◆ことばの話3245「足か脚か」

先々週、琵琶湖岸で、男性の切断された「あし」が見つかるという事件が起きました。この「あし」「太ももからくるぶしまで」のもので、その後、頭部、足首なども見つかっていますが、まだ身元や切断した人物などはわかっていません(5月27日現在)。この「あし」の表記読売テレビでは、
「脚」
としましたが、新聞は揺れているようです。5月22日の朝刊を見ると、
(産経)足
(朝日)両足
(読売)脚、両脚、左脚
(日経)両脚、左足首
(報知)両脚、左足首
毎日新聞は、5月22日の朝刊には記事が見当たらず、5月23日の朝刊を見たら、
(毎日)脚
でした。つまり、
「脚」=読売、日経、毎日、報知
「足」=朝日、産経
ということです。面白かったのは5月22日の「サンケイスポーツ」で、記事は、
「琵琶湖岸で男性の頭部と両脚が相次いで見つかった事件で、頭部と両足は同一人物のものであることがDNA鑑定で判明し・・・・」「左足首」
となっていて、1回目に出てきたのは、
「両脚」
2回目に出てきたのは、
「両足」
で、短い記事でしたが、統一されていませんでした。迷っているのかな?
ちなみに「足」と「脚」の意味の違いに関しては『読売スタイルブック2005』によると、
「足」=一般用語。主に足首から先の部分
「脚」=主に太ももから下の部分
とあります。今回見つかったのは「足首のないもの」だったので、
「『脚』が妥当なのかな」
と思いますが、「脚」よりは「足」の方が意味の範囲が広いので、
「まあ、『足』でも間違いではないのかな」
とも思います。漢字の使い分けは、本当に難しいですね。    
2008/5/23


