこなしていて感心させられた。パリス伯爵の綺城も金持ちの貴族らしい鷹揚さを巧みにだした好演。ヴェローナ大公の輝咲の圧倒的な口跡のよさも特筆したい。

死の天華、愛の碧海のダンサー役2人も動きで舞台を支配する大切な役をしなやかな動きで熱演、ロミオに寄り添うような天華の死が印象的だった。

AB両パターン通しで出演する大人メンバーが誰も粒ぞろいなのも、この舞台をレベルの高いものにした要因の一つ。初演から持ち役にしているロレンス神父の英真なおきはもとより乳母の有沙瞳まで歌、演技の実力で見せた。なかでもモンタギュー夫人の白妙なつのころがるような歌声が耳にしみた。

役が少ないうえ2班に分かれての出演。中堅クラスでもアンサンブルでの出演で退団公演となった拓斗れいや桜庭舞らに見せ場がないのが残念だったが星組の一致団結ぶりが作品の力をさらに押し上げた公演だった。

©宝塚歌劇支局プラス2月15日 薮下哲司記