第4回:復刊ドットコム 左田野渉氏(後編)

「高くても売れる」本がある

―いろいろと新しいことをやられているのですね。リクエストのデータを出版社に提供するサービスも始めていると伺いました。

オープンマーケティングといいます。投票の男女比、年齢比等詳しいデータの提供やアンケート機能、例えば復刊する場合価格は幾らくらいが良いのか、表紙は新たなものにした方が良いのか、付録を付けるとしたらどんなものが良いのかなど、出版社さんが読者に聞ける機能も提供しています。

復刊オープンマーケティング https://www.fukkan.com/publisher/top

―値段などは安ければこしたことはない、ということにならないのですか。

これが意外にそうでもなくて。むしろ画集などですと、出すならばしっかりしたものにしてほしいので高くても構わない、とか。やはりその作品、作家を本当に好きな人が集まっているので、かなり参考になる答えを聞くことができます。

―復刊してよかったな、という本は?

売れたのはスクウェア・エニックスの『ゼノギアス・公式設定資料集』を自社で復刊したとき。5000円の本が2万4千部があっという間に売れました。今でも毎月100冊売れています。

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あと、弊社が社会的に信用を得ることができたのは『藤子不二雄Ⓐランド』を出せたことですね。149巻もの全集ですし、それとあれだけの大御所の方ときちんと仕事ができたということで

社会的信用がつき、後々赤塚不二夫先生、石ノ森章太郎先生、永井豪先生らに仕事をお願いするときにも役にたちました。

個人的に嬉しかったのは佐々木丸美さんの『雪の断章』。映画化にもなりましたが、そのコレクションを16作も出せました。一番交渉が困難で雪の降り積もる北海道まで行ったこともあり、出せてよかったなと思っています。

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交渉しつづけること。

―復刊するにあたっていろいろと障害があるケースもあるでしょうね。

投票で上位に入っているのに復刊されない本は大抵何かできない理由があります。ここではお話できないことも多いですが。それでも交渉はずっと続けています。著者から直接断られたら仕方が無いのですが、著者に辿り着けないケースも多いので、その場合はずっと続けています。ゼノギアスなどは7、8年かけてやりました。

―かなりしぶとさが必要な仕事ですね。

創業メンバーはかなりしぶといですね。絶対にダメと言われていたものが、時が絶って状況が変わることもあります。例えば、著者がお亡くなりになった後遺族から了承がとれたり。

―左田野さんがいま一番復刊したい本はありますか。

やはり一番希望が多い岡田あーみんさんですね。この間『お父さんは心配症』『ルナティック雑技団』が出ましたが、まだ発刊されていないものも多いので、それは我々の責務かなと思っています。

―左田野さんご自身が今後やりたいことを教えてください。

クラウドファンディングをやってみたいと思っています。意外とまだ上手くできていないのですが。あとはイベントですね。あとは妄想に近いけれど「復刊大賞」とかやってみたいですね。一番簡単なのは、本屋大賞の一部門にしていただくことですが。

―CCCグループとの連携も今後増えそうですね。

いまCCCグループに出版社が増えてきていますね。最近はそれらの社が横の連携を強めてきています。ネコパブリッシングさんと徳間書店さんでCパブリッシングという販売会社を作ったので、弊社も雑誌エスの販売を委託することにしました。それと今月から編集会議に、アニメに強い徳間書店さんの編集者に参加してもらい、徳間書店でできなかった企画を弊社でやるとか。そういった連携が生まれてきています。渋谷から引っ越して徳間書店さんのビルに入ることになったのも、コンテンツが近いということもあるかなと思います。 CCCには事業を立て直しさせてくれたという恩義もあるので、本当はもう少しCCCの事業にも貢献できることは無いかと考えているのですが、なかなかまだできていないですね。どうしても弊社が出すものはマスというよりディープなものが多いですしね。

―左田野さん個人としては、どんな本が好きなのですか。

小説、特にファンタジーが好きです。ロイド・アリグザンダーの『プリデイン物語』が一番好きですね。

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他には『ナルニア国物語』『指輪物語』とか。今年『鹿の王』が本屋大賞を受賞したのは吉報でしたね。日本の女性作家のファンタジー作品ってこんなに凄いんだって、多くの方に知ってもらえるきっかけになったと思います。

本の未来は?

―最後に、左田野さんが考える本の未来について聞かせていただけますか。

僕はあまり変わらないと思っています。紙という媒体はもの凄くログオンしやすいじゃないですか。ただ、環境は変わると思います。僕の娘はもの凄い読書家なのですが「トルストイ。何それ?」という感じで、それよりも電撃文庫などから読書体験が始まっています。必ずしもかつての名作を皆が読む訳ではない。あと、書店もブックカフェや雑貨を並立するなど、次々と新しい形態のものが誕生してきている。あとは絶版マンガ図書館のように市販されていない漫画は全部無料で読ませるなど、出版業界を巡る環境は激変すると思います。

復刊ドットコム

http://www.fukkan.com/

左田野渉

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1958年、北九州市生まれ。1981年、東京都立大学法学部卒業後、日本出版販売株式会社(日販)に入社。1999年、日販の子会社である「ブッキング」を設立し、「復刊ドットコム」の責任者を務める。2009年からCCCグループで社名を「復刊ドットコム」と改めて、その代表を務める。