鉄は身近な金属で,私たちの生活になくてはならないものです。
この章では,鉄イオンと鉄の性質を調べる実験を紹介します。この実験のポイントは2つです。まず鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの区別ができること,もちろん化学的にです。それから,鉄と酸との反応を理解すること,特に塩酸,硝酸との反応です。 |
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実験結果を確認しましょう。 鉄(II)イオンは酸化されやすいので,この実験では硫酸鉄(II)七水和物FeSO4・7H2Oまたはモール塩FeSO4(NH4)2SO4・6H2Oを用い,実験の直前に水溶液にします。 まず,鉄(II)イオンを含んだ水溶液の色と,鉄(III)イオンを含んだ水溶液の色の違いを確認して下さい。この色で,鉄イオンのどちらであるかを,ある程度判断することができます。 鉄(II)イオンと塩基との反応で,水酸化鉄(II)の沈殿ができます。
鉄(II)イオンとヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムとの反応では,白色沈殿ができると文献には記載されています。しかし,実際には青白色沈殿がみられます。これは,2価の鉄イオンの一部が空気酸化により3価になったためと考えることができます。 溶液の色と沈殿の有無
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実験結果を確認しましょう。 鉄は塩酸と硝酸に溶けました。ただし,鉄は濃硝酸には溶けないことは知っていますね。不動態になるからです。 鉄が塩酸や硝酸に溶けると,どのようなイオンになっているのでしょうか。 塩酸に溶けたときは,溶液にK4[Fe(CN)6]aqを加えると,青白色沈殿がみられ,K3[Fe(CN)6]aqを加えると,濃青色沈殿がみられます。このことより,溶液中に存在しているイオンは,鉄(II)イオンであることがわかります。 硝酸に溶けたときは,溶液にK4[Fe(CN)6]aqを加えると,濃青色沈殿がみられ,K3[Fe(CN)6]aqを加えると,濃青色沈殿がみられます。これはおかしいですね。もし鉄(III)イオンであるなら,K3[Fe(CN)6]aqを加えたときは褐色溶液になるはずです。この結果では,鉄(III)イオンではないし,もちろん鉄(II)イオンでもありません。 ではどう考えたらよいのでしょうか。もし,鉄(II)イオンと鉄(III)イオンが混ざっていたらどうなるでしょう。硝酸との反応では,まず鉄(II)イオンができると考えられます。しかし,硝酸は酸化作用のある酸です。できた鉄(II)イオンは,さらに酸化されて鉄(III)イオンになるのです。でも,どうやらすべてが鉄(III)イオンにはなっているわけではないようですね。
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鉄の反応をまとめると,次のようになる。 |
この章の実験は,いろいろな色の沈殿が見られるので楽しいです。鉄は遷移元素です。遷移元素の化合物は有色のものが多いのです。また,遷移元素は,複数の酸化数を示すことが多いのです。鉄はなかなか奥が深そうですね。 この章の実験のポイントは,次の通りです。
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