磯津はもともと沿岸で、貝をとったり、海苔をしてみたり、地曳網をしてみたり、 昔の漁師やで、機械使わんと、まあそういう漁法でおったんやけど、とれた魚はくさくてあかんし、こんなんではあかんでって、沿岸漁法から、回遊魚っていう、黒潮にのってくる魚の漁にきりかえようということになって、沖へ出るようになったんや。

　それがどうにかこうにか軌道にのってきた時分に、そのくさいという世論がたかまってきてやね、「こんなことではあかんなあ」「こんなことではあかんなあ」って言いながらでも、 なんにもようするてがなかったわけや。
　そしてねえ、あれは３８年の６月、６月っていうとシラスっていうジャコになる白い魚ね、これをいっぺんに獲ったわけや。ずーっとこの地つづきの漁師がね。・・・そいつがほとんど波打ちぎわへ寄ってくるもんでね・・・。そしたら、鈴鹿市とか、桑名とか、津とか、あのへんの魚は、ばんばん値よう売れるわねえ。それでね、四日市（磯津）の魚だけはくさいって、ぜんぜん買うてくれやん。そいでさねえ、隣の漁師は、極端にいえば、楠（磯津の隣の三重郡楠町）の漁師ねえ、１０貫匁くらい入るカゴだけど、このカゴいっぱい５０００円、６０００円で買うてくれる。磯津のとった魚は一銭でも買うてくれやん。極端に差がみえてきたもんで、こんなことしとってはあかんでなあ、その当時ねえ、富田の平田（佐矩）っていう人が市長しとったわ、そいで、こんなことではあかん、クセになるでなあ、おいらだますようにして連れてきたんやで、この市長の責任やで、市長にいっぺんこの魚くわせ・・・それで富田の漁港へ魚積んでった。
　朝４時ころやったなあ、若いさかりのもん１０人くらいで市長の家へたたき起こしに行ったんや。 そしたら市長が、「なんやあ・・・」って、なんやあって、おまいいっぺんこの魚食ってみてくれ。おいらこの魚とってきたけど、富田のあきんどに買うてくれっていっても買うてくれやんし、いっぺんおまいたち、くさいかくさくないか・・・。まだその時分には、市長は「くさくない」って気張ってるわねえ。「くさいか、くさくないかおまい、いっぺん食ってみてくれ、これくさなかったら、一杯、５〜６００円するんやで、くさなかったら半分でいいで３０００円でおまいに売ったろうに・・・」
　そしたらまあ、偉い市長やったわな、「ともかくなあ、おまえたちがそういうんやったらなあ、一度見に行こうにって、漁港まで見に来てね、そのとき、１０万くらい魚があったんかなあ、魚の量はね、 時価でね。「１０万っていっとってもすぐになっともならんで、お前ら今日獲ってきたの全部、おれが買うたろに、お前たちも朝はようから沖へ獲りに行ったのを買うてくれやんていうんではなっともならんし、それに油もいることやで、おれが買うたろうに・・・」ってね、「これはあくまでもわしの小遣いやで、そのかわり二度と持ってきてくれるなよ、 こんなのなっともならんで・・・」って、市長はその場で 、５万か６万くれたわ。魚どうするって言うたら、「専門のおまえたちがくさいっていうもんを食えるわけないやないか、これはほったってくれって、すぐその場で浜へほって帰ってきたわけや。」

