08ko-057 第57章 実験−鉄イオン
 鉄は身近な金属で,私たちの生活になくてはならないものです。
思えているかな?
1.最も多く地殻中に多く存在する金属元素は何ですか?
アルミニウム
2.製鉄の原料になっている鉱物は何ですか?
赤鉄鋼Feや磁鉄鉱Fe
 鉄イオンには主に2価と3価があり,あまり簡単な金属とはいえません。
  
 この章では,鉄イオンと鉄の性質を調べる実験を紹介します。この実験のポイントは2つです。まず鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの区別ができること,もちろん化学的にです。それから,鉄と酸との反応を理解すること,特に塩酸,硝酸との反応です。

第57章 実験−鉄イオン
<鉄(II)イオンの反応>
1 硫酸鉄(II)七水和物FeSO・7HOまたは硫酸鉄(II)アンモニウム(モール塩)FeSO(NHSO・6HOを試験管に小さじ1杯とり,蒸留水12mLに溶かし,6等分する。
2 それぞれに水酸化ナトリウム水溶液,アンモニア水,ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液,ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液,チオシアン酸カリウム水溶液(アンモニア水以外はすべて0.1mol/L,アンモニア水は1mol/L)を少量加える。


<鉄(III)イオンの反応>
3 6本の試験管に0.1mol/L塩化鉄(III)水溶液を2mLずつとり,それぞれに水酸化ナトリウム水溶液,アンモニア水,ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液,ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液,チオシアン酸カリウム水溶液,(アンモニア水以外はすべて0.1mol/L,アンモニア水は1mol/L)を少量加える。



鉄(II)イオン  鉄(III)イオン 
水溶液の色


水酸化ナトリウムNaOH


アンモニアNH


ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムK[Fe(CN)


ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムK[Fe(CN)


チオシアン酸カリウムKSCN


 実験結果を確認しましょう。
鉄(II)イオンは酸化されやすいので,この実験では硫酸鉄(II)七水和物FeSO・7HOまたはモール塩FeSO(NH)SO・6HOを用い,実験の直前に水溶液にします。
 まず,鉄(II)イオンを含んだ水溶液の色と,鉄(III)イオンを含んだ水溶液の色の違いを確認して下さい。この色で,鉄イオンのどちらであるかを,ある程度判断することができます。
 鉄(II)イオンと塩基との反応で,水酸化鉄(II)の沈殿ができます。
 Fe2+ + 2OH → Fe(OH)↓ 
 また,鉄(III)イオンと塩基との反応で,水酸化鉄(III)の沈殿ができます。
 Fe3+ + 3OH → Fe(OH)↓ 
水酸化鉄(II)と水酸化鉄(III)の色の違いに注意して下さい。
  
 鉄(II)イオンとヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムとの反応では,白色沈殿ができると文献には記載されています。しかし,実際には青白色沈殿がみられます。これは,2価の鉄イオンの一部が空気酸化により3価になったためと考えることができます。

液の色と沈殿の有無

鉄(II)イオン               鉄(III)オン             
水溶液の色 淡緑色 黄褐色
水酸化ナトリウムNaOH 緑白色沈殿 赤褐色沈殿
アンモニアNH 緑白色沈殿 赤褐色沈殿
ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムK[Fe(CN) 青白色沈殿(文献では白色) 濃青色沈殿
ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムK[Fe(CN) 濃青色沈殿 褐色溶液
チオシアン酸カリウムKSCN 変化なし 血赤色溶液
 鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの区別ができるようになったところで,次の実験を行いましょう。今度は,鉄と酸・塩基との反応についてです。 

<鉄と酸・塩基との反応>
4 6mol/L塩酸,6mol/L硝酸,6mol/L水酸化ナトリウム水溶液3mLに,それぞれ鉄片を加える。反応が遅いときには緩やかに加熱する。
5 4で変化のあった溶液を,それぞれ2等分し,一方に ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液を,他方にヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムを少量加える。



変化・溶液の色 [Fe(CN) [Fe(CN)
HCl+Fe



HNO+Fe



NaOH+Fe



 実験結果を確認しましょう。
鉄は塩酸と硝酸に溶けました。ただし,鉄は濃硝酸には溶けないことは知っていますね。不動態になるからです。
 鉄が塩酸や硝酸に溶けると,どのようなイオンになっているのでしょうか。
 塩酸に溶けたときは,溶液にK[Fe(CN)]aqを加えると,青白色沈殿がみられ,K[Fe(CN)]aqを加えると,濃青色沈殿がみられます。このことより,溶液中に存在しているイオンは,鉄(II)イオンであることがわかります。
 硝酸に溶けたときは,溶液にK[Fe(CN)]aqを加えると,濃青色沈殿がみられ,K[Fe(CN)]aqを加えると,濃青色沈殿がみられます。これはおかしいですね。もし鉄(III)イオンであるなら,K[Fe(CN)]aqを加えたときは褐色溶液になるはずです。この結果では,鉄(III)イオンではないし,もちろん鉄(II)イオンでもありません。
 ではどう考えたらよいのでしょうか。もし,鉄(II)イオンと鉄(III)イオンが混ざっていたらどうなるでしょう。硝酸との反応では,まず鉄(II)イオンができると考えられます。しかし,硝酸は酸化作用のある酸です。できた鉄(II)イオンは,さらに酸化されて鉄(III)イオンになるのです。でも,どうやらすべてが鉄(III)イオンにはなっているわけではないようですね。

変化・溶液の色 [Fe(CN) [Fe(CN)
HCl+Fe 気体が発生,淡緑色 青白色沈殿 濃青色沈殿
HNO+Fe 気体が発生,黄褐色 濃青色沈殿 濃青色沈殿
NaOH+Fe 変化なし

 それでは,考察に移りましょう。

 鉄イオンと塩基との反応をイオン反応式で表すと,
Fe2++2OH→Fe(OH)
Fe3++3OH→Fe(OH)
 鉄と塩酸の反応を化学反応式で表すと,
Fe+2HCl→FeCl+H
 鉄と塩酸,硝酸との反応の違いは
HCl…Fe2+(酸化数+2)
NHO…Fe2+(酸化数+2)とFe3+(酸化数+3)
まず,Fe2+ができ,それが酸化されてFe3+になる。
硝酸には酸化作用があるから。
 希硝酸ではなく,濃硝酸に鉄を入れると
鉄は不動態をつくるため,濃硝酸には溶けない。



 鉄の反応をまとめると,次のようになる。
 
 この章の実験は,いろいろな色の沈殿が見られるので楽しいです。鉄は遷移元素です。遷移元素の化合物は有色のものが多いのです。また,遷移元素は,複数の酸化数を示すことが多いのです。鉄はなかなか奥が深そうですね。
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.塩基との反応では,Fe2+は水酸化鉄(II)鉄Fe(OH)の緑白色沈殿,Fe3+は水酸化鉄(III)鉄Fe(OH)の赤褐色沈殿を生じます。
2.ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムK[Fe(CN)]との反応では,Fe3+は濃青色沈殿(紺青)を生じます。
3.ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムK[Fe(CN)]との反応では,Fe2+は濃青色沈殿(ターンブル青)を生じます。
4.チオシアン酸カリウムKSCNとの反応では,Fe3+は血赤色溶液となります。
5.鉄と塩酸との反応では,2価の鉄イオンFe2+ができます。鉄と希硝酸との反応では,2価の鉄イオンFe2+と3価の鉄イオンFe3+の両方ができます。硝酸には酸化作用があるためです。