“平成の鬼平”が強行した汚い債権回収

★1回目の逮捕編

2012.08.08


中坊公平氏【拡大】

 大蔵省(現財務省)の金融機関に対する「総量規制」(1990年3月)により、銀行から不動産業者への融資はされなくなった。その抜け道として、総量規制の対象外とされた住宅金融専門会社(住専)が利用された。

 住専は主に個人向け住宅ローンを取り扱うノンバンク。しかし、銀行が住宅ローンに力を入れたことで、新たな融資先を求め、銀行も系列の住専に不動産案件をどんどん紹介した。わが麻布自動車グループの「麻布建物」の債権も住専に移された。

 しかし、バブル経済は崩壊、不動産物件は担保割れで不良債権になった。95年、大蔵省の住専立ち入り調査で、農林系1社を除く7社で総資産の半分の6兆4000億円の損失があることが判明。

 翌年、住専の資産を譲渡し、債権回収に当たらせるため、住専処理機構(のちに住宅金融債権管理機構と改称)が新設された。日本住宅金融など8社あった住専は、農林系の協同住宅ローン以外すべて破綻した。

 その後、住宅金融債権管理機構と整理回収銀行が合併し、(株)整理回収機構(RCC)になった。その初代社長には元日本弁護士連合会会長の中坊公平氏が就任した。中坊氏は森永ヒ素ミルク中毒事件の弁護団長などを務めた有名弁護士。NHKのニュースからテレ朝の「ニュースステーション」まで、中坊氏をゲストに呼び、「正義の味方」「平成の鬼平」と持ち上げた。

 しかし、中坊氏率いる住専処理機構は、強引な取り立てをして債権の回収を進めていた。200人の弁護士を使い、「競売にかけるゾ」「逮捕するゾ」と債務者を脅かした。

 実際、私も麻布建物担当の2人の弁護士から東京・中野の事務所に呼び出され、「債権回収の妨害をしたら告発する」と脅かされた。中坊氏たちは債権回収に関して、汚いこともやっていた。

 今でも私は、「整理回収機構が住専などから買い取った麻布グループの債権は159億円」という新聞記事を鮮明に覚えている。全物件を差し出した私の計算では、どう見積もっても700億〜800億円は返しているはず。その差額は? ほかでも、同じような汚い回収をしていると思っていた。

 結局、「正義の味方」の中坊氏は、破綻した大阪・朝日住建の債権回収で、ほかの債権者をだましていたことが明るみになり、02年、詐欺罪で告発された。しかし、中坊氏は弁護士を廃業するということで情状され、起訴猶予処分となった。

 一方、私は住専処理機構の告発により、97年、「強制執行妨害」「公正証書原本不実記載」で逮捕されることになる−。(次回8月21日は「逮捕の真相」編)

 ■渡辺喜太郎(わたなべ・きたろう) 麻布自動車元会長。1934年、東京・深川生まれ。22歳で自動車販売会社を設立。不動産業にも進出し、港区に165カ所の土地や建物、ハワイに6つの高級ホテルなど所有し、資産55億ドルで「世界6位」の大富豪に。しかし、バブル崩壊で資産を処分、債務整理を終えた。現在は講演活動などを行っている。著書に『人の絆が逆境を乗り越える』(ファーストプレス)。

 

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