宝塚歌劇の特色の一つに、座付き作者制度がある。新劇や小劇場演劇、また宝塚を超える126年の歴史を持つ劇団新派にもあるが、すべて専属作者は、宝塚だけ。
草創期の大正、昭和初期や時どきの企画として国内外から話題の演劇人を招へいすることはあった。2011年宙組公演「美しき生涯」は、脚本家の大石静さんの書き下ろし作品、あの「ベルサイユのばら」1974年初演の演出は、2枚目俳優の代名詞だった長谷川一夫さんだったが、どちらも稀有な例だ。
宝塚100年の歴史と人気を支えてきた要因は、タカラジェンヌたちの個性や魅力を熟知する座付き作者の存在といえる。現在の宝塚を背負う座付き作者の1人、谷正純(まさずみ、61)さんは、「(座付き制度という)厳しいけれど安定した環境の中にいればこそ時代に流されず、流行にもこびず、こだわらず、各自がいろいろな傾向の作品を作り続けてきたこと。現実ではない男役の世界をずっと守ってきたことでしょう」と話す。100年継続の分析だ。
谷さんは79年入団。現在では同期生の石田昌也さんと演出部の上から3番目の位置。先輩には76年入団の正塚晴彦さん、77年入団の小池修一郎さん、中村暁さんしかいない。正塚、小池、石田3氏ともども一般会社でいう重役に当たる理事でもある。宝塚音楽学校の演劇講師も兼ねる。
「今の子は競争心が欠けている。多分、学校教育の問題と思う。運動会でもみんなで手を繋いで一緒にゴールみたいな。個性や何くそ精神が乏しい」
競争心を芽生えさせるため、「人前で笑われること、人と違っていること、それは役者としてイイことなんだ! をまず、教えています」という。授業では、セリフを覚える課題を与え、覚えてこなかった生徒は教室から出すスパルタ指導。「それと学校では成績優先だが、入団したら成績では抜てきしないよ」と再三、話して聞かせる。
理事そして座付き作者としてタカラジェンヌの理想型を聞くと、「華があって美しいのは大変結構だが、最終的にいい役者っていうのは性格がいいこと、そこに尽きる」。
2012年に亡くなった宝塚のシンボル、春日野八千代さんから学んだ確信だ。 (演劇コラムニスト・石井啓夫)