　そうしといて組合へ行ってね、「市長はなあ、これくらいまで誠意示しとってくれとってもなあ、会社がなにも言わんっていうのは、こんなばかなほうはないやないか。わしらには、絶対くさくなることも、なにもせんっていったんやでなあ。いっぺんかけあいに行こうに・・・」って、若いもんばっか１００人寄って話しができてね、組合長や役員は、出るのを反対やったわ。反対でもね、「おまえたちがじぶんらの顔でこの工場を連れてきたんやないでなあ、おまんらになにも責任とってくれって言ってるわけじゃないで、おいらで行く」って、ほんでまあ、一回目の交渉に行ったわけや。
　それは市長に魚買うてもろた直後で、いちばんはじめに中電（三重火力）へ行ったわけや。
　会社へ行って、「おまえとこなあ、この水（冷却排水） さえとめてくれたら、おれらの魚はくさくないやで、なっとかせえ。」そしたらねえ、技術員を呼ぶとかなんとか言って、ものわかれになってねえ。
　そいで、五回か六回、中電へ交渉に行ったねえ。要するに、中電の水そのものがねえ、わしらで考えるのに、原因はあそこしかないのや。油くさい、そういうくささだけやったら油会社に原因があるけれども、なんともいうにいわれんねえ、そのなんていうかなあ、薬品は塩素って言うとったわ、タービンの中に海水を入れる（冷却用）と、タービンの中に貝がつくわね、その貝を防止するために塩素を入れる、その水をのむと魚がくさくなるんやわさ。
　こんな状態ではあかんで、なっとかしようにって・・・。漁師としてはねえ、「四日市港から水を入れて、反対の鈴鹿川の方へ出すのを、逆にせい」っていうわけや。「それはできんていうのなら、もっと沖の方へその水を出すようにせい、２０００メートル、３０００メートルってシーバース（沖から、タンカーの油を海底パイプで陸揚げするための油送基地）のように沖のほうへパイプを出して水を出せば、海岸の貝とか、沿岸の魚がくさくないようになる」、そしたら「技術面で出来ん」ってなった。そして「わしんとこは調印しとるんで、あくまでもせん」ってなった。
　それで、「これは最後の交渉やでなあわしらにも考えがある・・・」ほしたら「それ以上どうにもならん。」ほんならどうにもならんっていうのやったらなあ、おれらどうせ食えんのやったらなあ、くさい飯くうか、それとも水とめてもろうて働いて食うか、どっちかやで、やろうに・・・」って。
　あの当時（３８年６月）漁業組合員が５００人くらいおったかなあ、年寄りが１００人くらい欠席で、４００人くらいが寄って、こわれ船と、村にある土のう全部もってやねえ、水（排水）を停めに行ったわけや。
　停めに行こうって決めたのはね、漁業組合の役員をボイコットしといてね、これから生活していかんならん若いもんだけでね。
　漁師はね、毎朝、三時か三時半になるとね、港へ出ていく習性がある。港へ出て行ってね、隣でばんばん漁しとるし、魚はそこにきとるし、獲っていってもなんにもならんでウロウロしとるわね。それで、漁に出たいばっかりに固まってるわね。そうかといって隣に獲りに行けば隣から怒ってくるで獲りにいけやへんし、「なっとかならんかなあ」って寄って相談しとるうちに「そんならやってまおうに・・・」まあ話しが固まってきてやねえ、「ボイコットして、やってまおうに・・・」っていうことになってもったんでね。
　そしたら組合長も、「長っていやあ、わいらの親父やで、子どもがそんなに難儀しとるのをほってみておれんでな。おれもこの年になってるんやで、死んでもかまわん。責任とるで、わいらやるならやれ、あとの責任はおいらがとるで。やるならやってこい・・・」って、組合もほっておけんで、やむをえず入ってきたんやわ。その当時、中村留次郎さんねえ、あの人なんかも役員やったわ。

水とめてやる・・・

　そんなことで、そうこうして行ったわけや。 そしたらそのことは、誰かから通知してあるわねえ。工場へ行ったらね、もんの中へ入れんように警察が５０人くらいおったかな、正門に鉄条網はって、一歩も入れやんって言っとったわ。「一歩も入れやんって、鉄条網もクソもあるか・・・」ってね。故意に危害を加えると思ってね、守衛もおらへんだし、警察が５０人くらい来てね、「ちょっとでも手に触れたら方にふれるのやぞ」って。「法にふれるのやったらブタ箱の飯食わせい、おいらここに居ってもメシ食えんのや」って。２〜３０人、気の早い手合いが警察にかかってったわけや、そしたら警察は鉄条網の中でワイワイ、マイクで言うとったわね。「こんなイヌ共に相手になっとってもあかんで水とめたろうに・・・」ってね、「今から１０分の間に最後の回答せにゃ、水とめてやる・・・」って、磯津の港から５隻くらい船を持ってきたかね、沈める船を。それから、水門のちょうど入り口にねえ、浜州ができるねえ、それから砂とって水門とめるにはわけないでって、水門のところに船をずーっと５はい並べてね、土のう３〜４００いれたかなあ、そいで、「おまえんとこの回答しだいで、いつでもほうりこむぞ」って。
　ほうしたら、沖から警備艇が来たわな、水上警察の警備艇が３〜４はい来たわな。そいで、「おまえら陸の警察が取り締まらなんだら わしらが取り締まるぞ」って言ったでね。「わいらなに言っとる、いつでも来い。いつもなあ、密漁しとるでわいらに遠慮しとるけど、わいらなんじゃ、今日は、くるならいつでも来い」ってね、あれも４〜５０人、気の早い若い衆がその船へ泳いで行ったねえ。そいで、警備艇へ上がってね、マイクもっとったやつなんかをみんなとっちゃってね、「わいらグズグズ言うか・・・」って言ったら、「わしらは職務上来てるだけでな、おまんたち罪におとそうとも思わんし、おまんらの妨害もしようとは思わん、よう事情はわかっとるでどうも言わんけど、たのむでわしらに危害を加えるのだけはやめてくれんか・・・」って言うもんで、そんなんやったらほっとけって、警備艇を占領したような状態でね。