◆ことばの話3244「地震湖」

2008512日に起きた中国四川省の大地震のニュースで、川が堰(せ)き止められて出来た湖のことを、日本テレビ系列では、
「地震湖」
と呼んでいます。これに対して、5月22日の各新聞は、
(読売新聞)「土砂崩れダム(堰止め湖)」(堰に「せき」とルビ)
(朝日新聞)「土砂ダム」
という呼び方になっています。実は2004年に新潟県中越地震が起きた時に出来た、同じようなものに対して、当初は、
「天然ダム」
と呼んでいたのですが、
「天然という言葉には美しいイメージがあるのでふさわしくない」
という声も起こって、読売新聞は2004年11月13日の朝刊で、
「今後は『土砂崩れダム』に改める」
と記しています。このあたりのことは「平成ことば事情1978『天然ダム』」に書きました。
Google検索(5月23日)では、
「地震湖」=7万9900
「土砂崩れダム」=10700
「土砂ダム」=36400
「堰き止め湖」=825
でした。なお、5月25日のTBS(MBS)の21時前のスポットニュースでは、
「震災湖」
と読んでいました。Google検索(5月26日)では、
「震災湖」=22
でした。
TBSの柴田秀一アナウンサーに聞いてみたところ、
「新潟中越地震の当時に、地元の系列局BSN(新潟放送)と話し合いの上で、『天然ダム』では分かりにくかったり、鉄砲水などで死者が出ているのに『天然』とは、呑気過ぎるとのことから、『震災で出来たダム』『土砂崩れで出来たダム』との表現や、短くは『震災ダム』とするようにした。」
とのことで、「現在もこれ(震災ダム)を使っている」とのことでした。おや?では私の見間違いだったかな。ただ、今回の中国の四川大地震に際しては、外信部に対して、
「『地震で出来た湖・池・、土砂崩れで出来たダム』等、説明の時間があれば、なるべく説明した方がよい」
と言っているそうです。なお5月26日の「はなまるニュース」では、「震災ダム」を使ったそうで、「地震湖」は分りにくいので使わないようにしているそうです。
各局によって、状況は微妙に違うようですね。柴田さん、ありがとうございました。
なお、5月26日付の毎日新聞ネット版のニュースでは、
「地震湖」
でした。また5月27日の朝刊各紙は、
(毎日)「巨大せき止め湖『唐家山ダム』」
(産経)「せき止め湖」
(日経)「せき止め湖」
(日刊)「唐家山・土砂ダム」
(デイリー)「唐家山・土砂ダム」
また、5月27日のお昼のニューステレビ朝日は、
「土砂崩れダム」
でした。また同じくNHKは、
「せき止め湖」
でした。「堰」をひらがなにすると、風邪薬の「せき止め(咳止め)」みたいですねえ・・。
なお5月27日の毎日新聞夕刊は、見出しが、
「地震湖きょうにも爆破」
「地震湖」を使い、本文には、
「土砂崩れによって川がせき止められて出現した巨大せき止め湖『唐家山ダム』」
「(巨大)せき止め湖」を使っており、地図にも、
「せき止め湖(唐家山ダム)」
とあり、特にどれか一つの表現しか使わないと決めているわけではなさそうです。
最後に、TBSが使っているという「震災湖」Google検索(5月27日)すると、
「震災湖」=2910件
でした。
2008/5/27
(追記)
5月28日の産経新聞朝刊では、
「土砂ダム」
という表現を使っていました。おととい(26日)は「せき止め湖」だったのですが。できたら各社、一つの表現にした方がわかりやすいのではないでしょうか?
2008/5/28
(追記2)
5月28日も(27日に続いて)テレビ朝日お昼のニュースは、読みもスーパーも、
「土砂崩れダム」
でした。
2008/5/28
(追記3)
6月4日の毎日新聞朝刊は、
「中国・四川大地震でできた最大のせき止め湖、唐家山ダム」
という表記でした。「巨大」が「最大」になっています。客観評価・比較が出来るようになったということでしょうか。
2008/6/4
(追記4)
6月14日に起きた岩手・宮城内陸地震マグニチュード7,2、震度6強でした。
この地震によって出来た「地震湖」のことを、日本テレビ系列では、
「土砂ダム」
と呼んでいます。新聞各紙、6月17日の夕刊(朝日のみ16日の夕刊。17日夕刊に記事がなかったので)では
<読売>(見出し)「土砂ダム3か所水抜き工事着手」。
      (本文)「土砂崩れダム(せき止め湖)」
<日経>(本文)『土石流などで川が途中でせき止められた「土砂ダム」のうち、』
<毎日>(見出し)『「せき止め湖」開削へ』
      (本文)「せき止め湖」
<産経>(見出し)「土砂ダム水位上昇決壊恐れも」
      (本文)『崩落した土砂が河川に流入してせき止める「土砂ダム」が』
<朝日>(見出し)「土砂ダム懸念11カ所」
      (本文)『土砂崩れによって川がせき止められる「土砂ダム」』
ということで、見出しでは読売、日経、産経、朝日の4紙が、
「土砂ダム」
を使っていて、本文でも読売が「土砂崩れダム」としたほかは「土砂ダム」毎日のみ「せき止め湖」を見出し、・本文ともに使っています。
一方「放送」はバラバラで、テレビ岩手の柴柳アナウンス部長の報告によると、
「岩手宮城内陸地震で、川がせきとめられてできた湖のことを国土交通省は、
『河道閉塞(かどうへいそく)』
と呼んでいるが、
NHK 『せき止め湖』
TBS系列 『震災ダム』
日本テレビ系列 『土砂ダム』
フジ系列 『土砂ダム』
(「土砂ダム」を、ほとんどの方は「平板アクセント」で発音している)」
とのことで、柴柳部長は、
「この『土砂ダム』のアクセントは『砂防ダム』や『防災ダム』のように『ダ』でカギをつける『中高アクセント』でないと気持ちが悪く、テレビ岩手のアナウンサーについては
『中高アクセント』で統一している」
とのことでした。そこで6月20日に開かれた新聞用語懇談会放送分科会で、
「どう呼んでいますか?統一したほうがいいのでは?」「アクセントは?」
と聞いてみたところ、
(TBS)「震災ダム」でやっているが、土砂崩れで出来た湖なので、名称変更を検討中。
(NHK)本当は「せき止められ湖」だが、「せき止め湖」でやっている。
(フジテレビ)四川大地震では「地震湖」だったが、今回の岩手宮城内陸地震では「土砂崩れダム」にそろっている。統一はしていないが。「土砂ダム」も出てくることがある。
(テレビ朝日)新潟中越地震のときに「土砂崩れダム」とし、四川大地震の時には外報と相談してやはり「土砂崩れダム」とし、今回の岩手宮城内陸地震で3たび「土砂崩れダム」とした。スーパーは「土砂ダム」も可。
(テレビ東京)「土砂ダム」だったと思う。「せき止め湖」は地学用語に元々ある言葉。
という意見が聞かれました。
なお、6月23日のテレビ朝日のお昼のニュースでは、
読み「土砂崩れダム」
スーパー「土砂ダム」
でした。NHKは、これまで読みもスーパーも、
「せき止め湖」
です。
2008/6/23


