「若いときは自分の世界観を出してやるとか思っていたんですけど、いろんな人と話をして、いろんな経験をすると、大前提は、登場人物の感情が動く瞬間をしっかり切り取るということなんですけど、一番大事なのは、視聴者に分かってもらうために『我を出さない』というか、無個性になるというか…。凝ったカメラワークやとがった演出も大事ですが、それは本質ではないし、どうすれば視聴者がおもしろがってくれるかを考えるべきだと思います。今は価値観が多様化して、『このドラマは黒です』とハッキリ言うより『黒もあるよ、赤もあるかも、白もあるよ。それが混ざるとグレーになったりするよ』というような多様性もドラマにも必要だと思っていて。だから、あまりエッジを効かせすぎず、視聴者をはじかないドラマを作りたいです。クリエーターというよりサービス業という意識ですかね」
--自身は3月に死去した俳優、渡瀬恒彦さん(享年72)の長男。父親から影響を受けた点は
「実は個性の話って、僕がこの仕事を始めて、おやじとご飯を食べたり酒を飲んだりして、よく言われたことなんです。おやじは『自分で出したいというのは個性ではなくて、組織のためや、誰かのためにという思いでやって、自分を殺して殺してやって、それでもにじみ出るものが個性だ』と。最近、ようやく分かってきたかも」
--父親との思い出は
「おやじは僕の関わった作品のすべてにリポート用紙3枚くらいで、細かく感想を書いてくるんですよ。おやじもこの世界、長いですし『あのシーンはお前のこだわりだろ』って、分かってもらえるんです。そういうところはうれしかったです。うまくいかなかったところも部分も見透かしてくるし…。正直、『何言ってんだよ』って思うことも6割くらいありましたけど(笑)、すごく勉強になりました。おやじにほめられたのは『大奥』の第8話と『クロコーチ』の初回ですね…」
-今回の挑戦は