　会社側の回答がないし、 約束の時間がきたし、さあやろうかっていうときに、今の四日市の総連合自治会長の今村嘉一郎っていう男ね、それがとんで来たわな。「まあ、いっぺん待ってくれ、わしが知事に話をつけて、おまえらの納得いくようにするでやなあ、今日のところはおれの顔にめんじて、頼むにこらえてくれ」って、土下座してね。「お前らおれをいけにえにするんならしてくれ、お前らに殺されてもどかんでな、それよりもおれの言うことを聞いてくれ、それを聞かんのやったら、わしも自治会長（塩浜地区連合自治会長）として恥ずかしいで殺してくれ・・・」って、その男がとまったわな。「そのくらい言うのやったら、まあいっぺん聞くだけ聞いてやろうに・・・」って、その場はそれでおさまりをつけて帰ってきたわけや、船は沈めんとね。
　その船を排水口に沈めにかかったとき、磯津の漁師は総出でやけども、関係ない人もおるし、女の人もね、かなりこちら側（磯津側）の堤防から応援しとったわな。「そんな会社こわしてまえ・・・こわしてまえ・・・」ってやじとったわな。 子どもも居ったけど、数にして千二、三百おったかなあ。
　中電へは、船で磯津の港から行ったのと、陸から走っていったのとあって、陸から行ったのはだいたい中年以上と年寄りで、船で行ったなかの１００人は若い衆で、なっとも威勢のいい連中だったわな。

　それからしばらくたってから知事（田中覚）が来るとなったん、いっぺん現場視察に。それで知事が来たわけや。
　知事が来たとき、警察も来たわな。実際のとこ、それまでに警察とトラブルはあったな。それで「知事に手をかけるな」とかね。みんないきりたっとるもんで、知事になにされるかわからんって、警察の機動隊が２〜３００人おったね。
　さあだいたいにおいて漁師っていうのは、警察とはカタキ同士やでね、「こんなもん、バカもん、やったるかあ・・・」で警察も寄ってこんだわな。
　それで知事を連れてきたときには、会社側と、組合側とで、ボラと、ハゼと、ウナギと、あそこの魚全部、食わせるようにしたんや。
　会社側はね、中電の社長は出て来んだけど、 かなり発言力のある重役が出てきてね、そいで「くさない、おいしいですなあ・・・」ってこきゃあがった。「なにがおいしいもくそもあるか」ってとらまえてね・・・そしたら「たのむでやめてくれ」って、すぐに警察がとめたけどね。そいで知事に食わしたら、知事は一口食ってね、「うーん、なるほどおいしいなあ」って、だけどすぐに「これはあかん・・・」って。そりゃ味がつけてあるで、食った瞬間はうまいわね。しかし、一口噛んでみたら全然食えんわね、「これはくさい・・・」って逃げてしまい、「くさいのはわかった、なんとか処置する・・・」って。