◆ことばの話3243「また来ん春・・・」

5月1日の読売新聞「編集手帳」で、上野動物園のパンダの「リンリン」が死んだ話につなげる際に、中原中也の『また来ん春・・・』という詩を取り上げていたのを見て、「あっ!」と思いました。実は、この中原中也の詩に作曲家の多田武彦氏が曲を付けた合唱曲(『在りし日の歌』」より)を、大学時代に歌っていたからです。しかも演奏会のアンコールで歌ったので、思い出深い曲だったのです。
「また来ん春」の「来(こ)ん」は、「来(き)た」という意味です。
「また、巡ってきた春」
ということです。実は中也は我が子を(長男を。自らの死後、次男を幼くしてなくしている)失っていて、春はまた巡ってきてもあの子が帰ってくるわけではない・・・という悲しい詩なのです。
思えば今年の5月に動物園(きっと上野動物園なんでしょうね)に連れて行った時には、象を見せても鳥を見せても「にゃあ」と言っていたかわいいあの子が、今はもう帰ってこない・・・。
合唱曲で歌った時はまだ20代のはじめで、字面以上の感興は沸きませんでしたが、二人の子を持つ親となって20数年ぶりにこの詩に接してみると、じわじわじわーっと、その悲しみ、いとおしさが湧き出てきますねえ・・・いかん、涙腺が・・・。
2008/5/26


◆ことばの話3242「余震」

四川大地震から10日あまり。5万人を超える人々が亡くなっています。あらためて哀悼の意を表します。
さて、地震発生から1週間の5月19日の夕方のNHKのニュースを見ていた『ミヤネ屋』のスタッフから、
「オオーッ」
とどよめきがおきました。「どうしたの?」と聞くと、
「道浦さん、この人・・・」
と画面を指差すではないですか。そこには、NHKのディレクターらしき人が写っていて、中国の現地にいるジャーナリストの人と電話で話している様子が映し出されていました。
「これがどうかしたの?」
と聞くと、
「ほら、この名前が・・・」
画面端に縦に書かれた、電話で話している中国人ジャーナリストの名前が、
「余震亜」
さんという人だったのです。なんとタイムリーな・・・。
「あ、でも『余震・亜』ではなくて、たぶん『余・震亜』さんだと思うよ」
とは言いましたが、すごいなあ。名は体を表すということなのでしょうか、ね。
2008/5/23


◆ことばの話3241「特撰ろーる」

近くのパン屋さん兼ケーキ屋さんで、こんな広告を見つけました。



この商品名の書き方に注目しました。
「特撰ろーる ひとえ」
この表記には、いろんな工夫がなされています。
まず、普通は「特撰ロール」「ロール」はカタカナで書くところですが、それを高級感を出すため でしょうか、ひらがなで、
「ろーる」
と書いていますね。また「特撰」の上にカタカナで、こう書かれています。
「プレミアム」
英語ですね。漢字の振り仮名(ルビ)に英語のカタカナ書きを記すことで、これまた高級感を出そうとしています。値段も普通のロールケーキよりは、 すこおし高めの設定のようです。昔、坪内逍遥の『当世書生気質』でも、 「漢字に英語のカタカナをルビで振る」ということがありました。たとえば、
「拾得」
という漢字の横に、
「ゲット」
とルビがついているのを見たことがあります。これって「ハイカラ」なんでしょうね。
文字の表記によって商品の持つイメージが変わる、と思われている一例をご紹介しました。
2008/5/23
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スープのさめない距離