　だいぶ難航したけどね、再生資金としていくら、一時金としていくらって、話し合いで一人あたま四〜五万円もろたんかなあ。これは中電から出さしたのを分配してそうなったんやけど。
　そしてねえ、第二、第三の水門とめよが出てきたらあかんで、 長くもって運営せいっていう資金で、白子（鈴鹿）方面にアパート買うたりして（漁協で）さ・・・ちょっとやったけどね。あんなもん、そのうちなんとはなしに消えていくんとちがうか。
　中電の補償のそのときの算定っていうのはね、年間に、この浜でこんだけのものが獲れる。あれもこれも獲れると、ちゃんと額を出したけど、全額はおそらく、くれん。そのなんパーセントかっていうことで、お互いに話し合おうじゃないかって、額がぐっと減ってくるね。
　まあ、中電から金とったけど、 くさい魚は解決せんわなあ。そいでね、海賊船でごうをわかしとる（腹立ちを見せている）けどね。
それが、幸か不幸か、魚が最近こっちへ廻ってこんのや。全般に汚れとるで寄ってこんのか、それとも潮流の関係でこんのか・・・その魚が廻ってこんで今話しがでやんわけや。漁師としてはね、おそらくボンボン漁がでたらやね、またさわぎだすやろう。
　しかしねえ、中電もあれからこっち、だいぶ操業を少なくしとるねえ。最近わしらがみとるのに、一週間にいっぺんか、しかけをかえとるかわからんわねえ。
　そいで夏うち、この川（鈴鹿川河口）の魚が食えたときあったからねえ、「今日はくさくないな・・・」 。そやけど、一週間か十日たつと、またくさくて食えやんなあってあったけど、くさくないときでも売り物にはならんわなあ。
　ことしでも、スズキって、マダカの大きなやつね。こちらで獲れると５００円から１０００円や。くさいかもしれんって、保証できんやで。それが鳥羽あたりで獲れると３０００円から５０００円くらいする。それくらい値のひらきがあっても、自分の労働力でカバーしとるんやわさ。
　南勢（三重県南部）の漁師は、一日のうちに三時間か四時間働いて２０００円もうけてくるわ。収入はえらい変わらんもんで、 自分の労働だけは黙ってほってるわけや。
　そういう点もあるし、若いもんはなげやりになってるなあ。その当時ね、夜もろくに寝やんとね、毎晩寄ってね、神社へ寄り、公民館へ寄り、組合へ寄りしてね、また個人の家へ５〜６人寄ったり、そうとう話し合いして、苦労したわりには成果があがらんなんだわけや。

　しかしどこの国にもある話しやろうけど、おえら方ね、なんらかの形でつぶされていくわけや。そういうケースばっかしでね。
　その当時、そんだけ力を入れてくれた自治会長さんでも、現在どうかっていやあ、世論に抗しきれなくなってねえ、もうやめてもらったわなあ。（塩浜連合自治会長でなくなったことで資格がないのに、市総連合自治会長にも居すわり、分裂さわぎとなった）
　そういうえらい人は、いっぺんずつ、なにかして、なにがしかの得るものがあって、消えていくんやろうな。
　われわれが一生懸命やったことをね、舞台がクライマックスになってくると、要するに二枚目が出てきてやねえ、大見得きって出てくるもんで、馬の足のなり手がないわけや。こんなばからしい、おいらが一生懸命やってやなあ、最後の土壇場になってくると、「わいらみたいだまっとれ、若いもんのいうことは通用せんであかん、肩書きのあるもんが話しせんと通用せんであかん」ってなもんで、押さえてやねえ、そいで終いや。
　そうかといって、家へ帰ってきて、あの人のしてくれた話しは気にいらんていう世論が出てくるわねえ、若いもんからは。しかし悲しいかな、磯津の組合の役員っていうのは、家の親父とか、おじきとかこの磯津の村、こんなに広いけど、村全体が親類になっとるで悪いのわかっとっても面と向かって言えんわけや。 個人の話しになってくると、「あの人、おそらくいっぱい飲んでるぞ（飲まされとる）よ・・・」って言っとっても、現場がわからんもんで、面と向かって言えやんし、まあ、そんなような状態で、「どこのだれやらのゼニもうけやでのう、やめとき・・・」って、わかいもんはなげちょうわけや。
　そんなラチのあかんもんにかかっとってもあかんで、自分で自分の生きていく道をかんこうせんとあかんで、人にたよらんと自分でやってるっていうケースでやっとんやわなあ。
　漁師っていうのは、人が休すんどると喜んでるっていう状態やで、 わしらの口からなかなか出やんのやわ。寄ると、なんとかしようにって話は出るけど、ある程度の他人の被害には喜んでるんやでねえ。「隣は休みやわ、うまいこっちゃが・・・」ってもんでねえ。
　それでいま若いもんで問題になっとるのは、あっちをちょっと、こっちをちょっとととられ（漁業権放棄）、そうして磯津だけをほっとかれ、おれらの漁ができなくなって越していかんならんことがはじまってくる。これを組合のえらいさん方はなっとも言わんとほうってるのかっていう声がちょっと出てきてるけどね、今としては。
　しかし、それを積極的にどうしょうやの、こうしょうやのっていう空気はまだ見られんけどねえ。なぜかっていうと、漁師としては今漁期も漁期やでねえ、 三時（午前）に起きて出て行って、五時か六時頃（午前）に帰ってくる、それがおそらく冬に入って、十一月になって、漁師もヒマになってくると、なんとか話も出てくると思うけどね。